アオイナツ物語

伊藤 苺

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夏休みなので⑥

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仏壇にスイカが備えたられたのをきっかけに先輩が身の上話を始めたので僕はシンミリした空気になってしまった責任の一部を感じた。

それと同時にいつもクールな先輩がよく喋る事に驚いた。

それは去年の夏から先輩をロックオンしてきた結果、感情を表に出さない人と言う結論に至ったからだ。


先輩とバッテリーを組んでいたマコトはいつも平常心なのは投手としては良い事だと言っていたけれど野球をやっていて

「ヨッシャー!」
とか
「ウォー!」
とか叫んだのを一度も見た事がなかった。

いつも淡々としている。


さっき先輩は両親が亡くなったのは6年前か?とスミコさんに確認していたがその時も淡々としていた。


僕の浅い人生経験では想像が及ばないけれど
両親が他界してしまう、そんな衝撃的な経験を淡々と語れるまでになるにはきっと多くの苦しい時を乗り越えて来たに違いない。

感情を表に出さない事で救われた成功体験でもあるのだろうか。


先輩の過去に踏み入ろうとしたけれど未熟な僕の思考ではとうてい無理なので迷宮から途中退場した。


先輩に会えなくなってつまらないから部活辞める~なんて発想をしている軽すぎる僕の脳ミソでは先輩の迷宮はレベルが高すぎる。


たった1才の年の差だけど
僕と先輩の人生経験には飼い猫と野性のライオン位の差があると思い知った。




けれど例えほんの少しでも知ってしまった事でこの先何かが変わるかも知れない。
周囲に淡々とした人と思われているのも本当の先輩じゃないのかも知れない。
でも僕の先輩が好きな気持ちにブレはない。



そんな思いで先輩を見ていたら
先輩の隣にシャクシャクとスイカにかぶりついている少年期のショーゴ君の姿が見えて来た。





「ほら、お塩かけなさいってば。」

スミコさんの声にハッとする。


よく考えたらこの人だって突然娘を失って悲しかったはずなのに2人の孫を引き取って立派に成長させたバイタリティーは尊敬に値する。


持ったまま固まっていた僕のスイカにスミコさんが強引に塩をかけようと瓶を握りしめてニコニコしている姿はこの夏の思い出の1ページになりそうだ。

気が付けばショーゴ少年は見えなくなっていた。

18才の青年ショーゴさんと
12才の少年ショーゴ君の間には
どんな彼が存在していたんだろう。


迷宮からは途中退場したけれど
元と全く同じ場所には戻れなくなってしまった。








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