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ペウシ男爵とイトヴァ・ラー・リューリ騎士団長の会食。
その様子を、ロドリゴ・エスキベルは食堂入り口で見守っていた。
和やかに会話する二人を眺めつつ、あの量ではイトヴァの腹は満たされないだろう…と、漠然と考えていた。
ロドリゴは、貴族ではあるが貧乏子爵家の4男で家を継げる立場ではなかった。
体格や体力に恵まれ騎士団に入隊した時は、この道で生きていくのだと漠然と決めていた。
遠征や公式試合で腕を上げ、それなりに名が知れるようになった頃、魔獣討伐で上司と揉めた。
あのままの作戦内容ではこちらの被害が大きいと進言した。しかし、進言は『貧乏貴族の戯言』『若造の戯言』と一掃された。
そんな作戦での任務は、予測通り被害は甚大だった。
部下は予測できた危険を予めいい含めていた為、大きな負傷が無かったのが幸いだった。
だが、一つの隊だけが被害が少ないと言うのも目立つもので、他の隊からは何故教えなかったと責められ、上司からは進言等無かったことにされた上、真っ先に逃げたのだと叩かれた。
面倒な貴族社会の縮図にも似た騎士団では、よくある事だと思うが、まだ若かったロドリゴは納得できなかった。当時は部下までもが臆病者と後ろ指を刺されたのにも我慢がならなかった。
しかし、この状況を払拭するだけの後ろ盾も無く、だんだんとヤサグレ始めた、そんな時にリューリ公爵に声をかけられた。
娘の教師兼護衛として雇いたい
とーー
護衛とは名ばかりで高飛車なお姫様の子守を押し付けられるのだろうと感じたロドリゴは、部下諸共領兵として雇ってくれるなら行く、と、言った。
領兵の給金は領主が出す。領兵が多ければ多い程、その領主の軍事力が高くなる反面維持費が掛かる。元々それなりにお抱えの騎士団を持つ領主ならばこれ以上の兵は財政を圧迫するだけだ。
しかし、リューリ公爵は、質のいい兵まで手に入る!と逆に喜び、ロドリゴは、本物の貴族の余裕を見せつけられた気がした。
こうしてロドリゴ・エスキベルはリューリ公爵令嬢 リトヴァ・ラー・リューリの教師兼護衛となった。
リューリ公爵の息女 リトヴァ・ラー・リューリに初めて会った時の印象は素直に小さいなと思った。まだ10 歳にもならないのだから当たり前だが、街や田舎で見た子供よりも一回り程小さい。
武術の教師を請け負ったのを後悔した。
体格的に明らかに武術には向かない。
女性でも最低限以上の武術を身につける事で有名な軍人貴族のリューリ公爵家だが、公爵が愛し、是非にと娶った現公爵夫人は公爵家の家風とは真逆の女性で、芸術をこよなく愛し、身体を動かす事と言えばせいぜい馬術を嗜まれる程度。
そんな奥方に似たのか、リトヴァの体つきは細く武術の訓練についてこれそうではなかった。
「護身術程度で良い。武術に興味を持ってしまって…女の身では難しいと諦めてくれるならありがたいと思っている。娘には、妻のように女性らしく、たおやかに成長してもらいたいと望んでいるのだ。」
リトヴァとの顔合わせと挨拶を終えた後、リューリ公爵に言われた言葉に安心したのは言うまでもない。
そして高飛車ではなかったのにも安心た。
早く武術への興味が失われる様にと、部下との訓練に混ぜたが、疲れた、辛い、無理と言いつつも懸命に後に着いてくるのは、素直に可愛いと思った。
妹がいたらこんな気持ちなのかもしれないーと。
そして、リューリ公爵の思いとは裏腹に、リトヴァの上達はめざましく目を引くものが見られた。
教師としては良い生徒を持ったと喜ぶべきなのであろう。
公爵の希望に添えなかったのは残念だが……
護衛として日々そばに仕えると、イトヴァが貴族の子女としても見劣りしているとは思わなかった。
貴族令嬢としてのマナーだけでなく、嗜みとして夫人から音楽を学び、他にも教師を付けて色々学んでいた。
上位貴族の子供とはこんなにも学ばなければならないのかと、下位貴族であった事に安心した。
長く共に居ると、気心も知れてくる。
好きな物、嫌いな事、怖い事、等など……
