アオイナツ物語

伊藤 苺

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マコトの野望⑨

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一通り検査を終えて病院を出るともうすっかり日が傾いていた。

家に戻る選択肢もあったけれど病院に駆け付けた母親が

「家に帰って具合が悪くなったら私1人でパニクるので人が沢山いる所の方が安心です。」

と言うので合宿に戻り今夜は先輩とマコトに挟まれて眠る事になった。

「具合悪くなったら起こせよ。」

先輩に頭をナデナデされて心拍数が上がったけれどこれは正常な反応の範囲内なので問題ない。

さっき病院で母親に会った時に何かミッションがあった様な気がしたけど思い出せない。

これも恐らく僕の持病
「人の話を聞いてない症候群」
なので今回の一件には関係ない。

「お休みなさい。」





しばらくして僕が寝入ったと思ったらしく先輩とマコトが何やらひそひそ話を始めた。


「マコト、秋大会で勝ちに行くのはいいけどハヤタに無理させないでくれよな。」

「心配は要りませんよ。
一緒にシニアで鍛え上げたんだから限界的なやつは分かってるつもりです。」

「本当に来年の夏にかけてるのか?」

「ですね。俺はまだこの先も捕手に拘って行きたいんでチームが強くなるのは必須なんです。」


「マコトはプロ志望?大学か社会人も有?」

「1番現実的なのは大学ですけど全て想定してます。
だから強くなって注目されたい、って言うと自意識過剰の嫌なやつになっちゃいますけど、ハヤタが投げてるのを見せたいやつがいるんで。」

「ハヤタが気にしてるあの子?」

「はい。ユウスケって言うんですけど、田舎の高校で野球やってます。」


(な、なんでそれを僕に教えてくれないの?)
カバっと起き上がろうかと思ったが話の続きを聞きたいので思い留まった。


「そっか、良かったな。」


「ユウスケはハヤタに気付いて欲しいんです。
野球は誰かのせいで負けるんじゃなくて
みんなの力で勝つものなんだって。
だからユウスケが野球やってるの教えてやりたいんですけど俺的にはハヤタにはちゃんと苦しんで乗り越えてそこに気付いて欲しいなって。

それと今ユウスケが住んでる県って高校少ないんでやつは本気で甲子園を目指してるみたいなんですよ。だから俺達も甲子園目指してお互いに出場できたらこれってサプライズですよね。」

「そうだな、甲子園でシニアの仲間が再会!って熱戦甲子園!で取材にくるな。」

「でしょ、でしょ!そしたら俺、2人を繋ぐ名捕手とかって注目されちゃうよなー。」


「シッ!声がデカい。続きは夢で見ろ。」


いい話なんだかマコトに乗せられてるのか、アイツの腹の中は理解出来ないけどユウスケが野球をやっていると聞いてこぼれ落ちそうになる涙を必死で堪えた。

先輩が僕の寝顔を覗き込んで来たので我慢しないとタヌキ寝入りがバレてしまうから。

心臓に悪いから早く寝て下さい。













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