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夏休みなので①
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今日も暑さが厳しいので
クーラーで冷え冷えの家から
一歩も出ない決意をした。
外は猛暑と言う敵に取り囲まれていて一歩でも外へ出たら
太陽から放たれた熱の矢に
射抜かれて絶命してしまう。
(マズイ、このままでは
貴重な高2の夏休みを
無駄に消費してしまう…)
分かっていても近年の夏は
暑さが危険すぎて
身の安全優先でウダウダする事を正当化しようとしている自分が優勢だ。
それにしてもダルくて
この部屋がCO2過多に
なってしまうのではないかと
思う程
朝からため息ばかりをついている。
「うぅぅぅぅ~先輩に会いたい」
このため息は誰かに聞かれたらヤバイやつなんだけど
幸いこの部屋には誰もいないので呪文の様にもう一度、二度、三度と口にしてみる。
だからと言って状況は
何も変わらない。
僕…
櫻井隼太(サクライハヤタ)
17才は
今ある重大な問題を抱えている。
夏休みが始まってからと言うもの深刻な
「先輩不足」
に陥ってしまったのだ。
「先輩」
と言うのは少し前まで
部活で一緒だった3年生の
河原翔吾(カワハラショウゴ)様だ。
以下ショーゴ先輩。
ショーゴ先輩は野球部の
エースでたまに良いバッティングもする果てしない可能性を秘めた人だったけれど
夏の県大会を2回戦で敗退し
先輩はその可能性を秘めたまま引退した。
甲子園に出場して負けて
引退が決まった子達が
「1日でも長くこの仲間と
野球がやりたかった」
と泣いているのをテレビで視るけれど
もしインタビューのマイクを向けられたら僕は
「先輩ともっと長く野球が
出来る様にもっと真面目に
練習しておけば良かったです
」
と答えるだろう。
明日から先輩と部活で会えなくなる、
その日がやって来たので僕は泣いた。
泣いている僕を見て勘違いした仲間達が
「この悔しさを
僕らの代で晴らそう!」
と一瞬青春っぽくまとまったけれど
正直僕はこれから始まる自分達の代の事なんて
これっぽっちも考えていなかった。
5才の時、商業施設に見に行ったヒーローショーで
ヒーローが普通の人間のサイズのまま幾ら待っても巨大化しないので話が違う!と思って悔しくて泣いた。
怒りの矛先は母だったかヒーローにだったか定かではないけれど
数日前からショーを心待ちにしていたさっきまでの自分のワクワクを誰にどうやって償って貰ったらいいのか分からずに泣くしかなかった。
そんな僕を母は建物を壊しちゃうから巨大化は主催者側に止められた…と大人の事情風の嘘をまぶして諦める様に誘導した。
そう言われ他の子達が来た時と同じワクワクで帰って行くのは彼等は事前にその情報を得ていたからなのか…
と渋々だけど納得したら
泣くのは恥ずかしくなったが代わりに人生初の虚無感を味わった。
あの時もしも母に
「巨大化しないって知っていたら行かなかった?」
と聞かれたとしても僕には
「行かなかった」
と答える勇気はなかっただろう。
その答えが夏休みの
過ごし方に何かしらの影響を及ぼすだろうと懸念されたからだ。
5才の子供の夏休みのなんて親の掌一つでどうにでもなると
賢い僕は知っていた。
でも今はもう17才だ。
人生の選択権のだいたいは自分の手にある…と思われるし
この虚無感とも一人で向き合う事ができる。
先輩がいないのに
この暑さの中部活の為だけに出掛けて行くなんて気持ちの折り合いが付かない。
そうだ、ショーゴ先輩と一緒に引退するんだ。
僕の高校野球は終わったんだ。
僕が部活をやる動機はショーゴ先輩に会う為だったんだから。
先輩がいないとやる気が出ない。
正当な理由だ。
よし!野球部を辞めよう。
あ~、でもまたアイツが掴みかかってくるだろうな…
野球やれって。
ま、僕の感傷は置いといて