リトヴァは、気を許した相手にはとことん甘く、良くも悪くも素を晒す。
「お嬢様なんて柄じゃない。」
と、名前で呼ぶよう言われた時は流石に呆れた。
社交界では公爵令嬢として振る舞いつつも、ロドリゴの前では年頃の子供だった。
キャンプなどと言う外に張った天幕で一晩を過ごす遊びをするのだと言ってきかず、庭に天幕を張って一緒に過ごした事もあった。
雷は綺麗だとワザワザ外に出て見に行くのに、暴風は怖がり、夜に激しい風が吹くと怖いからどこにも行かないでとしがみついていたのが思い出される。
だが、王都の学園に入学されると顔を合わせる事が少なくなった。
学園での学業に騎士団の予備訓練、そして、学友との親交。
常に共に過ごしてきたロドリゴに寂しさがあったのは事実だ。
そんな中、皇帝ご夫妻と皇子の崩御の知らせが届いた。
友好国と属国の裏切りによる殺害ーー
帝国の隣、コンタリニ王国とは両国夫妻が親友と言う事もあり非常に良好な関係を保っていた。
皇帝が帝国周辺国を属国とする際には共感協力し、共に歩んだ仲でもあった。
そして、皇子のフィアンセがコンタリニ王国の姫君であり、国同士としても強い繋がりのあった国だった。
そんな国の裏切りは衝撃をもたらした。
視察団は皇帝夫妻の亡骸と重症の皇子を連れ、命からがら戻ってきた。
皇子の傷は深く、毒まで使用されており、王宮に戻って3日後に崩御された。
リューリ公爵家も混乱の中にあった。
リューリ公爵は皇帝とも王国国王とも旧友だった。
そして、今回の視察には皇子の友人でもある学園生徒が共について行っていた。その中に、リューリ公爵子息も居た。
皇子の側に使えていた子息も重症を負いながら皇子を抱え脱出。生き残った学友と共に救出された。
兄君と仲の良かったリトヴァは、王国裏切りの知らせで酷く狼狽え、落ち着かせるのに苦労したのを覚えている。助けに行くと剣を取り馬に乗ろうとしたのを力強くで止めた。重症ではあったが、兄が戻ってきた、生きていたと泣いて安堵していた。そして、家族を、大切な人達を傷つけられたと怒っていた。
この混乱の中で真っ先に動いたのは役職を戴く大人ではなく、子供達だった。
皇女が旗頭となり、王国討伐の軍が編成された。
編成された軍の殆どは皇女が打診した選びぬかれた者達。
今回の裏切りで家族を失った者、メンツを潰されたに等しい騎士団。
そして、皇女が認め自ら打診した特別な者達。
その中にリトヴァが居た。
リトヴァは二つ返事で了承した。
皇女は、帝国内をリューリ公爵家他信頼が置ける者達に任せ、自ら剣を取り、進軍した。
ロドリゴと部下は公爵の願いもあり、リトヴァについて参加した。いざとなれば、皇女を見捨て、担いてでもリトヴァだけは連れて逃げる覚悟だった。
たとえ臆病者、裏切り者と誹られ、リトヴァに憎まれても良い。目の前で殺される方が、いなくなる方がロドリゴには耐えられなかった。
だが、蓋を開けてみれば皇女軍の圧勝だった。
もちろん、精鋭揃いの騎士団の活躍は目を見張るものがあった。
しかし、何よりも突出して戦果を上げたのは、皇女が指名した特別な者達だった。
ロドリゴの目の前での繰り広げられたのは、リトヴァの振るう刃による、まさに蹂躙だった。
学園を卒業もしていない少女がーー
18歳の成人の儀を終えていない少女がーー
騎士でもない少女がーー
『力があるにこしたことはないでしょ?自分が守りたいと思った人達を守るのに役に立つから……なんて、陛下やお父様が居れば、自分の出番なんて無いのだけど…』
そいう言って笑っていたイトヴァーー
それが、敵国民殲滅という皇女勅命を受け、学園の制服に身を包み、血溜まりの中に笑顔で一人で立っているのが溜まらなく腹立たしかった。
皇帝陛下ご夫婦が健在ならば、こんなことになっていなかったーー
皇子が生きていれば、こんなことになっていなかったーー
使節団が何事もなく戻り、兄君も健在でーー
そうでなかったのはーー
裏切りが無ければーー
イトヴァはあんな血溜まりの中で笑わずにすんだのだ……
今までと同じーー幸せなイトヴァと俺達ーーでいれたのだ……
平穏を脅かされるのは生命を脅かされるのと同意ではないのか?
