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75 覇王との決戦
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「溢忌様……《覇王》自らこの宮殿に侵入したようです。楊をはじめとする餓狼衆が足止めをしております。今のうちに脱出を……」
俺が建てたハーレム宮殿の奥。ミリアムの進言を美女達に囲まれながら他人事のように聞く。
「《覇王》……《覇王》ねぇ。やっと直接対決できるわけっスね。俺がそこそこ遊べるぐらいのヤツならいいんスけど」
両脇の美女の髪を撫でながら笑うと、周りからも嬌声があがる。
ミリアムは諦めたように立ち上がると、出口へと歩きだした。
「わたくしも……最後まで戦います。溢忌様……どうかご無事で」
美女達とたわむれながらそれを見送る。
ミリアムが扉を開け、出ていこうとした時に声をかけた。
「ミリアムさん、領主として最後の命令っス。この場でブクリエの家臣としての任を解くっス。もうどこへ行こうと自由っスよ。だから……命を捨てるような真似だけはしないで欲しいっス」
ミリアムは驚いたような顔をして──それから涙を流し、深々と礼をして出ていった。
あの第二次魔王討伐戦から8年の月日が流れていた。
その間、ブクリエと反ブクリエ連合の戦争は大きく戦況が変化。
俺が開戦当初に侵攻し、手に入れた国々はことごとく奪い返されてしまった。今、ブクリエの領土はこの本国のみだ。
連合軍最高司令官の黄武迅は【覇王】と呼ばれるようになり、この戦争自体が【覇王大戦】と名付けられた。
戦争のきっかけを起こしたのは俺なのに……これにはちょっと納得がいかない。
まあ、黄武迅は連合軍を率いる前から強力な魔物を倒したり封印したりと各地で英雄のように語られているそうだ。
俺なんかとは全然人気が違う。
あ~あ、と天井を眺めながら不公平だな、と呟く。
今──このブクリエの領都は連合軍に包囲され、陥落寸前だ。
仕方がない。ミリアムの忠告をひとつも聞かず、何年もこのハーレム宮殿で遊び呆けていた。
一度でも戦場に出て戦えば、こんな状況にはならなかったかもしれない。
同盟国のクロワから救援の軍が来た様子はない。あの丸メガネ神父の性格を考えれば、そう意外な事ではないが。
30分ぐらい過ぎた頃か。
先ほどミリアムが出ていった扉がバゴォッ、と吹っ飛んだ。
驚いた美女達は悲鳴を上げ、俺から離れて別の出口から逃げていく。
侵入者──先頭の男を見て俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれる。
《覇王》《封魔士》《英雄》黄武迅。
40代半ばほど。中国の武将ふうの甲冑姿。なるほど、見た目は強そうだ。
その後ろからは60代ぐらいの頑固そうな僧衣の男が現れた。
《憤怒僧》《傀儡師》岩秀。
こちらも頭の中にダダダダ、ときた。
「へえ、たったのふたりで乗り込んできたんスか。スゲエっスね。餓狼衆も倒したんスね」
「お前が葉桜溢忌か。想像してたよりガキだな。いや、見た目じゃねえよ。なんとなく分かっちまうんだよ、リアルな年齢がな」
黄武迅は持った槍で肩を叩きながらニタリと笑う。
隣の僧、岩秀は数珠を手にブツブツと念仏を唱えている。
「童といえど、仏心を出すでないぞ。其奴がした事を知らぬわけではあるまい」
「わかってんよ……ダラダラすんのは性に合わねえ。一気にいくぞ」
ふたりは願望の力をゴオッ、と高めた。
宮殿全体が震え、俺の身体がズズズ、と押されるほどの圧力。
「おとなしく浄土へ旅立つがよい──喝ッッ!」
岩秀の闘気が巨大な拳と化して撃ち出された。
俺の男の拳に似ている。
熾天の盾で受け止める。受け止めながら──前進。
闘気の塊をゴバッ、と突き抜ける。
小癪な、と岩秀が迎え撃つ。
素手の攻防──ドガガガッ、とお互いの拳がヒットする。
岩秀はむうっ、と胸を押さえてよろめくが──さすがは超越者。俺にダメージを与え、しかも俺の攻撃を受けて死なないとは。並みの願望者なら即死してもおかしくない。
「クソ坊主、ムリすんなよっ!」
入れ替わるように黄武迅が槍を突き出す。
首を捻ってかわし、剣を抜きざま斬りつける。
槍の柄で止められた。そこから──頭突き。
のけぞったところを、さらに槍の追撃。
穂先を素手で掴んで止めた。
グググ、とお互いに力を込める。槍がギシギシと軋むが──折れはしない。俺の神器のように特別な力が込められているようだ。
「さすが《覇王》。やるっスねえ。でもなまった身体もそろそろほぐれてきたっスよ」
そのまま片手で槍を黄武迅ごと持ち上げた。
そして振りかぶり、思い切りブン投げる。
壁に激突──いや、岩秀の放った数珠がギュルルと回転し、黄武迅を包んで無事に着地させた。
「ワリィな、クソ坊主。助かったぜ」
「うむ……しかし、わしらだけではやはり厳しいようだ。あの者はまだ来ぬのか」
「まぁ待ってろ……おっと、噂をすれば、だ。来たぜ、頼もしい助っ人がよ」