先輩の話に戻るけど
ショーゴ先輩はグランドでも一際目立つ美白男子で身長は
180センチ弱。
細身でスラッと伸びた手足、
それだけでも王子様キャラ確定だ。
そんな美白王子様は
イケメンの更に上のランクの
イケメン極(きわみ)で
先輩がマウンドで目深に被った
帽子を取って額の汗を拭う
姿なんてハンカチ抜きでも
もう華麗過ぎて
これまでの対戦で
バッターボックスでよく死者が出なかった…
とほっとしている。
もしうちの学校が毎年甲子園に
出場する程の強豪校だったら
「キュン死被害者の会」
が結成されていただろう。
そんな眉目秀麗な先輩に憧れて
僕は野球部に入った…
と言いたい所だが
うちの高校はとりあえず
何かしら部活動に入らなければならないので
夏はクーラーのきいた室内で
過ごせそうな文化部に入るつもりでいたのに
小学生の頃から一緒に野球部をやっていた織田誠(オダマコト)
に引っ張られて野球部に入ってしまった。
以下マコト。
入ってみて分かったのは
この学校の硬式野球部は
そこそこ弱小だと言う事。
なので小学校高学年から硬式野球をやっていた僕とマコトは春の県大会から背番号を貰う
スーパー1年生だった。
そうなると同学年のヤツらと一緒にいるよりも先輩達と一緒に居る様になる。
ちょっと前まで中学生だった
僕達からすると3年の先輩の
制服姿は熟れ感があってみんなカッコ良く見えた。
むしろ野球をやっている時より帰りの方がカッコいい。
そして引退した後に秋の大会の
応援に来てくれた時、
「野球はそこそこ弱小だったけど
私服は強豪じゃねぇ⁉」
高3の大人感に過剰に憧れた。
それに比べると2年の先輩達は
自分達の代になったのに危なっかしいと言うか頼りない。
主将になった山岡先輩も
ことある毎に僕とマコトに何か言ってくれよ~的な視線を送ってくる。
ヤレヤレ1学年上なんてこんなものか…
ショーゴ先輩もそんな
頼りないグループの一員だったけど
練習休みの期間を経て夏休みの後半に再会した(大袈裟か!)
ショーゴ先輩の華麗なるバージョンアップに
僕の目は釘付けになってしまった。
クーラーで冷え冷えの家から
一歩も出ない決意をした。
外は猛暑と言う敵に取り囲まれていて一歩でも外へ出たら
太陽から放たれた熱の矢に
射抜かれて絶命してしまう。
(マズイ、このままでは
貴重な高2の夏休みを
無駄に消費してしまう…)
分かっていても近年の夏は
暑さが危険すぎて
身の安全優先でウダウダする事を正当化しようとしている自分が優勢だ。
それにしてもダルくて
この部屋がCO2過多に
なってしまうのではないかと
思う程
朝からため息ばかりをついている。
「うぅぅぅぅ~先輩に会いたい」
このため息は誰かに聞かれたらヤバイやつなんだけど
幸いこの部屋には誰もいないので呪文の様にもう一度、二度、三度と口にしてみる。
だからと言って状況は
何も変わらない。
僕…
櫻井隼太(サクライハヤタ)
17才は
今ある重大な問題を抱えている。
夏休みが始まってからと言うもの深刻な
「先輩不足」
に陥ってしまったのだ。
「先輩」
と言うのは少し前まで
部活で一緒だった3年生の
河原翔吾(カワハラショウゴ)様だ。
以下ショーゴ先輩。
ショーゴ先輩は野球部の
エースでたまに良いバッティングもする果てしない可能性を秘めた人だったけれど
夏の県大会を2回戦で敗退し
先輩はその可能性を秘めたまま引退した。
甲子園に出場して負けて
引退が決まった子達が
「1日でも長くこの仲間と
野球がやりたかった」
と泣いているのをテレビで視るけれど
もしインタビューのマイクを向けられたら僕は
「先輩ともっと長く野球が
出来る様にもっと真面目に
練習しておけば良かったです
」
と答えるだろう。
明日から先輩と部活で会えなくなる、
その日がやって来たので僕は泣いた。
泣いている僕を見て勘違いした仲間達が
「この悔しさを
僕らの代で晴らそう!」
と一瞬青春っぽくまとまったけれど