ロドリゴにとって、イトヴァの側が平穏になっていた。
イトヴァが居て、イトヴァを愛する者達がいて、イトヴァを護る俺達が居る。
血溜まりで立つイトヴァを一人にはしないし、させない。
イトヴァには、多くの人命を屠った者としての重荷がのしかかる事になる。
それが肉体になのか、精神になのか、肩書になのか、その全てなのかーー
その重荷を、今この瞬間の重荷を共に背負い、支えられるのは、この場に共に居る己しかないのだ。
イトヴァ・ラー・リューリ公爵令嬢初陣の日、ロドリゴ・エスキベルは決してイトヴァから離れないと決めた。
過去に飛んでいた意識がペウシ男爵とイトヴァの笑い声が引き戻す。
「ワインよりも果実酒の方がよろしかったようですな。」
「ワインの渋味が苦手で……このリンゴ酒は美味しいです。お土産に持って帰ろうか思うほどです。」
「では、手配いたしましょうか?」
「いいのですか?」
「ただし、ご自身の資金からの出費になりますが…」
「もちろん構いません。自分の土産を他者に買わせては意味が無い」
ーー会食は終盤。
もう1、2杯グラスを空ければ終わるだろう。
その様子を、ロドリゴ・エスキベルは食堂入り口で見守っていた。
和やかに会話する二人を眺めつつ、あの量ではイトヴァの腹は満たされないだろう…と、漠然と考えていた。
ロドリゴは、貴族ではあるが貧乏子爵家の4男で家を継げる立場ではなかった。
体格や体力に恵まれ騎士団に入隊した時は、この道で生きていくのだと漠然と決めていた。
遠征や公式試合で腕を上げ、それなりに名が知れるようになった頃、魔獣討伐で上司と揉めた。
あのままの作戦内容ではこちらの被害が大きいと進言した。しかし、進言は『貧乏貴族の戯言』『若造の戯言』と一掃された。
そんな作戦での任務は、予測通り被害は甚大だった。
部下は予測できた危険を予めいい含めていた為、大きな負傷が無かったのが幸いだった。
だが、一つの隊だけが被害が少ないと言うのも目立つもので、他の隊からは何故教えなかったと責められ、上司からは進言等無かったことにされた上、真っ先に逃げたのだと叩かれた。
面倒な貴族社会の縮図にも似た騎士団では、よくある事だと思うが、まだ若かったロドリゴは納得できなかった。当時は部下までもが臆病者と後ろ指を刺されたのにも我慢がならなかった。
しかし、この状況を払拭するだけの後ろ盾も無く、だんだんとヤサグレ始めた、そんな時にリューリ公爵に声をかけられた。
娘の教師兼護衛として雇いたい
とーー
護衛とは名ばかりで高飛車なお姫様の子守を押し付けられるのだろうと感じたロドリゴは、部下諸共領兵として雇ってくれるなら行く、と、言った。
領兵の給金は領主が出す。領兵が多ければ多い程、その領主の軍事力が高くなる反面維持費が掛かる。元々それなりにお抱えの騎士団を持つ領主ならばこれ以上の兵は財政を圧迫するだけだ。
しかし、リューリ公爵は、質のいい兵まで手に入る!と逆に喜び、ロドリゴは、本物の貴族の余裕を見せつけられた気がした。
こうしてロドリゴ・エスキベルはリューリ公爵令嬢 リトヴァ・ラー・リューリの教師兼護衛となった。
リューリ公爵の息女 リトヴァ・ラー・リューリに初めて会った時の印象は素直に小さいなと思った。まだ10 歳にもならないのだから当たり前だが、街や田舎で見た子供よりも一回り程小さい。
武術の教師を請け負ったのを後悔した。
体格的に明らかに武術には向かない。
