ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音

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エピローグ

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「そう、だったんだ。メイをあやつってたクモの鬼が、あたしを……。」
「……ああ。鬼は、まず南を糸を使って支配して、人封じの鏡を盗ませて……それから、みんなをさらったんだと思う。」
百城くんの言葉に、茉莉花ちゃんは小さく、そっか、と言った。

――鬼を倒し、みんなを助けたあの後。
百城くんは、行方不明者のことを百城家を通して警察に話してくれた。
さらわれた四人が今までどこにいたのか、どうやって生活していたのか、など説明できないことはたくさんあるけど、百城家がそのあたりを調整をしてくれるらしい。
そして、無事、一件落着となったあとに。
わたしと百城くんは、被害者の中で唯一鬼のことを視ることができた茉莉花ちゃんに事情を説明するべく、彼女の部屋を訪れていた。
「おかしいとは思ってたんだよね。メイ、中学に入ってからいきなり性格変わったから。優等生みたいになっちゃったりするし。」
……もっと早く気づいてたら、こんなことにはならなかったのかな。
そうつぶやいて、茉莉花ちゃんはため息をついた。
「茉莉花ちゃんも他の四人と同じで、さらわれてたあいだの記憶はないの?」
「まあね。メイもあやつられてる時の記憶、ないみたいだった。」
 けれど、茉莉花ちゃんは「まあでも、いやなことばっかじゃないよ。」とつけ加える。
「この事件で、お父さんもよくあたしを気にかけてくれるようになったし。お義母さんとも話し合ってくれてるみたいだったから。」
「そうなんだ……! よかった!」
ほっとした。このまま、家族ともうまくいくといいな。
すると、茉莉花ちゃんは少し恥ずかしそうに、「それに」とつけ加えた。
「……鬼が視える人が、他にいるのもわかったから。」
「え?」
「宗くんも視えて退治できるってことは、助けてもらったこともあって知ったけど。宗くんは退治屋だから、視えるだけで近づいていくのも、メーワクかなって思って……。」
あたし、ずっと一人で鬼を見ないふりしてたからさ。
茉莉花ちゃんはそう言って、ちら、とわたしを見た。
(そっか……そうだよね……。)
彼女は家族にも話せず、鬼が見えるヒミツをずっと一人で抱え込んできたんだ。
怖い鬼もいただろうに、必死で見ないフリをしてきた。……それがどれだけ大変なことだったか、わたしには想像もつかない。
わたしがいることで、茉莉花ちゃんの心の支えになるなら何よりだ。
「今度から……鬼のことでもし何かあったら、わたしが話聞くから。茉莉花ちゃんもわたしが話したら、聞いてくれる?」
「……いいよ。しょーがないから、聞いてあげる。」
そっぽを向いてそう言った茉莉花ちゃん。やった。
しかしそこで、不意に彼女がこっちをにらんできた。
えっ、と思わずひるむと、茉莉花ちゃんはわたしに耳打ちしてくる。
「助けてくれたことには感謝するけど! 宗くんのこと独り占めはダメだからね!」
「しないよ……。」
うーん、そこは信用されてないか。わたしは苦笑する。
ちゃんと仲良くなるには時間が必要かもだけど、いつかふつうの友達になれるといいな。



  *



『ほお、なかなか罪作りな男だなお前は。』
「何の話だ……。」
茉莉花ちゃんの部屋の外で待機していた氷の王に今の話をすると、彼は少し呆れたようにそう言った。そう、百城くんは罪作りな人気者なんです。
まあ本人はあんまり関心がなくて、気づいてないみたいだけど。
『まあなんにせよ、童とユキがどうこうというのはないだろう。』
そう言って、氷の王はにやりと笑う。
『ユキは俺のご主人様であるわけだしな。ちんちくりんの童を相手にしているヒマなどないだろうよ。』
「はあ? 誰がちんちくりんだ、誰が! そもそも、お前はさんざん俺たちを引っかき回しただろ。よく、臆面もなくそんなことが言えるな。」
『まあ、今回の件で俺はユキを真の主として認めたわけだからな。今までとはちがうのは、当然だ。』
えっ。わたしはぽかん、として、真っ白い美少年を見上げる。
もちろん、百城くんもぽかんとしている。
「あ、主として認めた……?」
『ああ。土壇場でも自分をつらぬく胆力に、興味深さを覚えた。大人しく、ユキのしもべにおさまっているのも悪くない。』
氷の王はそう言うと、勝ち誇ったようにわたしの肩を抱いた。
ヒェッ、と悲鳴をもらすわたしに、百城くんがまなじりを吊り上げる。
「勝手なことを……。とっとと木花から離れろ。何をするかわかったものじゃない。」
『おや、信用がないな。残念だ。』
 わざとらしく肩をすくめる氷の王。
 そんな彼をにらみつけてから、百城くんは少し眉を下げてこちらを見た。
「結局、木花には助けてもらってばかりだったな。」
「……ううん。そんなことないよ。」
 百城くんがいなかったら、あの五人を助けることはできなかっただろう。
 それだけじゃない。
 わたしが封印を解いてしまったのに、百城くんはそれを責めずに、そばにいてくれた。
 彼がいてくれたから、わたしは氷の王の主になっても、不安にならずに済んだんだ。
「わたし、百城くんに、ずっと守ってもらってたよ。ありがとう。」
「……そうか。」
 百城くんが、わずかにほほえむ。
 ふだんあんまり表情を見せない彼の、笑顔にちょっぴりドキッとしたところで、
「――見ていろ、氷の王。」
 すぐさま表情を険しくさせた百城くんが、氷の王をにらみつけた。
「木花のためにも、いつか必ず、お前を完全封印する方法を見つけてやるからな。」
『はっ。やれるものなら、やってみろ。そもそも、今回のクモの鬼に関しては、お前などよりよほどオレのほうがユキの役に立ったと思うがなあ?』
「なんだと……?」
 あああー、だから、往来で火花を散らさないで……。

 ……わたしは、最強の鬼の主さま。だからこれからも、今回みたいなトラブルに巻き込まれるかもしれない。
 それでもまあ、彼らといっしょなら、きっと強い心を持って前を向けるかな。
 そんなことを考えながら、わたしはにらみあう二人に向かって、「やめなよー。」と声をかけるのだった。
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