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第2章 壊れていく世界
5 グォ・ツァイシー
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今回の周辺探索では生存者を発見することはできなかった。
大量の魔族を倒すことはできたが、いたずらに家屋を破壊しただけの気もする。
申し訳ない気もあったが、商店やコンビニから食料や水を確保することはできた。4人分には十分な量だ。
「やっぱりもう生き残っている人間はいないのかも……」
瑞希が体育館の中でうずくまって肩を震わせている。
瑞希や自分の家までは探索していないが、たしかに生きている人間を見つけるのは難しいかもしれない。
魔族の幻術によるものだということだが、街並みはきれいなままだった。ただ人間だけが見当たらない。まさにゴースタウンといった感じだった。
「いや、どこか遠くの避難所にいるかもしれない。まだ学校の近くしか見ていないから」
気休めだとはわかっていたが、葵はそう声をかける。瑞希はうん、と返事をしたが顔はあげなかった。
外部の情報がなにひとつわからないというのが不安だ。
スマホのバッテリーが切れそうだが、充電しようにも電気が止まっている。モバイルバッテリーをどこかで入手したにしろ、電話もネットも通じないなら意味はないのだが。
「学校を拠点にして、少しずつでも歩いて地道に生存者を探すしか方法はない。そこから新しい情報が得られるかも」
明日の計画を皆に話し、葵はとりあえず休むことにした。
戦姫ふたりを喚び出した影響か、かなり疲労していた。
マットの上に横になるとすぐに睡魔に襲われ、意識を失うように深い眠りについた。
📖 📖 📖
葵は上からの衝撃音と建物の揺れによって飛び起きた。
ガンッ、ゴッ、ガガンッ、と体育館の屋根になにかがぶつかっているような音だ。
「なんだっ、魔族の襲撃なのか? 結界があるはずなのに!」
シノを見つけ、確認する。
シノは瑞希に寄り添いながら首を横に振る。
「いえ、結界は破られていまセン。これは空からの攻撃デス。魔族自身は結界を突破できまセン。だから空から投石による攻撃をしかけてきたのでショウ」
シノが解説している間にも体育館の天井を突き破ってなにかが落ちてきた。
瑞希と立山が悲鳴をあげる。
体育館の床にめり込んだのは大きなコンクリート片。どこかの建物の残骸だろうか。
「くそ、あいつらの落とす石やコンクリートは結界じゃ防げないのか。このままじゃ……」
体育館の天井が穴だらけになり投石を防ぐものがなくなる。いや、天井自体が崩落して下敷きになるかもしれなかった。
「戦うしかない! みんなはここに残っててくれ!」
葵は体育館の外へ飛び出す。
時間は早朝。朝焼けの空。学校上空にはあの黒いぐにぐにとしたバケモノども。
昨日と違っているのは背に羽が生えているところ。しかもその数……200はくだらない。
ゲームやマンガに出てきそうな悪魔そっくりな姿とその数に、葵はぞっとする。
飛空タイプの魔族たちはそれぞれ手に抱えている大きな石やコンクリート片をバラバラ落としていく。
衝撃音とともにガラガラと天井の一部が崩れた音が聞こえた。
「くそっ、ヤメろっ!」
葵は本の表紙に手をかざす。
あの数にあの高度。スピードもありそうだ。リッカの鉄拳飛環烈迅砲では対応しきれない。
「アンカルネ・イストワール、発動」
表紙の魔法陣から光が回転しながら上昇。その中には──弓を背負った軽装の少女。
スカイブルーの髪を高い位置でひとつにまとめたポニーテール。モデルのような長身細身スタイルで、ショートパンツからは健康的なまぶしい脚がこれでもかと主張していた。
グォ・ツァイシー。17歳。
スタッ、と着地した彼女は無言で矢をつがえ、ヒュヒュヒュッと連続弓射。
矢は狙いたがわず3体の魔族に命中。ギャアアアと墜落して結界に触れ、消滅した。
「……そこをどけ。ジャマだ」
キッとにらまれ、葵はご、ごめんと体育館入口まで戻る。
空を飛ぶ魔族たちはツァイシーめがけて石を投げつけてきた。
ツァイシーの身体がブワッと青色のオーラに包まれた。
ギリギリと弦を引きしぼり、力を溜めている。ズズン、ドン、と数歩先に次々と石が落下していくが、彼女は動揺しない。
魔族たちの投石の命中率はそれほどではない。だが、この数……いつかは命中してしまうだろう。
「ああっ、あぶないっ!」
ひときわ大きな石がツァイシーの頭上に迫っている。ここでヒュオッ、と溜めの一矢が放たれた。