女性でも最低限以上の武術を身につける事で有名な軍人貴族のリューリ公爵家だが、公爵が愛し、是非にと娶った現公爵夫人は公爵家の家風とは真逆の女性で、芸術をこよなく愛し、身体を動かす事と言えばせいぜい馬術を嗜まれる程度。
そんな奥方に似たのか、リトヴァの体つきは細く武術の訓練についてこれそうではなかった。
「護身術程度で良い。武術に興味を持ってしまって…女の身では難しいと諦めてくれるならありがたいと思っている。娘には、妻のように女性らしく、たおやかに成長してもらいたいと望んでいるのだ。」
リトヴァとの顔合わせと挨拶を終えた後、リューリ公爵に言われた言葉に安心したのは言うまでもない。
そして高飛車ではなかったのにも安心た。
早く武術への興味が失われる様にと、部下との訓練に混ぜたが、疲れた、辛い、無理と言いつつも懸命に後に着いてくるのは、素直に可愛いと思った。
妹がいたらこんな気持ちなのかもしれないーと。
そして、リューリ公爵の思いとは裏腹に、リトヴァの上達はめざましく目を引くものが見られた。
教師としては良い生徒を持ったと喜ぶべきなのであろう。
公爵の希望に添えなかったのは残念だが……
護衛として日々そばに仕えると、イトヴァが貴族の子女としても見劣りしているとは思わなかった。
貴族令嬢としてのマナーだけでなく、嗜みとして夫人から音楽を学び、他にも教師を付けて色々学んでいた。
上位貴族の子供とはこんなにも学ばなければならないのかと、下位貴族であった事に安心した。
長く共に居ると、気心も知れてくる。
好きな物、嫌いな事、怖い事、等など……
リトヴァは、気を許した相手にはとことん甘く、良くも悪くも素を晒す。
「お嬢様なんて柄じゃない。」
と、名前で呼ぶよう言われた時は流石に呆れた。
社交界では公爵令嬢として振る舞いつつも、ロドリゴの前では年頃の子供だった。
キャンプなどと言う外に張った天幕で一晩を過ごす遊びをするのだと言ってきかず、庭に天幕を張って一緒に過ごした事もあった。
雷は綺麗だとワザワザ外に出て見に行くのに、暴風は怖がり、夜に激しい風が吹くと怖いからどこにも行かないでとしがみついていたのが思い出される。
だが、王都の学園に入学されると顔を合わせる事が少なくなった。
学園での学業に騎士団の予備訓練、そして、学友との親交。
常に共に過ごしてきたロドリゴに寂しさがあったのは事実だ。
そんな中、皇帝ご夫妻と皇子の崩御の知らせが届いた。
友好国と属国の裏切りによる殺害ーー
帝国の隣、コンタリニ王国とは両国夫妻が親友と言う事もあり非常に良好な関係を保っていた。
皇帝が帝国周辺国を属国とする際には共感協力し、共に歩んだ仲でもあった。
そして、皇子のフィアンセがコンタリニ王国の姫君であり、国同士としても強い繋がりのあった国だった。
そんな国の裏切りは衝撃をもたらした。
視察団は皇帝夫妻の亡骸と重症の皇子を連れ、命からがら戻ってきた。
皇子の傷は深く、毒まで使用されており、王宮に戻って3日後に崩御された。
リューリ公爵家も混乱の中にあった。
リューリ公爵は皇帝とも王国国王とも旧友だった。
そして、今回の視察には皇子の友人でもある学園生徒が共について行っていた。その中に、リューリ公爵子息も居た。
皇子の側に使えていた子息も重症を負いながら皇子を抱え脱出。生き残った学友と共に救出された。
兄君と仲の良かったリトヴァは、王国裏切りの知らせで酷く狼狽え、落ち着かせるのに苦労したのを覚えている。助けに行くと剣を取り馬に乗ろうとしたのを力強くで止めた。重症ではあったが、兄が戻ってきた、生きていたと泣いて安堵していた。そして、家族を、大切な人達を傷つけられたと怒っていた。