正直僕はこれから始まる自分達の代の事なんて
これっぽっちも考えていなかった。
5才の時、商業施設に見に行ったヒーローショーで
ヒーローが普通の人間のサイズのまま幾ら待っても巨大化しないので話が違う!と思って悔しくて泣いた。
怒りの矛先は母だったかヒーローにだったか定かではないけれど
数日前からショーを心待ちにしていたさっきまでの自分のワクワクを誰にどうやって償って貰ったらいいのか分からずに泣くしかなかった。
そんな僕を母は建物を壊しちゃうから巨大化は主催者側に止められた…と大人の事情風の嘘をまぶして諦める様に誘導した。
そう言われ他の子達が来た時と同じワクワクで帰って行くのは彼等は事前にその情報を得ていたからなのか…
と渋々だけど納得したら
泣くのは恥ずかしくなったが代わりに人生初の虚無感を味わった。
あの時もしも母に
「巨大化しないって知っていたら行かなかった?」
と聞かれたとしても僕には
「行かなかった」
と答える勇気はなかっただろう。
その答えが夏休みの
過ごし方に何かしらの影響を及ぼすだろうと懸念されたからだ。
5才の子供の夏休みのなんて親の掌一つでどうにでもなると
賢い僕は知っていた。
でも今はもう17才だ。
人生の選択権のだいたいは自分の手にある…と思われるし
この虚無感とも一人で向き合う事ができる。
先輩がいないのに
この暑さの中部活の為だけに出掛けて行くなんて気持ちの折り合いが付かない。
そうだ、ショーゴ先輩と一緒に引退するんだ。
僕の高校野球は終わったんだ。
僕が部活をやる動機はショーゴ先輩に会う為だったんだから。
先輩がいないとやる気が出ない。
正当な理由だ。
よし!野球部を辞めよう。
あ~、でもまたアイツが掴みかかってくるだろうな…
野球やれって。
ま、僕の感傷は置いといて
先輩の話に戻るけど
ショーゴ先輩はグランドでも一際目立つ美白男子で身長は
180センチ弱。
細身でスラッと伸びた手足、
それだけでも王子様キャラ確定だ。
そんな美白王子様は
イケメンの更に上のランクの
イケメン極(きわみ)で
先輩がマウンドで目深に被った
帽子を取って額の汗を拭う
姿なんてハンカチ抜きでも
もう華麗過ぎて
これまでの対戦で
バッターボックスでよく死者が出なかった…
とほっとしている。
もしうちの学校が毎年甲子園に
出場する程の強豪校だったら
「キュン死被害者の会」
が結成されていただろう。
そんな眉目秀麗な先輩に憧れて
僕は野球部に入った…
と言いたい所だが
うちの高校はとりあえず
何かしら部活動に入らなければならないので
夏はクーラーのきいた室内で
過ごせそうな文化部に入るつもりでいたのに
小学生の頃から一緒に野球部をやっていた織田誠(オダマコト)
に引っ張られて野球部に入ってしまった。
以下マコト。
入ってみて分かったのは
この学校の硬式野球部は
そこそこ弱小だと言う事。
なので小学校高学年から硬式野球をやっていた僕とマコトは春の県大会から背番号を貰う
スーパー1年生だった。
そうなると同学年のヤツらと一緒にいるよりも先輩達と一緒に居る様になる。
ちょっと前まで中学生だった
僕達からすると3年の先輩の
制服姿は熟れ感があってみんなカッコ良く見えた。
むしろ野球をやっている時より帰りの方がカッコいい。
そして引退した後に秋の大会の
応援に来てくれた時、
「野球はそこそこ弱小だったけど
私服は強豪じゃねぇ⁉」
高3の大人感に過剰に憧れた。
それに比べると2年の先輩達は
自分達の代になったのに危なっかしいと言うか頼りない。
主将になった山岡先輩も
ことある毎に僕とマコトに何か言ってくれよ~的な視線を送ってくる。
ヤレヤレ1学年上なんてこんなものか…
ショーゴ先輩もそんな
頼りないグループの一員だったけど
練習休みの期間を経て夏休みの後半に再会した(大袈裟か!)
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