矢は青い軌跡を描きながら石を粉々にし、勢いを衰えさせないままに魔族へ命中。直線状にあった他の魔族もまとめて貫いた。その数6体。
青いオーラは消え、シュウウ、とツァイシーの身体から湯気のようなものが立ち昇る。
神仙気──。体内の気を独自の呼吸法によって高め、身体能力をアップさせる技。
そして星をも射抜くといわれた神弓【天穹】と無限の矢を生み出す矢筒【宝箭管】。
攻めてくる異民族軍一万六千に対し、たったひとりで砦を守り、撃退した伝説の傭兵。それがグォ・ツァイシーだ。
「散れっ、固まるな、オマエらっ」
飛行タイプ魔族のひとりが指示を出している。昨日見た同じ人型の姿。指揮官のB級魔族でまちがいない。
魔族たちがバアアア、と横に広がった。ツァイシーの貫通する矢を警戒したのだろう。だが──。
ツァイシーは3本同時に矢をつがえ、放つ。しかも目に止まらぬほどの早さで次々と。
矢は扇状に飛び、横に広がった魔族たちが大量に射抜かれて落下。結界に触れて蒸発していく。
瞬く間に半数の魔族が撃ち落とされた。
指揮官のB級魔物はあわてて退却を命じる。
「逃がさない──」
ツァイシーの身体から神仙気が発せられる。
全身が青いオーラに包まれ、弓を構えるとさらにその勢いが増した。
ギイイイイ、と青いオーラは渦を巻きながら鏃に収束されていく。そしてツァイシーの放った矢は凄まじい速さでB級魔族へ命中。
キュドッッ、と爆発を起こし、B級魔族は跡形もなく消えた。さらにそこから5方向に青い閃光が飛ぶ。
残りの飛行タイプの魔族を蹂躙するように青い閃光は空中を舞う。
魔族たちの絶叫、ちぎれ飛ぶいびつな手足、頭部。
落下した魔族の残骸は結界に触れてバラバラと消滅。あれほどいた魔族の集団は1体も残らず全滅した。
姿が隠れるほどの湯気を出しながらツァイシーが戻ってくる。眼光鋭く、険しい表情。
またなんか怒られるのか、と葵は身構えたが──ダダダダ、と走ってきたツァイシーはタックルするように葵に抱きついた。
「ふ、ふえええぇ。怖かった~。でもわたし、がんばったよ。葵ちゃんを守るためだもの。ねえ、褒めてよ~」
あの弓を構えた凛々しい姿と鋭い目つきから一転、怯えた子犬のように震え、潤んだ瞳で見上げている。
「葵サン、無事に魔族は撃退できたのでスネ」
シノと瑞希、立山が体育館から出てくると、ツァイシーは葵を思い切り突き飛ばす。
「貴様、いくら雇い主といえどなれなれしくするな。次にわたしに指一本でも触れてみろ。容赦なく射殺すぞ」
大量の魔族を倒すことはできたが、いたずらに家屋を破壊しただけの気もする。
申し訳ない気もあったが、商店やコンビニから食料や水を確保することはできた。4人分には十分な量だ。
「やっぱりもう生き残っている人間はいないのかも……」
瑞希が体育館の中でうずくまって肩を震わせている。
瑞希や自分の家までは探索していないが、たしかに生きている人間を見つけるのは難しいかもしれない。
魔族の幻術によるものだということだが、街並みはきれいなままだった。ただ人間だけが見当たらない。まさにゴースタウンといった感じだった。
「いや、どこか遠くの避難所にいるかもしれない。まだ学校の近くしか見ていないから」
気休めだとはわかっていたが、葵はそう声をかける。瑞希はうん、と返事をしたが顔はあげなかった。
外部の情報がなにひとつわからないというのが不安だ。
スマホのバッテリーが切れそうだが、充電しようにも電気が止まっている。モバイルバッテリーをどこかで入手したにしろ、電話もネットも通じないなら意味はないのだが。
「学校を拠点にして、少しずつでも歩いて地道に生存者を探すしか方法はない。そこから新しい情報が得られるかも」
明日の計画を皆に話し、葵はとりあえず休むことにした。
戦姫ふたりを喚び出した影響か、かなり疲労していた。
マットの上に横になるとすぐに睡魔に襲われ、意識を失うように深い眠りについた。
📖 📖 📖
葵は上からの衝撃音と建物の揺れによって飛び起きた。
ガンッ、ゴッ、ガガンッ、と体育館の屋根になにかがぶつかっているような音だ。
「なんだっ、魔族の襲撃なのか? 結界があるはずなのに!」
シノを見つけ、確認する。
シノは瑞希に寄り添いながら首を横に振る。
「いえ、結界は破られていまセン。これは空からの攻撃デス。魔族自身は結界を突破できまセン。だから空から投石による攻撃をしかけてきたのでショウ」
シノが解説している間にも体育館の天井を突き破ってなにかが落ちてきた。
瑞希と立山が悲鳴をあげる。
体育館の床にめり込んだのは大きなコンクリート片。どこかの建物の残骸だろうか。
「くそ、あいつらの落とす石やコンクリートは結界じゃ防げないのか。このままじゃ……」