この混乱の中で真っ先に動いたのは役職を戴く大人ではなく、子供達だった。
皇女が旗頭となり、王国討伐の軍が編成された。
編成された軍の殆どは皇女が打診した選びぬかれた者達。
今回の裏切りで家族を失った者、メンツを潰されたに等しい騎士団。
そして、皇女が認め自ら打診した特別な者達。
その中にリトヴァが居た。
リトヴァは二つ返事で了承した。
皇女は、帝国内をリューリ公爵家他信頼が置ける者達に任せ、自ら剣を取り、進軍した。
ロドリゴと部下は公爵の願いもあり、リトヴァについて参加した。いざとなれば、皇女を見捨て、担いてでもリトヴァだけは連れて逃げる覚悟だった。
たとえ臆病者、裏切り者と誹られ、リトヴァに憎まれても良い。目の前で殺される方が、いなくなる方がロドリゴには耐えられなかった。
だが、蓋を開けてみれば皇女軍の圧勝だった。
もちろん、精鋭揃いの騎士団の活躍は目を見張るものがあった。
しかし、何よりも突出して戦果を上げたのは、皇女が指名した特別な者達だった。
ロドリゴの目の前での繰り広げられたのは、リトヴァの振るう刃による、まさに蹂躙だった。
学園を卒業もしていない少女がーー
18歳の成人の儀を終えていない少女がーー
騎士でもない少女がーー
『力があるにこしたことはないでしょ?自分が守りたいと思った人達を守るのに役に立つから……なんて、陛下やお父様が居れば、自分の出番なんて無いのだけど…』
そいう言って笑っていたイトヴァーー
それが、敵国民殲滅という皇女勅命を受け、学園の制服に身を包み、血溜まりの中に笑顔で一人で立っているのが溜まらなく腹立たしかった。
皇帝陛下ご夫婦が健在ならば、こんなことになっていなかったーー
皇子が生きていれば、こんなことになっていなかったーー
使節団が何事もなく戻り、兄君も健在でーー
そうでなかったのはーー
裏切りが無ければーー
イトヴァはあんな血溜まりの中で笑わずにすんだのだ……
今までと同じーー幸せなイトヴァと俺達ーーでいれたのだ……
平穏を脅かされるのは生命を脅かされるのと同意ではないのか?
ロドリゴにとって、イトヴァの側が平穏になっていた。
イトヴァが居て、イトヴァを愛する者達がいて、イトヴァを護る俺達が居る。
血溜まりで立つイトヴァを一人にはしないし、させない。
イトヴァには、多くの人命を屠った者としての重荷がのしかかる事になる。
それが肉体になのか、精神になのか、肩書になのか、その全てなのかーー
その重荷を、今この瞬間の重荷を共に背負い、支えられるのは、この場に共に居る己しかないのだ。
イトヴァ・ラー・リューリ公爵令嬢初陣の日、ロドリゴ・エスキベルは決してイトヴァから離れないと決めた。
過去に飛んでいた意識がペウシ男爵とイトヴァの笑い声が引き戻す。
「ワインよりも果実酒の方がよろしかったようですな。」
「ワインの渋味が苦手で……このリンゴ酒は美味しいです。お土産に持って帰ろうか思うほどです。」
「では、手配いたしましょうか?」
「いいのですか?」
「ただし、ご自身の資金からの出費になりますが…」
「もちろん構いません。自分の土産を他者に買わせては意味が無い」
ーー会食は終盤。
もう1、2杯グラスを空ければ終わるだろう。
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