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15 狼
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酒場の外へと飛び出す千景。
それを追って俺も走った。
村人たちが走ってくる逆方向へ。すぐに入り口の門が見えた。
見張りの男が見張り台から何か指示を飛ばし、門の前では数人の武器を持った男たちが騒いでいる。
「開門! 儂が出る!」
駆けながら千景が叫ぶ。男たちが道を開け、門が開いた。
敵の種類や規模も聞かず、大丈夫なのだろうか。
外へ出るとすぐに門が閉まる。
シエラとイルネージュはついてこれなかったようだ。
「なんじゃ、お主も手伝うのか」
そういうつもりではなかったのだが……つい、勢いでついてきてしまった。
頷くと、千景はフッ、と笑う。
「構わぬが、足を引っ張るなよ」
すぐに魔物の気配。すでに囲まれているようだ。だが、暗闇で自分のわずかな範囲しか見えない。
グルル、という唸り声と、時折ギラッと光る眼。
「見えぬか? 魔物は夜目が効く。儂もだが」
太刀を抜き放ち、ギャッ、と前方へ斬りつけた。
ギャインッ、と叫び声。手応えがあったようだ。血刀を振りかざし、千景が舌なめずりする。
ステータスウインドウを開く。
よし、これだ。
剣を抜き、属性付与のスキル。光属性を付けると、剣が光り出し、周りを照らす。
囲んでいたのは──大型の狼だ。
ガアッ、と口を開け、次々と飛びかかってきた。
光る剣を振るう。三匹の狼を斬り落とし、一匹は盾で頭部を砕いた。
ウウウ、グルル、と警戒しながら距離を取る狼たち。踏み込んで斬りつけるが、素早い。ババッ、と間合いの外へ飛び退いた。
それなら、と左手を前に出す。五本の指にボボボと炎が灯る。
ドドドンッ、と炎弾を発射。
ドガドガドガッ、と地面をえぐり、木々をなぎ倒しながら命中。
今ので十数匹は吹っ飛ばしただろう。
「ほう、さすがは勇者。派手よのう」
千景が半ば呆れ、半ば感心したように言う。
生き残った狼たちが一斉に逃げ出した。
「逃がすわけがなかろう。この機に根絶やしじゃ」
すぐに追う千景。村の事が少し気になったが、俺も続いた。
ザザザザ、と林の中を駆ける。かなりの速度。追いすがりながら狼たちを斬り捨てていく千景。
俺は指先から電撃を放ち、いったん動きを止めてから確実に仕止めた。
あらかた片付け、先を走っていた千景が急に止まる。
「む、ちと面倒なのがおるな。油断するなよ」
ドスッ、ドスッ、と暗がりから現れたのは、今までの狼とは比にならないほどの巨体。ゆうに中型のトラックぐらいはある、二体の狼だった。
「でかっ、なんなんスか、アレ」
「狼の上級魔物じゃな。昼間、儂が巣穴ごと全て潰したと思っとったのじゃが……生き残りが報復に来たようじゃ」
ゴウッ、と吠え、周りの木々をへし折りながら一度の跳躍で距離を詰める。
前足の爪。盾で防ぐ。ズズズッ、と押されながらも剣を喉元へ突き刺した。
ガヒュッ、と喉を詰まらせるような声。剣を両手持ちにし、ひねるように斬り払って首を切断した。
「やるのう。どれ、儂も」
喰いつこうとした巨狼の牙を、太刀の刃で受け止めている。
ガカッ、と千景の身体が光った。バチバチバチィッ、と稲妻を思わせる斬撃。
巨狼は口から胴までを斬り裂かれ、倒れる。
斬り口からは焦げたような臭いが漂う。
太刀を鞘に納め、満足したような笑みを浮かべるが──すぐに真顔になり、鼻をひくつかせる。
「……ぬかったわ、儂としたことが。こやつらは囮じゃ。村が危ない」
振り返り、駆け出した。わけが分からないまま俺もついて行く。
村へ近づくにつれ、肌を刺すような冷気。
そしてちらちらと目の前に散る白い粉。
「……雪? 今の時期に? 解せぬな」
駆けながら首を傾げる千景。いや、俺は誰の仕業かすぐに分かった。
そしてこれは、イルネージュの危機を意味する。
俺は走る速度を上げた。
村が見えた。門が破壊されている。
悲鳴、怒号、壊れた家屋の残骸。降り積もる雪。そして──巨体。青白い毛を持つ狼。先ほどの巨狼の比ではない。五階建てのアパートぐらいはあるか。
「超級のフェンリルじゃ。何十年ぶりじゃ、マズイの」
千景の緊張した声。駆けながら太刀を抜いた。
フェンリルの周りには円錐状の氷柱が何本も突き出て、動きを封じるように囲んでいる。
少し離れた場所にイルネージュ。その腰にしがみつくようにシエラ。
俺の姿を見ると、シエラが飛び上がって叫んだ。
「おせーーよっっ! 死ぬわ、マジで死ぬわっ! 超級来るなんて聞いてねーよっ! はよ助けんかいっ!」
イルネージュも俺の姿を見て力尽きたように倒れる。
今まで食い止めててくれたのか。あんな化け物を。
フェンリルがガアッ、と一吠えすると、周りの氷柱がパパパパンッ、と砕け散る。
イルネージュめがけ、その牙が迫る──が、横っ面にドドドンッ、と俺の炎弾が命中。
フェンリルの視線がギロリとこちらに向けられた。
「ありゃ、全然効いてないっスね」
