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第3章 奪還

5 S級の脅威

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 十字聖槍マルグリット開放レベル2【フランベルジュ】。
 マルグリットの繰り出す刺突が肩や脇腹をかすめ、ウルルペクは大げさな声をあげ、くるくる回りながら後退。

「アチッ! アッチィ! お嬢ちゃんのそれ、あちぃよ! こりゃうかつに近づけねェな。コワイコワイ」
 
「ふざけているのか? 不敬な──。後悔するぞ」

 さらに踏み込んだ刺突。ゴッ、と胸に入ったが貫きはしない。
 ウルルペクは仰向けに倒れ、やられたぁー、と手足をばたつかせている。

 マルグリットは跳躍。そのまま串刺しにせんと全体重を乗せて穂先を下に向ける。

「おほっ、ひっかかった!」

 ウルルペクの口から緑色の噴霧。
 ぼわっとマルグリットを包み込み、姿が見えなくなる。

「俺っちの毒霧さあ~。まともに喰らえばどんなヤツもイチコロってね……あら?」

 ボッ、と霧を突き破ってきたマルグリット。槍を風車のように回転させながら毒霧を防いでいた。

「げっ──ヤバ」

 ズン、と落下したマルグリットの槍に腹を貫かれ、ウルルペクは黒い体液を吐き出す。

「はあっ!」

 烈帛の気合いとともに槍を引き抜くと、ウルルペクの身体がゴオッ、と燃え上がる。
 悲鳴をあげながらゴロゴロと地面を転がる魔族。マルグリットは石突きを地面に打ちつけ、さらにその槍の形状を変化させる。

 ガシャン、と柄の上にゴツい砲身が付いた巨大な槍に。
 十字聖槍マルグリット開放レベル3【ガンランス】。
 
 両手で抱えるように構え、照準を合わせ、トリガーに指をかける。

「終わりだ。粉微塵になって滅びるがいい」

──砲撃。その威力の反動で砲身がはね上がり、マルグリットの身体も後ろにズレる。
 だが少女はその負荷をものともせず次弾を装填、そして発射。十字形の閃光が炸裂する。

 続く轟音と衝撃でビジネスホテルがグラグラ揺れる。
 葵はなんとか呼吸を整えながらその様子を見ていた。
 さっきよりは楽になっていた。マルグリットの猛攻が続いているおかげなのだろうか。

 マルグリットの砲撃によって前方の地形は大きく変化。
 建造物は軒並み吹き飛び、地面は大きく抉れている。パラパラと舞った砂や石が落ちてきている中、5発の砲撃を終えたマルグリットの槍は通常の形へと戻る。

「跡形もなく消し飛んだか」

 ふう、と息をつきながら穂先を下げるマルグリット。だがその足元の地面がぐわっとふくれ上がる。

「──なっ」

 体勢を崩し、よろめくマルグリットの足首をつかんだのは地中から現れたウルルペク。
 そのまま高く持ち上げて逆さ吊りにし、長いシッポを首に巻きつけた。

「ぐっ……」

 苦悶の表情のマルグリットをしげしげと眺め、ウルルペクはその頬をベロオ、と舐める。

「さっきのはイイ攻撃だったなぁ~、お嬢ちゃん。全弾喰らってたらヤバかったかもなあ。だけどいつまでも遊んでるわけにはいかねえからぁ。ここまでだ……喰うぜ」

 ウルルペクの口が横にギパア、と裂ける。
 その柔肌のどこにまず牙を突き立てんと逡巡した時だった。
 ウルルペクの蛇のような横っ面に強烈な一撃。

「むがあっっ!?」

 きりもみながら吹っ飛び、マルグリットを放した。

 攻撃はビジネスホテルからだ。玄関前に人影。
 その姿は異様だった。全身黒焦げで左腕には狼の頭部。その口からは砲弾発射後のように煙が立ち昇っている。
 黒焦げの人物は一歩、また一歩と歩き出す。
 次第に黒焦げの部分が人の肌の色を取り戻していく。マルグリットの近くまで来たとき、それははっきりとした戦姫せんきの姿になる。
 
──不死人、鴫野しぎのみさき。
 倒れているマルグリットを見下ろし、みさきはアハッと笑う。

「気味がいいね……ボクをあんな目に遭わせたヤツがさあ、敵にやられそうになってて、よりによってボクなんかに助けられてんだよ」

「不死人……なぜ我を助けた」

「ん~? 葵お兄ちゃんを守るためだよ。それ以外なにがあるっていうのさ。さっきのヤツ、ボクだけじゃしんどそーだからさ。どーしても今やるってんなら構わないけど?」

 魔狼マーナガルムの口を向けながらみさきは首を傾けて聞く。
 マルグリットは即座にいいや、と答えて立ち上がった。

「勇者様をお守りする。貴様との決着は後回しだ」

 ビジネスホテルの中からふたりの様子を見ていた葵とシノは安堵のため息をつく。

「よかった……一時はどうなることかと思いましタヨ。あの鴫野みさきが出てきたときニハ」

「……ああ。魔導書が発動したのは良かったけど、まだ調子が悪くて誰が出てくるかわからなかったからな。あのふたりが力を合わせるならきっとS級だって」

 倒れていたウルルペクはグゥン、と予備動作無しで垂直に起き上がる。
 ベエッ、と折れた牙の混じった血を吐きながら首をコキコキと鳴らす。

「効いたぜえ~、いまの不意打ちは。だがな、可愛らしいお嬢ちゃんがもうひとり増えたところでよぉ、俺っちが喜ぶだけだぜ」

「へえ、良かったね。喜びながら死ねるなんて最高だね。ボクが手伝ってあげるよ」

 左腕を通常の腕へと戻し、みさきはグググ、とクラウチングスタートの姿勢を取る。
 その右足は硬質的な昆虫のような異形の脚へと変化していた。
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