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護る者達

朝の散歩

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父と兄が討伐の為に自宅を出て三日目。

今日も晴天だ。

突然ですが、お貴族様は自分で着替えをしないのだ。
夜会などのドレスだけだなく、普段着や下着さえもお付きのメイドにしてもらうらしい。

いや~、勘弁して欲しい。
そのせいでクローゼットの中の衣類のほとんどは、上段から吊り下げられている。
それがワンピース等の丈のある衣類ならなおのこと。
着たい服に手が届かないクローゼットって……
子供用のクローゼットなのに、メイドに合わせた作りって……

チクショー!!
チビには手が届かない!!
将来は、少しでも背が伸びますように……。
せめて、160は欲しい!!
いっそ、155でも我慢する!!
絶対150以上でお願いします!!!
将来の身長が、前世に引っ張られないことを祈らずにはいられない……。

勿論、メイドに着せてもらうこともある。
メイドに起こされた朝や、面倒で待っていたりする時は着せてもらう。
だが、今日は朝のサワヤカ~な光でスッキリ目覚めたのだ。
スッキリ目覚めすぎて、テンションがヤっっバイ!!!

何だか無性に勿体無い気がした。

部屋の窓を開ければ、早朝ならではの、ひんやりとした澄んだ空気。
うっすら霞がかかったような景色。

(昇る太陽は、燃え上がるような逞しさよりも、初々しさと優しさがあった。なーんて、ポエムが出るほどのテンションが!……。そうだ……!!)

突然の思い付き。

(散歩に行こう!!!)

思い立って、すぐ行動。
そして、現在、クローゼットの中身と格闘中。

クローゼットと開け、引摺り持ってきた椅子に乗り、背伸びをして服をハンガー、こちらでは『ドレスかけ』だが、ハンガーでいいでしょ?
とにかく、現在、ハンガーから着る服を引っ張り外している最中なのだ。

ワンピースの裾を引っ張り斜めにし、反対の手で肩口の端を押し上げる。
するとほんの少しハンガーが浮く。
そのタイミングで裾を引っ張れば……
ほら、とーれたー。

ふわふわネグリジェタイプの寝間着を脱ぎ、ベッドの上に畳んで置く。
ゲットした薄茶のワンピースを着て、靴を履き、部屋を出る。

ハンガーは、元の位置に戻せないので、畳んだ寝間着の横に置いておいた。

廊下には誰もおらず、朝の静寂に包まれている。
いつもとは違う、その光景に胸が高鳴る。
小走りで廊下と階段を通り、一階にあるサンルーム状になったテラスの扉のを開け、外に出る。

昇ったばかりの太陽に照らされ、庭の草の瑞々しさが際立つ。
「いや~、この世界は芝生じゃなくてミツバなんだね~シロツメクサ咲かないけど~きっとミツバでもシロツメクサでも無いんだろうけど~四つ葉とかあるかな~どうでも良いけど~~」
遠くで、馬の嘶く声が聞こえる。
散歩先は決まった。
微かに聞こえる馬の嘶きの方へ歩き出す。
「や~~、えー天気や~~」


ハロルドは、食堂で主人であるドラモント家のご家族が取る予定の朝食のセッティングを確認していた。

当主であるアイヴァン様が不在だからと手を抜くことは許されない。
仕えるのはドラモント一族の皆様。
特に、大討伐の期間は当主不在となり、当主夫人への負担が増える。
故に、その負担軽減もハロルド達仕える者の仕事。

(まずは、美味しい朝食で今日一日の活力を……)
「ハロルド様!!」
食堂の扉を勢いよく開け、メイドが一人、まさに転がり込んでくる。
「どうしました?」
見れば、本日リオノーラ様付きのメイドが蒼白で息を切らせて立っている。
「リ、リオノーラ様がっ!!」
「お嬢様?」
ドキリと心臓が跳ねる。

公爵家に仕えるメイドは、突然の出来事にも動じない様、きちんと教育されている者達ばかりだ。
そのメイドが慌てている。
それは、不測何事か、それも、お嬢様の身に危険及ぶ畏れがあるということ。

