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第2章 壊れていく世界
9 生存者
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ショッピングモール内の魔族はこれで全滅したようだ。新手が現れる様子もない。
落ちたついでに1階をすべて見回ったが、人間の姿はない。あれほどの数の魔族がいたことから、生存者がいる可能性は絶望的だと葵は思っていた。
「でも万が一ってこともある。2階も見てみよう」
映画館のあった場所は崩壊。手前にあった階段も途中で崩れていたが、その横のエスカレーターは無事だ。
葵たちは動かないエスカレーターを登り、再び2階へ。
右側の通路を進み、アミューズメントパークのエリア。
UFOキャッチャーやプリクラ、アーケードゲームやメダルゲームの筐体の横を通り過ぎる。
ついさっきまで大勢の人が遊んでいたかのような、見慣れた風景。これも魔族の幻術の効果なのだろうか。
ガタン、と物音がして3人は身構える。
奥のほうにカウンター。さらに奥にはスタッフルーム。その横にもドアがあるが、音はそこから聞こえてきたようだ。
「お二人はそこで待っていて下さい。魔族の気配は感じられませんが……また小型かもしれません。わたくしが確認します」
結が近づき、ズラア、と太刀を抜く。
鞘を捨てると同時に一閃。ドアが斜めに切り裂かれる。
部屋の中……段ボールが山積みになっている。中身はヌイグルミやフィギュアの箱。どうやらこの部屋は景品の在庫を置いておく倉庫のようだ。
山積みの段ボールの一部がバラバラと崩れた。
結が太刀の切っ先を向けると、そこには──小学生低学年ぐらいの女の子がふたり。
ひっ、と声を出したまま動けなくなっている。
葵とシノは慌ててふたりの少女のもとへ駆け寄った。
📖 📖 📖
「よくあんな所で無事でいてくれた……」
葵は学校へと戻る途中で何度もそうつぶやいた。
ふたりの少女は怯えきっていて名前も名乗れない。断片的に姉妹であることだけはシノが聞き出せた。
おそらく親と一緒に遊びに来ていたのだろう。親のほうの生存の可能性は限りなくゼロに近いが、そんなことはわかっていても絶対に口に出せなかった。
葵たちは学校へ戻る途中でも探索を行った。
そして乗り捨てられたタクシーの中から中年のサラリーマン、さらに駅のトイレから中学生男子。住宅地で若い主婦を見つけ出した。
📖 📖 📖
「今日だけで5人も生存者を見つけることができた。この調子で街の探索を続けよう。日数が過ぎるほど見つけるのが難しくなるだろうから」
学校へ戻り、葵はシノと瑞希、立山と話し合う。結は召喚時間切れですでに本へと戻った。
体育館は前回の魔族の襲撃で天井が穴だらけになってしまったので、校舎のほうに移動している。
「見つけてきた人たちの様子はどうでスカ? なにか有力な情報を得られそうでスカ?」
「……ううん、ダメ。まだ混乱してるし、そうじゃない人もバケモノが襲ってきて大勢の人が死んだとしか……それ以上のことはわからないみたい」
生存者は隣の教室で休んでいる。
シノの質問に、様子を見てきた瑞希が首を横に振りながら答えた。
葵はでも、とそのあとに続ける。
「少しは希望が出てきた。学校からまだ離れた場所を探せば、もっと生存者が見つかるかもしれない」
学校周辺ではひとりも見つからなかった生存者が、やや離れた場所では見つけることができた。
このまま街の外のほうへと向かえば、もっと多くの生存者に出会えるかもしれない。
「ひょっとしたら、このバケモノ騒ぎも地域を限定されたものかも。市外を目指して探索ってのは悪くないと思う」
楽観的な考えだが、葵は皆を元気づけるためにもそう言った。
「そんなわけないだろう。通信もライフラインも断絶しているんだ。数日過ぎても救助隊が来ない。地元の消防がダメなら国の自衛隊とか。それすら機能してないなら、海外の軍が動くはずなんだ。でも、この状況……そんなものも期待できない」
頭をワシャワシャかきむしりながら立山が震えた声を出した。
「でもこのままここでじっとしていてもなにもわからないし、なにも解決しまセン。葵サンも魔導書を扱う力が増していマス。ここは積極的に動くべきデス」
「ぼ、僕は、僕はそんな怪しげな本の力なんて信用しない。そんな書籍化作家でもない、ランキング入りもしてない作家が書いたものなんて……」
「その怪しげな本に何度も助けられているでショウ。葵サンとアンカルネ・イストワールはこの世界に残された最後の希望なのかもしれないのでスヨ」
「僕は認めないぞ……僕のほうが優れた作品を書けるのに……何千、何万の読者に読まれてきたのは僕の作品なんだ。それなのに、どうして葵君なんかが……」
立山の敵視するような視線はシノではなく葵に向けられる。
葵はどう言っていいのかわからなかった。
こんな状況にならなければ立山は書籍化作家として小説を書き続けていただろう。
コミカライズやアニメ化といった輝かしい未来もあったかもしれない。それがわずかな時間で周りの環境が激変してしまった。
立山が悲観的になるのも無理もない。もし街から外の状況がここと同じなら、いくら魔族を倒しても意味がないのではないか。
葵が下を向き沈黙していると、瑞希がバン、と背中を叩いてきた。
「葵、あんたがしっかりしなきゃ。わたしはあんたを信じてる。その魔法の本のことも。今日、見つけてきた人たちはあんたがいなきゃ死んでたかもしれないんだから」
葵は顔を上げる。瑞希の言う通りだ。