「気を引き締めよ。油断するとすぐに死ぬぞ」
千景はさらに脇差しを抜き、二刀で構えた。
それを追って俺も走った。
村人たちが走ってくる逆方向へ。すぐに入り口の門が見えた。
見張りの男が見張り台から何か指示を飛ばし、門の前では数人の武器を持った男たちが騒いでいる。
「開門! 儂が出る!」
駆けながら千景が叫ぶ。男たちが道を開け、門が開いた。
敵の種類や規模も聞かず、大丈夫なのだろうか。
外へ出るとすぐに門が閉まる。
シエラとイルネージュはついてこれなかったようだ。
「なんじゃ、お主も手伝うのか」
そういうつもりではなかったのだが……つい、勢いでついてきてしまった。
頷くと、千景はフッ、と笑う。
「構わぬが、足を引っ張るなよ」
すぐに魔物の気配。すでに囲まれているようだ。だが、暗闇で自分のわずかな範囲しか見えない。
グルル、という唸り声と、時折ギラッと光る眼。
「見えぬか? 魔物は夜目が効く。儂もだが」
太刀を抜き放ち、ギャッ、と前方へ斬りつけた。
ギャインッ、と叫び声。手応えがあったようだ。血刀を振りかざし、千景が舌なめずりする。
ステータスウインドウを開く。
よし、これだ。
剣を抜き、属性付与のスキル。光属性を付けると、剣が光り出し、周りを照らす。
囲んでいたのは──大型の狼だ。
ガアッ、と口を開け、次々と飛びかかってきた。
光る剣を振るう。三匹の狼を斬り落とし、一匹は盾で頭部を砕いた。
ウウウ、グルル、と警戒しながら距離を取る狼たち。踏み込んで斬りつけるが、素早い。ババッ、と間合いの外へ飛び退いた。
それなら、と左手を前に出す。五本の指にボボボと炎が灯る。
ドドドンッ、と炎弾を発射。
ドガドガドガッ、と地面をえぐり、木々をなぎ倒しながら命中。
今ので十数匹は吹っ飛ばしただろう。
「ほう、さすがは勇者。派手よのう」
千景が半ば呆れ、半ば感心したように言う。
生き残った狼たちが一斉に逃げ出した。
「逃がすわけがなかろう。この機に根絶やしじゃ」
すぐに追う千景。村の事が少し気になったが、俺も続いた。
ザザザザ、と林の中を駆ける。かなりの速度。追いすがりながら狼たちを斬り捨てていく千景。
俺は指先から電撃を放ち、いったん動きを止めてから確実に仕止めた。
あらかた片付け、先を走っていた千景が急に止まる。
「む、ちと面倒なのがおるな。油断するなよ」
ドスッ、ドスッ、と暗がりから現れたのは、今までの狼とは比にならないほどの巨体。ゆうに中型のトラックぐらいはある、二体の狼だった。
「でかっ、なんなんスか、アレ」
「狼の上級魔物じゃな。昼間、儂が巣穴ごと全て潰したと思っとったのじゃが……生き残りが報復に来たようじゃ」
ゴウッ、と吠え、周りの木々をへし折りながら一度の跳躍で距離を詰める。
前足の爪。盾で防ぐ。ズズズッ、と押されながらも剣を喉元へ突き刺した。
ガヒュッ、と喉を詰まらせるような声。剣を両手持ちにし、ひねるように斬り払って首を切断した。
「やるのう。どれ、儂も」
喰いつこうとした巨狼の牙を、太刀の刃で受け止めている。
ガカッ、と千景の身体が光った。バチバチバチィッ、と稲妻を思わせる斬撃。
巨狼は口から胴までを斬り裂かれ、倒れる。
斬り口からは焦げたような臭いが漂う。
太刀を鞘に納め、満足したような笑みを浮かべるが──すぐに真顔になり、鼻をひくつかせる。
「……ぬかったわ、儂としたことが。こやつらは囮じゃ。村が危ない」
振り返り、駆け出した。わけが分からないまま俺もついて行く。
村へ近づくにつれ、肌を刺すような冷気。
そしてちらちらと目の前に散る白い粉。
「……雪? 今の時期に? 解せぬな」
駆けながら首を傾げる千景。いや、俺は誰の仕業かすぐに分かった。
そしてこれは、イルネージュの危機を意味する。
俺は走る速度を上げた。
村が見えた。門が破壊されている。
悲鳴、怒号、壊れた家屋の残骸。降り積もる雪。そして──巨体。青白い毛を持つ狼。先ほどの巨狼の比ではない。五階建てのアパートぐらいはあるか。
「超級のフェンリルじゃ。何十年ぶりじゃ、マズイの」
千景の緊張した声。駆けながら太刀を抜いた。
フェンリルの周りには円錐状の氷柱が何本も突き出て、動きを封じるように囲んでいる。
少し離れた場所にイルネージュ。その腰にしがみつくようにシエラ。
俺の姿を見ると、シエラが飛び上がって叫んだ。
「おせーーよっっ! 死ぬわ、マジで死ぬわっ! 超級来るなんて聞いてねーよっ! はよ助けんかいっ!」
イルネージュも俺の姿を見て力尽きたように倒れる。
今まで食い止めててくれたのか。あんな化け物を。
フェンリルがガアッ、と一吠えすると、周りの氷柱がパパパパンッ、と砕け散る。
イルネージュめがけ、その牙が迫る──が、横っ面にドドドンッ、と俺の炎弾が命中。
フェンリルの視線がギロリとこちらに向けられた。
「ありゃ、全然効いてないっスね」
「気を引き締めよ。油断するとすぐに死ぬぞ」
千景はさらに脇差しを抜き、二刀で構えた。
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