体育館の天井が穴だらけになり投石を防ぐものがなくなる。いや、天井自体が崩落して下敷きになるかもしれなかった。
「戦うしかない! みんなはここに残っててくれ!」
葵は体育館の外へ飛び出す。
時間は早朝。朝焼けの空。学校上空にはあの黒いぐにぐにとしたバケモノども。
昨日と違っているのは背に羽が生えているところ。しかもその数……200はくだらない。
ゲームやマンガに出てきそうな悪魔そっくりな姿とその数に、葵はぞっとする。
飛空タイプの魔族たちはそれぞれ手に抱えている大きな石やコンクリート片をバラバラ落としていく。
衝撃音とともにガラガラと天井の一部が崩れた音が聞こえた。
「くそっ、ヤメろっ!」
葵は本の表紙に手をかざす。
あの数にあの高度。スピードもありそうだ。リッカの鉄拳飛環烈迅砲では対応しきれない。
「アンカルネ・イストワール、発動」
表紙の魔法陣から光が回転しながら上昇。その中には──弓を背負った軽装の少女。
スカイブルーの髪を高い位置でひとつにまとめたポニーテール。モデルのような長身細身スタイルで、ショートパンツからは健康的なまぶしい脚がこれでもかと主張していた。
グォ・ツァイシー。17歳。
スタッ、と着地した彼女は無言で矢をつがえ、ヒュヒュヒュッと連続弓射。
矢は狙いたがわず3体の魔族に命中。ギャアアアと墜落して結界に触れ、消滅した。
「……そこをどけ。ジャマだ」
キッとにらまれ、葵はご、ごめんと体育館入口まで戻る。
空を飛ぶ魔族たちはツァイシーめがけて石を投げつけてきた。
ツァイシーの身体がブワッと青色のオーラに包まれた。
ギリギリと弦を引きしぼり、力を溜めている。ズズン、ドン、と数歩先に次々と石が落下していくが、彼女は動揺しない。
魔族たちの投石の命中率はそれほどではない。だが、この数……いつかは命中してしまうだろう。
「ああっ、あぶないっ!」
ひときわ大きな石がツァイシーの頭上に迫っている。ここでヒュオッ、と溜めの一矢が放たれた。
矢は青い軌跡を描きながら石を粉々にし、勢いを衰えさせないままに魔族へ命中。直線状にあった他の魔族もまとめて貫いた。その数6体。
青いオーラは消え、シュウウ、とツァイシーの身体から湯気のようなものが立ち昇る。
神仙気──。体内の気を独自の呼吸法によって高め、身体能力をアップさせる技。
そして星をも射抜くといわれた神弓【天穹】と無限の矢を生み出す矢筒【宝箭管】。
攻めてくる異民族軍一万六千に対し、たったひとりで砦を守り、撃退した伝説の傭兵。それがグォ・ツァイシーだ。
「散れっ、固まるな、オマエらっ」
飛行タイプ魔族のひとりが指示を出している。昨日見た同じ人型の姿。指揮官のB級魔族でまちがいない。
魔族たちがバアアア、と横に広がった。ツァイシーの貫通する矢を警戒したのだろう。だが──。
ツァイシーは3本同時に矢をつがえ、放つ。しかも目に止まらぬほどの早さで次々と。
矢は扇状に飛び、横に広がった魔族たちが大量に射抜かれて落下。結界に触れて蒸発していく。
瞬く間に半数の魔族が撃ち落とされた。
指揮官のB級魔物はあわてて退却を命じる。
「逃がさない──」
ツァイシーの身体から神仙気が発せられる。
全身が青いオーラに包まれ、弓を構えるとさらにその勢いが増した。
ギイイイイ、と青いオーラは渦を巻きながら鏃に収束されていく。そしてツァイシーの放った矢は凄まじい速さでB級魔族へ命中。
キュドッッ、と爆発を起こし、B級魔族は跡形もなく消えた。さらにそこから5方向に青い閃光が飛ぶ。
残りの飛行タイプの魔族を蹂躙するように青い閃光は空中を舞う。
魔族たちの絶叫、ちぎれ飛ぶいびつな手足、頭部。
落下した魔族の残骸は結界に触れてバラバラと消滅。あれほどいた魔族の集団は1体も残らず全滅した。
姿が隠れるほどの湯気を出しながらツァイシーが戻ってくる。眼光鋭く、険しい表情。
またなんか怒られるのか、と葵は身構えたが──ダダダダ、と走ってきたツァイシーはタックルするように葵に抱きついた。
「ふ、ふえええぇ。怖かった~。でもわたし、がんばったよ。葵ちゃんを守るためだもの。ねえ、褒めてよ~」
あの弓を構えた凛々しい姿と鋭い目つきから一転、怯えた子犬のように震え、潤んだ瞳で見上げている。
「葵サン、無事に魔族は撃退できたのでスネ」
シノと瑞希、立山が体育館から出てくると、ツァイシーは葵を思い切り突き飛ばす。
「貴様、いくら雇い主といえどなれなれしくするな。次にわたしに指一本でも触れてみろ。容赦なく射殺すぞ」
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