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15 デッサウ砦

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 さらに三日をかけ、デッサウ砦が見える距離まで進軍。
 砦の左右は険しい岩山。回り込むのは不可能。

 陥とすには正面から突破しなければならない。
 その正面には平野が広がっている。
 ロストック軍お得意の野戦を仕掛けてくるはずだ。

 軍全体から緊張が伝わってくる。
 ここで戦うのは間違いなくロストックの正規軍。
 今までのようにはいかないだろう。

 砦からロストックの旗をなびかせて軍が出てくるのが見えた。

 巻き上がる砂埃。地を揺るがす馬蹄の音。
 騎馬の大軍だ。

「ど、どう対抗する? ザールラントの正規軍の多くは歩兵だ。あの騎馬の大軍相手は無理だ」

 ルイス卿が青い顔をしながらもう逃げ腰になっている。
 わたしは手を上げて兵たちに指示を出しながらルイス卿にも伝えた。

「正規軍はまず後方で待機。あの騎馬隊はアンスバッハ軍が相手をします。敵の前面が崩れれば前進を開始して下さい」
「わ、わかった。それから」
「崩れた騎馬隊は必ず左右に別れます。そこを狙って弓兵で攻撃を。それは頼めますね」
「う、うむ。やってみる」

 アンスバッハ軍三千のうち騎馬隊は一千程。
 だがそれだけに精鋭無比。選び抜かれた強者揃いだ。

「フリッツは歩兵に長槍を持たせて正規軍の前に並べろ。決して側面や背後に回り込ませるな」
「分かりました」

 歩兵の事はフリッツに任せ、わたしは騎馬一千を率いて走り出した。

 敵の数はゆうに三、四倍。
 だが構わない。敵の正面からまっすぐに突っ込んだ。
 
 激しいぶつかり合い。
 ゴバッ、と敵の先頭数騎が倒れる。

 目の前の敵を貫き、薙ぎ払い、叩き潰す。
 鮮血を撒き散らしながら敵中へ飛び込んだ。

 数の多さを頼りに敵騎兵が包み込んでくる。
 が、それも寄せ付けないほどの突進力。

 アンスバッハ騎馬隊の進路方向から敵軍が崩れ始めた。

 その勢いを止められない敵軍はついにふたつに分断された。

 反転し、さらに叩く。たまらず敵軍はバアア、と左右に広がり始めた。

 そこへザールラント正規軍の弓射。
 ザアアア、と矢が降り注ぐ。

 精度も威力も大した事はないが、動揺させるには十分だった。

 フリッツ率いる長槍の歩兵隊も前に出てきた。
 わたしの騎馬隊と挟撃される形になり、敵軍はさらに混乱。

 次々と敵兵は討ち取られていくが、まだ数は多い。
 この混乱の隙を狙い、わたしは敵将を探す。この大軍なので複数いるかもしれない。

 いた。角兜の大柄な男。あれが指揮官に違いない。
 大声で軍の混乱を収めようとしていたのですぐに分かった。

 単騎で一気に近づく。
 敵将の周りには護衛。わたしに向かってくるが、槍の一振りで二騎まとめて打ち倒す。
 さらに囲まれるが、相手にならない。
 ボボボッ、と槍を振り回して蹴散らす。