5人だけだが人の命を救うことができた。決してムダなことではない。
瑞希の顔を見ながら葵はうなずいた。
落ちたついでに1階をすべて見回ったが、人間の姿はない。あれほどの数の魔族がいたことから、生存者がいる可能性は絶望的だと葵は思っていた。
「でも万が一ってこともある。2階も見てみよう」
映画館のあった場所は崩壊。手前にあった階段も途中で崩れていたが、その横のエスカレーターは無事だ。
葵たちは動かないエスカレーターを登り、再び2階へ。
右側の通路を進み、アミューズメントパークのエリア。
UFOキャッチャーやプリクラ、アーケードゲームやメダルゲームの筐体の横を通り過ぎる。
ついさっきまで大勢の人が遊んでいたかのような、見慣れた風景。これも魔族の幻術の効果なのだろうか。
ガタン、と物音がして3人は身構える。
奥のほうにカウンター。さらに奥にはスタッフルーム。その横にもドアがあるが、音はそこから聞こえてきたようだ。
「お二人はそこで待っていて下さい。魔族の気配は感じられませんが……また小型かもしれません。わたくしが確認します」
結が近づき、ズラア、と太刀を抜く。
鞘を捨てると同時に一閃。ドアが斜めに切り裂かれる。
部屋の中……段ボールが山積みになっている。中身はヌイグルミやフィギュアの箱。どうやらこの部屋は景品の在庫を置いておく倉庫のようだ。
山積みの段ボールの一部がバラバラと崩れた。
結が太刀の切っ先を向けると、そこには──小学生低学年ぐらいの女の子がふたり。
ひっ、と声を出したまま動けなくなっている。
葵とシノは慌ててふたりの少女のもとへ駆け寄った。
📖 📖 📖
「よくあんな所で無事でいてくれた……」
葵は学校へと戻る途中で何度もそうつぶやいた。
ふたりの少女は怯えきっていて名前も名乗れない。断片的に姉妹であることだけはシノが聞き出せた。
おそらく親と一緒に遊びに来ていたのだろう。親のほうの生存の可能性は限りなくゼロに近いが、そんなことはわかっていても絶対に口に出せなかった。
葵たちは学校へ戻る途中でも探索を行った。
そして乗り捨てられたタクシーの中から中年のサラリーマン、さらに駅のトイレから中学生男子。住宅地で若い主婦を見つけ出した。
📖 📖 📖
「今日だけで5人も生存者を見つけることができた。この調子で街の探索を続けよう。日数が過ぎるほど見つけるのが難しくなるだろうから」
学校へ戻り、葵はシノと瑞希、立山と話し合う。結は召喚時間切れですでに本へと戻った。
体育館は前回の魔族の襲撃で天井が穴だらけになってしまったので、校舎のほうに移動している。
「見つけてきた人たちの様子はどうでスカ? なにか有力な情報を得られそうでスカ?」
「……ううん、ダメ。まだ混乱してるし、そうじゃない人もバケモノが襲ってきて大勢の人が死んだとしか……それ以上のことはわからないみたい」
生存者は隣の教室で休んでいる。
シノの質問に、様子を見てきた瑞希が首を横に振りながら答えた。
葵はでも、とそのあとに続ける。
「少しは希望が出てきた。学校からまだ離れた場所を探せば、もっと生存者が見つかるかもしれない」
学校周辺ではひとりも見つからなかった生存者が、やや離れた場所では見つけることができた。
このまま街の外のほうへと向かえば、もっと多くの生存者に出会えるかもしれない。
「ひょっとしたら、このバケモノ騒ぎも地域を限定されたものかも。市外を目指して探索ってのは悪くないと思う」
楽観的な考えだが、葵は皆を元気づけるためにもそう言った。
「そんなわけないだろう。通信もライフラインも断絶しているんだ。数日過ぎても救助隊が来ない。地元の消防がダメなら国の自衛隊とか。それすら機能してないなら、海外の軍が動くはずなんだ。でも、この状況……そんなものも期待できない」
頭をワシャワシャかきむしりながら立山が震えた声を出した。
「でもこのままここでじっとしていてもなにもわからないし、なにも解決しまセン。葵サンも魔導書を扱う力が増していマス。ここは積極的に動くべきデス」
「ぼ、僕は、僕はそんな怪しげな本の力なんて信用しない。そんな書籍化作家でもない、ランキング入りもしてない作家が書いたものなんて……」
「その怪しげな本に何度も助けられているでショウ。葵サンとアンカルネ・イストワールはこの世界に残された最後の希望なのかもしれないのでスヨ」
「僕は認めないぞ……僕のほうが優れた作品を書けるのに……何千、何万の読者に読まれてきたのは僕の作品なんだ。それなのに、どうして葵君なんかが……」
立山の敵視するような視線はシノではなく葵に向けられる。
葵はどう言っていいのかわからなかった。
こんな状況にならなければ立山は書籍化作家として小説を書き続けていただろう。
コミカライズやアニメ化といった輝かしい未来もあったかもしれない。それがわずかな時間で周りの環境が激変してしまった。
立山が悲観的になるのも無理もない。もし街から外の状況がここと同じなら、いくら魔族を倒しても意味がないのではないか。
葵が下を向き沈黙していると、瑞希がバン、と背中を叩いてきた。
「葵、あんたがしっかりしなきゃ。わたしはあんたを信じてる。その魔法の本のことも。今日、見つけてきた人たちはあんたがいなきゃ死んでたかもしれないんだから」
葵は顔を上げる。瑞希の言う通りだ。
5人だけだが人の命を救うことができた。決してムダなことではない。
瑞希の顔を見ながら葵はうなずいた。
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