アオイナツ物語

伊藤 苺

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夏休みなので⑮

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先輩も昔はお兄さんみたいによく喋ったらしい。

昨日から寝食を共にしてよく喋る先輩に何度かときめいたのでそうなんだろうと納得できる。

(やっぱりわざと淡々としてたのか)

いつも通りのクールガイには少しは免疫は出来ているけれど過度のトキメキは心臓に悪い。
でもその時間もそろそろ終わる。


また明日合宿で会えるけど
そこではみんなの先輩になってしまうからもうちょっと独り占めしておきたいけれど外は段々と見覚えのある景色に変わって来た。


「なあ、明日何時集合だっけ?」

先輩の頭も明日の合宿に切り替っている様だ。

「9時だと思います。」

「だと思うって大丈夫か?
遅刻したらマコトが激怒するぞ。」

先輩にそう言われると自信がない。
何しろ夏休みのほとんどをボンヤリ過ごしていたのだから。
あなたのせいですけど。


「あ、じゃあ、確認します。」

(マコトにライン)


「…8時半でした。
サクッと準備して、9時から…
えっ???紅白戦やるって、言ってますけど。」

「紅白戦って毎年最終日にやるやつじゃん。
えっ?なんでいきなり紅白戦なわけ?って言うか1年総動員してもそんな人数いるか?」


「明日の指令を待て…だそうです。」

「ふーん、俺ら引退組を召喚したのはそう言う訳か。
それならちょっと体動かしておかないと靭帯でも切ったら大変だ。」


ストレッチごっこする先輩かわいい。






「な、ハヤタ(お兄さんあらたまってなんですか?)
ずっと気になってたんだけど聞いていいかな?
ダメでも海パンとか返せって言わないからな。

あのさ、君達ってなんでこの弱小野球部にいるの?
マコト君は特にやる気もあるのにおかしいよね。
ショーゴも経緯は知らないって言うけどあの高校になんで来たんだ?」


はぁ、遂にその話をする時が来たのか…
でも僕も先輩の身の上話を聞いてしまったからスルーは失礼だろう。


意を決してお兄さんの質問に言葉を返す。

「マコトは結構ガチなんです。
お父さんが社会人野球で捕手やってて、だからアイツも小3で野球を始めた時から捕手に専念してて、その頃からプロ野球選手になるって言ってました。

僕はその頃引っ越したばっかりで友達を作る為に親に少年野球チームに入れられて、家が近所だったのでマコトとは直ぐに仲良くなったんですけど。
2人でマコトのお父さんに練習見てもらってたから僕は必然的に投手をやる様になりました。」


「やっぱりハヤタ投手やってたんだな。」

先輩がポツリと言うとお兄さんも

「俺もそうじゃないかと。」

賛同した。

「マコトは子供の頃からリーダーシップもあって誰とでも仲良くやってくタイプなんでチームはいい雰囲気で強くなったんですよ。僕らの代で。
それでそのまま同じチームのやつも何人か一緒にシニアチームに入って、そしたら次は高校野球で甲子園ですよね。

僕は平凡な選手だったけとマコトはやっぱりDNAって言うか、や、努力も凄いしてたから当然なんだけど強豪校のスカウトが観に来てました。」



「んー、余計分からねー。なんでそんなやつが弱小野球部にいるだ。」

お兄さんが頭を抱える。


そう、マトコには華々しい高校野球のステージが待っていたんだ。

でもそれを阻んだのは僕なんだ。


その話をしようとしたけれど
昨日から有頂天になっていた自分が急に恥ずかしくなって口をつぐんでしまった。





もう直ぐ家に着く。

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