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第3章 奪還

3 ビジネスホテルの戦闘

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 スーパーマーケット内の魔族を殲滅した桐生きりゅうカエデ。
 
「そんじゃ今のうちに結界張るからね~。あ、パイセンたちも手伝ってよ」

 ギターケースから霊符を取り出し、葵とシノに渡す。

「それ全部の出入口に貼っといて。カエデは結界張るからさぁ」

 葵とシノは言われるままに手分けして梵字ぼんじの書かれた霊符を出入口に貼っていく。
 
 カエデの元に戻ると、彼女はズバババ、と印を結びながら真言を唱えている最中だった。

「ノウマク サラバタタ ギャテイ ビャク サラバ ボッケイ ビャク サラバタ タラタ センダマ カロシャダ ケン ギャキギャキ サラバビキンナン ウン タラタ カン マン」

 それを繰り返すと店内の中心に円形の模様が広がり、外側には梵字。中央には恐ろしげな顔の鬼神の姿が浮かび上がった。

「まあここは不動ちゃんの結界で十分っしょ。これでも滅多なことじゃ破れないから。人が住む所はもっと手間かけたヤツ張るからさ」


 📖 📖 📖


 スーパーマーケットに結界を張ったあとは、駅前のビジネスホテルへ。

 前回の探索では寄っていなかった場所。学校が崩壊した今、20人以上が寝泊まりする場所はそれなりの施設が必要だ。

「ん~、なかなかいいトコじゃん。イヤな魔族の気配は感じるけどさ。まあさっきみたいにブチのめせばいいよね」

 カランカランと魔族の体液がついた金属バットを引きずりながらカエデはビジネスホテルを見上げる。

 ここまでの道中にも散発的に魔族に遭遇したが、カエデひとりで問題なく撃退。 
 ホテルの入口からはさっそくC級魔族の群れがゾワゾワと這うように出てきていた。

「むこうも気付いたみたいだね~。ようし、張り切っちゃうからさ、報酬の上乗せヨロシクねー、葵パイセン!」

 梵字付きのバットを振り回しながらカエデは突っ込んでいく。
 その勇ましい後ろ姿を見ながらシノが葵に聞く。

「さっきから報酬、報酬と言っていますが、なんのことでショウ?」

「……作品どおりの性格ってことだろう。小説の中でカエデは依頼の報酬にかなりがめついんだけど……まさかこんなところで俺にまで言ってくるとは思わなかったな」

「そういうことでしタカ。でもどうするんでスカ? そんなお金なんて持ってないですし、いくら無人とはいえ銀行から持ち出すわけにもいかないでショウ」

「当たり前だろ。ああ言ってるのもキャラの設定上のことだから放っていても問題ないさ。そもそもこんな状況でどこで金を使うってんだ」

 そんな話をしている間にもカエデは入口付近の魔族を殲滅。

「パイセン、荷物持ってついてきてよ~」

 バットで肩を叩きながらビジネスホテルの中へ。
 葵はカエデのギターケースを持ち、シノもそれを追うように走った。

 ビジネスホテルの中──。
 広いロビーの奥にはずんぐりとした大型の魔族。
 四つ足で甲羅を背負った亀のような姿。腹の下からゴロゴロとたくさんの丸い玉が転がり、それは次々とC級魔族へ変化していく。

「うえっ、キモ~。もっと増える前に早めにやっつけちゃおう」

 群がるC級魔族を蹴散らし、カエデは跳躍。
 
「臨 兵 闘 者 皆 陣 烈 在 前」

 宙で九字切りを行い、亀の魔族の背中に金属バットを叩きつける。だが甲高い音とともにバットは弾かれ、床をカラカランと転がる。

「硬い~! なにコイツ、ムカつく!」

 左手をプラプラさせながらカエデは後退。
 亀の魔族からの反撃はないが、やはりゴロゴロと腹の下から玉を放出する。

 玉から変化した魔族に囲まれるカエデ。だが慌てる様子はなく、葵に向かってブンブンと手を振る。

「パイセン~! それちょうだい!」

 葵は言われるままにギターケースを床を滑らせるように投げた。

 魔族の隙間をうまく通り抜け、ギターケースはカエデの元へ。それをバカッと乱暴に蹴りながら開け、取り出したのは──銃。
 グロック18C。ガスブローバックのいわゆるガスガンだが、弾には退魔処理が施されている。

 パパパパ、とフルオート掃射。カエデを囲んでいた魔族たちは穴だらけになって崩壊。

 弾切れになった銃を放り投げ、さらにギターケースからジャラアアアッ、と鎖を引き出した。
 鎖には所々に霊符がくくりつけてある。それは生き物のように亀の魔族に巻きつき、締め上げた。

 亀の魔族はグオオオ、と苦しむような叫びをあげ、その巨体を揺らすが鎖の拘束を解くことができず、玉を生み出すこともできない。

「オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン」

 ズバババ、と素早く印を結びながら真言を唱えるカエデ。
 鎖は光りながらさらに締めつけ、魔族の身体にヒビ割れが入る。
  
「うしっ、トドメ~ッ!」

 走るカエデ。落とした金属バットを拾い上げ、喝、と気合いの声で振り下ろす。
 今度は弾かれず、カエデのバットは魔族の身体に入ったヒビの間にめり込んだ。

 亀の魔族はついに砕け、断末魔とともに崩壊し消えていった。

「スゴい……あれはA級魔族でしタヨ。桐生カエデ……見た目や言動からは想像できない強さでスネ」

 シノが感嘆の声をあげると、カエデがVサインでこちらに応える。
 
「これで建物内のイヤな気配は消えたね。それじゃ急いで結界を張る準備するから。今度のは時間かかるから、もし敵が来たら別の戦姫せんきで対応してよ~。パイセンよろしく~」

 軽い調子で言い、カエデは必要なモノ揃えてくるからと倉庫のほうへ向かった。
 
 
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