「どけぇっ!」

 わたしの声に敵将も反応。
 柄の先に斧がついたような武器を持って馬を走らせてきた。
 
 まずわたしの先制。
 胸板めがけて槍を突き出したが、それは柄で弾かれた。

 大軍を率いるだけあって腕もなかなか。
 振り下ろされた斧をこちらも弾きながら口の端で笑う。

 さらに首を狙ってきた一撃。これを上体を反らしてかわし、起き上がった勢いを利用しての突き。

 敵将は柄でガードしようとしたが、槍の穂先は滑るようにどてっ腹に突き刺さる。

 敵将が討たれた事で混乱を立ち直らせようとした敵にさらなる動揺が広がった。

 だがまだだ。槍を引き抜きながらわたしは次の標的を探す。
  
 敵は崩れながらも一方向に集結しつつある。
 わたしは馬を走らせながら合図を送り、味方と合流。

 この機を逃がすわけにはいかない。
 まだまだ数では敵が上だ。

 再度の突撃。固まろうとした敵の塊を散らばらせる。
 そしてその先には──やはりいた。もうひとりの敵将。
 
 敵兵をなぎ倒しつつそこを目指す。
 敵将は逃げない。数騎を率いてこちらに向かってくる。
 あちらの狙いもわたしのようだ。

 上等、とわたしは味方に手を出すなと命じてまた単騎で相手をする。

 敵将の槍。それを首をひねってかわす。
 敵兵二騎が援護するように左右からの攻撃。
 槍の柄と小手で防御。瞬時に一本の槍をからめ取り、投げて返した。

 それに貫かれてひとりは落馬。
 もう一騎がさらに攻撃を仕掛けてくる。

 だが遅い。わたしの槍が先に届き、相手の首は宙を舞っていた。

 敵将を含む三騎がわたしの周りを取り囲み、ぐるぐると回る。
 二騎は槍。敵将は剣を持っている。

 二騎の同時攻撃。槍ではね上げて防御したが、その隙に敵将が接近。

 ドカカッ、と馬同士がぶつかる程の距離。なるほど、槍をまともに使わせないためか。
 ぬん、と敵将が剣で突いてきた。かわせないタイミングと距離。だがわたしはなんなく手の平でそれをさばく。

 呆気に取られている敵将の首をつかみ、馬から引っこ抜くようにして持ち上げた。

 そして敵の一騎に投げつける。
 間髪入れず槍を突き出し、ふたりもろとも貫いた。

 もうひとりの敵将が討たれ、ついに敵兵が退却をはじめた。
 無論、徹底した追撃を加える。砦近くまで散々に追い回し、多くの敵兵を討ち取った。

「イルゼ様、深追いはいけません。まだ砦内には多くの兵がいるのですから」

 フリッツの呼びかけに追撃を中断。
 たしかに砦からの矢が届く距離だ。これ以上は危ないように思えた。

 兵たちに指示を出し、自陣へと戻る。
 結果は圧勝だ。大軍、しかも敵得意の野戦で。

 こちらにもそれなりに被害が出たが、士気は大きく上がるだろう。
 ルイス卿も機嫌良く声をかけてきた。

「さすがはアンスバッハ軍。見事な戦いだった。我が軍の活躍も見てくれただろう」
 
 正規軍はまともにぶつかっていない。遠間から矢を射ただけだったが、さっきの戦いはそれで十分だった。

「はい、助かりました。ルイス卿」

 そう答えて兜を脱ぐ。
 問題はこれからだ。敵は用心してもう野戦を仕掛けてこないかもしれない。

 こっちとしては砦に立てこもられたほうが厄介。
 陥とすのに時間がかかれば、敵の援軍が来る可能性がある。

「明日からは砦を攻める事になりますが、正規軍にも参加してもらいます」

 こればかりはアンスバッハ軍だけでは負担が大きすぎる。
 指揮はわたしやフリッツが執るので、と説明した。

「う、ううむ。仕方あるまい。正規軍も出そう。だが無理攻めはしないように」
「はい、分かっています。各部隊に振り分けて編成しますので、その事はお任せください」




 フリッツの所へ行き、明日の作戦の事を説明した。 
 
「おお、よく了承しましたね。あのルイス卿が。砦を攻めるのもアンスバッハだけでやれと言いそうですが」

 フリッツが少し驚いたような声を出す。
 わたしは振り返ってルイス卿の様子を見て、うんとうなずく。

「まあな。いつもならそう言ってただろう。でもさっきの戦いでは活躍の場も作ってやったし、少々浮かれているだろうから」
「なるほど。それを利用したというわけですか」
「利用したとは人聞きが悪いな。協力を得られやすいように努力したと言え」
「同じ事ですよ」
「まあ、明日からは泥臭い地味な戦いになるだろう。お前も覚悟しておけよ」
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