宮殿の天井付近から、カァッ、とサファイアのように輝く球体が現れた。
球体の光が薄れ、中からスーッ、と降りてきたのは──ひとりの女だった。
俺が建てたハーレム宮殿の奥。ミリアムの進言を美女達に囲まれながら他人事のように聞く。
「《覇王》……《覇王》ねぇ。やっと直接対決できるわけっスね。俺がそこそこ遊べるぐらいのヤツならいいんスけど」
両脇の美女の髪を撫でながら笑うと、周りからも嬌声があがる。
ミリアムは諦めたように立ち上がると、出口へと歩きだした。
「わたくしも……最後まで戦います。溢忌様……どうかご無事で」
美女達とたわむれながらそれを見送る。
ミリアムが扉を開け、出ていこうとした時に声をかけた。
「ミリアムさん、領主として最後の命令っス。この場でブクリエの家臣としての任を解くっス。もうどこへ行こうと自由っスよ。だから……命を捨てるような真似だけはしないで欲しいっス」
ミリアムは驚いたような顔をして──それから涙を流し、深々と礼をして出ていった。
あの第二次魔王討伐戦から8年の月日が流れていた。
その間、ブクリエと反ブクリエ連合の戦争は大きく戦況が変化。
俺が開戦当初に侵攻し、手に入れた国々はことごとく奪い返されてしまった。今、ブクリエの領土はこの本国のみだ。
連合軍最高司令官の黄武迅は【覇王】と呼ばれるようになり、この戦争自体が【覇王大戦】と名付けられた。
戦争のきっかけを起こしたのは俺なのに……これにはちょっと納得がいかない。
まあ、黄武迅は連合軍を率いる前から強力な魔物を倒したり封印したりと各地で英雄のように語られているそうだ。
俺なんかとは全然人気が違う。
あ~あ、と天井を眺めながら不公平だな、と呟く。
今──このブクリエの領都は連合軍に包囲され、陥落寸前だ。
仕方がない。ミリアムの忠告をひとつも聞かず、何年もこのハーレム宮殿で遊び呆けていた。
一度でも戦場に出て戦えば、こんな状況にはならなかったかもしれない。
同盟国のクロワから救援の軍が来た様子はない。あの丸メガネ神父の性格を考えれば、そう意外な事ではないが。
30分ぐらい過ぎた頃か。
先ほどミリアムが出ていった扉がバゴォッ、と吹っ飛んだ。
驚いた美女達は悲鳴を上げ、俺から離れて別の出口から逃げていく。
侵入者──先頭の男を見て俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれる。
《覇王》《封魔士》《英雄》黄武迅。
40代半ばほど。中国の武将ふうの甲冑姿。なるほど、見た目は強そうだ。
その後ろからは60代ぐらいの頑固そうな僧衣の男が現れた。
《憤怒僧》《傀儡師》岩秀。
こちらも頭の中にダダダダ、ときた。
「へえ、たったのふたりで乗り込んできたんスか。スゲエっスね。餓狼衆も倒したんスね」
「お前が葉桜溢忌か。想像してたよりガキだな。いや、見た目じゃねえよ。なんとなく分かっちまうんだよ、リアルな年齢がな」
黄武迅は持った槍で肩を叩きながらニタリと笑う。
隣の僧、岩秀は数珠を手にブツブツと念仏を唱えている。
「童といえど、仏心を出すでないぞ。其奴がした事を知らぬわけではあるまい」
「わかってんよ……ダラダラすんのは性に合わねえ。一気にいくぞ」
ふたりは願望の力をゴオッ、と高めた。
宮殿全体が震え、俺の身体がズズズ、と押されるほどの圧力。
「おとなしく浄土へ旅立つがよい──喝ッッ!」
岩秀の闘気が巨大な拳と化して撃ち出された。
俺の男の拳に似ている。
熾天の盾で受け止める。受け止めながら──前進。
闘気の塊をゴバッ、と突き抜ける。
小癪な、と岩秀が迎え撃つ。
素手の攻防──ドガガガッ、とお互いの拳がヒットする。
岩秀はむうっ、と胸を押さえてよろめくが──さすがは超越者。俺にダメージを与え、しかも俺の攻撃を受けて死なないとは。並みの願望者なら即死してもおかしくない。
「クソ坊主、ムリすんなよっ!」
入れ替わるように黄武迅が槍を突き出す。
首を捻ってかわし、剣を抜きざま斬りつける。
槍の柄で止められた。そこから──頭突き。
のけぞったところを、さらに槍の追撃。
穂先を素手で掴んで止めた。
グググ、とお互いに力を込める。槍がギシギシと軋むが──折れはしない。俺の神器のように特別な力が込められているようだ。
「さすが《覇王》。やるっスねえ。でもなまった身体もそろそろほぐれてきたっスよ」
そのまま片手で槍を黄武迅ごと持ち上げた。
そして振りかぶり、思い切りブン投げる。
壁に激突──いや、岩秀の放った数珠がギュルルと回転し、黄武迅を包んで無事に着地させた。
「ワリィな、クソ坊主。助かったぜ」
「うむ……しかし、わしらだけではやはり厳しいようだ。あの者はまだ来ぬのか」
「まぁ待ってろ……おっと、噂をすれば、だ。来たぜ、頼もしい助っ人がよ」
宮殿の天井付近から、カァッ、とサファイアのように輝く球体が現れた。
球体の光が薄れ、中からスーッ、と降りてきたのは──ひとりの女だった。
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