メイドは涙目だ。
「お嬢様がお部屋に居られません!!ベッドに寝間着が置かれていて…、お洋服が一着無くて…、お部屋のどこにも…、靴も一足ありませんっ!お一人で外に行かれたのかもっ!」
ハロルドは、側に居たメイドの一人にこの事を奥様に伝えるように命じる。
メイドは黙礼し、駆け出す。
本来、屋敷内を駆ける事は無いが、今は緊急だ。
「誰かに外を探すように言いましたか?」
問えば、メイドは頷く。
「はい!途中で副執事のテレンス様に会いお伝えし、現在、屋敷内を…、一緒に居られたテッドさんは外を見に行かれました…どうしましょう、お嬢様に何かあったら……」
「わかりました。落ち着いて下さい。お嬢様の事です、大丈夫ですよ。」
不安から涙を流すメイドの肩に手を置き、落ち着かせる。
「貴女は奥様の所へ行き、詳しい報告を。私はとりあずテレンスと合流します。」
「は、はい…。」
メイドは一礼し、奥様の部屋へ向かう。
明らかに動揺し、手が止まっている者達に、
「貴方達は、このまま朝食のセッティングをお願いします。」
と、伝え、副執事を探すため食堂を出る。


馬屋では、沢山の馬が嘶いていた。
茶、黒、灰……色も違えば大きさも違う馬達。
一般的な四本足の馬。
馬達には極小の角や羽根が付いている。
額に二本の小さな角がある茶色の馬。
背の中程に申し訳程度の羽根がちょこんとある灰色の馬。
等々。
馬も、かつての世界とは違うようだ。


馬屋の馬房は半分程が空いている。
討伐に行っている馬達の部屋。

空っぽなのが、何だか寂しい。

(馬の世話役とか、居ないのかな……)

馬は居るのに、今のところ人に会っていない。

ブルル、と馬の声がする。
そちらを見ると、黄色い馬が顔を覗かせている。
黄色い馬の肩口には小さな羽根が片方にだけ有る。

から、馬が好きだった。
だからか、手が延び、モゾモゾ動く鼻先をこちょこちょ撫でる。
ブフリ、と鼻息が一つ。
「へへっ」
笑いが漏れる。

「カワイイの~~エエコじゃの~~」

撫で回す手から馬が離れ、馬房の中で体を横たえる。
首を丸め、だが、つぶらな瞳は此方を見つめている。
馬房の柵の隙間から中に入りーー、そっと触れる。
首を、背を、耳の間を、額を、極少の羽根の付け根を撫でる。
撫でて、馬の体温を感じる。
心地よい体温ーーその体温を感じ目をつむる。


ハロルドとテレンスはテラスの扉の鍵を見ていた。
昨晩、戸締まりの確認はしっかりされていた。
そして、唯一開けられた鍵。
「おそらく、ここから外に出られたのではないかと思われます。」
副執事のテレンスはため息混じりだ。
傍目からも苛ついているのがわかる。
声色にも隠してはいるが、怒気が含まれている
「落ち着きなさい。夜番の者は侵入者の形跡は無いと言っていました。同様に、何者かが出た形跡も。お嬢様は少なくとも敷地内には居ます。」
「その敷地がどれ程かーー」
「わかっています。」
最後まで言わせない。しかし、テレンスは食い下がる。
「しかし」
「私はテッドと合流し、外を探します。貴方は奥様にこの事をお伝えし、お側にいて差し上げなさい。心配をされていると思いますので。」
「…かしこまりました。」
不満を隠しきれない背を見つめる。

ハロルドは、テレンスを心配していた。
貴族に強く憧れを抱き、何よりも貴族たることを主人に望む。
他人にも、自身にも厳しい。
そして、主人にも。
早くに母を亡くし、男親と男兄弟の中で過ごし育ったテレンス。
故に、女児との距離を掴めないでいるのだろう。
だから、リオノーラ様との関係が余り良好で無いのでは…
と、考えていた。
しかし…だったとしても……度が過ぎれば不興をかう。
(杞憂なら良いのですが…)

ハロルドはテラスから外に出る。
既に早朝の白んだ明るさではなく、しっかりとした朝日が照らしている。

使用人のテッドは庭園を見に行くと言って外に出たそうだ。
「さて、困りましたね。」
お転婆なリオノーラ様にも
甘えん坊なレスター様にも
そして、気難しいテレンスも
色々と……ね、
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