アオイナツ物語

伊藤 苺

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夏休みなので⑪

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眠れないはずの夜はいつの間にか明けていた。

朝、この辺りは家が密集していないせいか開け放たれた窓からの風が心地良い。

朝からエアコンじゃないのってこんなに気持ちのいいものなのか。

もしここが本当にお祖母ちゃんの家だったら夏の間中ここで過ごしたい。


縁側で風に当たってぼんやりしていると先輩が起きてきた。



そしていつ帰って来たのかお兄さんも加わってスミコさんと4人の朝ごはんが始まった。



スミコさんは料理の腕前もかなりの物で食卓には何品もおかずが並んで「朝食」と言うよりも「朝ごはん」がピタリとハマる。


「お味噌汁濃くない?
大勢の朝ごはん作るの久しぶりだから量が分からなくなっちゃって。
あ、糠漬けのキュウリはねウチのよー。おかわりもしてね。」

「やっぱスミコさんの朝飯サイコーだな。」

「ふふっ…そーでしょ。
で、にいには普段朝ごはんちゃんと食べてるの?」

「一人暮らしの男でちゃんと朝飯食ってるやつになんて会った事ないよ。
はーい、俺も漏れなくその一人でーす。」

「無理して一人暮らしなんてしなくても帰ってくればいいのに。
あ、でもダメか、それじゃ彼女とか来られないもんねー。」


「一人暮らししてる理由はそんなんじゃないからね。」

「まぁいいのよ。一人暮らしはしといた方がお嫁さんの有り難みがわかるから。
ショーゴちゃんはサクラが付いてるから心配ないけど、にいにはホントに体に悪い物ばっかり食べてちゃダメよ。」

「体にいい物食べたくなったら帰ってくるから心配しないでよ。
それにしても白い飯に海苔って何でこんなに上手いをだろーね。スミコさんホント料理上手。」

「それ褒められてもアタシが介入したのはご飯炊いただけだわよ。あ、炊いたのも炊飯器だわ。」


スミコさんとお兄さんの朝ドラの朝食のシーンみたいなテンポ良く流れる会話をBGMに僕と先輩は黙々と箸を進める。


時折先輩の視線を感じて顔を上げるといつも通りの王子様スマイルが帰ってくる。


「ハヤタ、現役高校球児なんだからしっかり食べろよ。」

お言葉に甘えて大盛りご飯のおかわりを所望した。

すると

「ほれっ、これも食べろ。タンパク質は大事だ!」

と、言って先輩が自分の皿から卵焼きを二切れ僕の皿に乗せた!

先輩が~、く、く、口を付けた箸で触った卵焼きぃぃぃ…
剥製にして永久保存したくなるじゃないですか!


この数日ずっと先輩不足で過ごして来た僕は昨日起きたバックハグ事件や髪の匂いスン事件等々で一気に先輩の過剰摂取になってしまって頭の中はまだ飽和状態だ。


でもぐずぐずしていて卵焼きから先輩の成分が消えて無くなったら大変なので急いで口にする。


「あら、ハヤタ君卵焼き好きなのね。もっと作ろうか?」

スミコさんの笑顔がほころぶ。

(僕の好物は先輩なんです)





充実の朝ごはんを終えると先輩がお兄さんに話し掛けた。

「そーだアニキ、明日から合宿なんだ。準備があるから買い物連れてってよ。
ハヤタに祭りに付き合って貰ったお礼もしたいしさ。
買うのアニキだけどな。
で、俺も今日の内におばさんちに戻るからハヤタと俺送ってって。」


「えっ?お前も合宿いくの?」

「そうだよ、今年はなんかさー、あ、マコトが主将になってスッゲー張り切ってて。
引退したのに手伝いに来いって。
アイツ自主トレとか言って1年で見込みありそうなやつを強化してるらしいんだ。」


「えー、スゲーな。いよいよ弱小クラスから抜けるのか?」


「その気迫十分だな。
でも実際マコトとハヤタの異次元コンビを見て今年ちょいやる1年が入って来てるからな。
ハヤタも参加したんだろ?自主トレ。」

「えっ?自主トレで1年を強化とか僕聞いてないです。」


「あれっ?この話お前に秘密だったりしたかな…」

マズかったかな…と先輩は焦りの色を見せたけど
僕に秘密にしたんじゃなくて先輩が引退して腑抜けになった僕をマコトが相手にしなかったに違いない。


自分の代でマコトは必死に何かを成し遂げようとしている。

それは前から薄々感じていたけれど。


野球部辞めるとか辞めないとか先輩ファーストだった僕の価値観がちょっと変わった瞬間だった。












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