26 / 26
エピローグ
しおりを挟む
「そう、だったんだ。メイをあやつってたクモの鬼が、あたしを……。」
「……ああ。鬼は、まず南を糸を使って支配して、人封じの鏡を盗ませて……それから、みんなをさらったんだと思う。」
百城くんの言葉に、茉莉花ちゃんは小さく、そっか、と言った。
――鬼を倒し、みんなを助けたあの後。
百城くんは、行方不明者のことを百城家を通して警察に話してくれた。
さらわれた四人が今までどこにいたのか、どうやって生活していたのか、など説明できないことはたくさんあるけど、百城家がそのあたりを調整をしてくれるらしい。
そして、無事、一件落着となったあとに。
わたしと百城くんは、被害者の中で唯一鬼のことを視ることができた茉莉花ちゃんに事情を説明するべく、彼女の部屋を訪れていた。
「おかしいとは思ってたんだよね。メイ、中学に入ってからいきなり性格変わったから。優等生みたいになっちゃったりするし。」
……もっと早く気づいてたら、こんなことにはならなかったのかな。
そうつぶやいて、茉莉花ちゃんはため息をついた。
「茉莉花ちゃんも他の四人と同じで、さらわれてたあいだの記憶はないの?」
「まあね。メイもあやつられてる時の記憶、ないみたいだった。」
けれど、茉莉花ちゃんは「まあでも、いやなことばっかじゃないよ。」とつけ加える。
「この事件で、お父さんもよくあたしを気にかけてくれるようになったし。お義母さんとも話し合ってくれてるみたいだったから。」
「そうなんだ……! よかった!」
ほっとした。このまま、家族ともうまくいくといいな。
すると、茉莉花ちゃんは少し恥ずかしそうに、「それに」とつけ加えた。
「……鬼が視える人が、他にいるのもわかったから。」
「え?」
「宗くんも視えて退治できるってことは、助けてもらったこともあって知ったけど。宗くんは退治屋だから、視えるだけで近づいていくのも、メーワクかなって思って……。」
あたし、ずっと一人で鬼を見ないふりしてたからさ。
茉莉花ちゃんはそう言って、ちら、とわたしを見た。
(そっか……そうだよね……。)
彼女は家族にも話せず、鬼が見えるヒミツをずっと一人で抱え込んできたんだ。
怖い鬼もいただろうに、必死で見ないフリをしてきた。……それがどれだけ大変なことだったか、わたしには想像もつかない。
わたしがいることで、茉莉花ちゃんの心の支えになるなら何よりだ。
「今度から……鬼のことでもし何かあったら、わたしが話聞くから。茉莉花ちゃんもわたしが話したら、聞いてくれる?」
「……いいよ。しょーがないから、聞いてあげる。」
そっぽを向いてそう言った茉莉花ちゃん。やった。
しかしそこで、不意に彼女がこっちをにらんできた。
えっ、と思わずひるむと、茉莉花ちゃんはわたしに耳打ちしてくる。
「助けてくれたことには感謝するけど! 宗くんのこと独り占めはダメだからね!」
「しないよ……。」
うーん、そこは信用されてないか。わたしは苦笑する。
ちゃんと仲良くなるには時間が必要かもだけど、いつかふつうの友達になれるといいな。
*
『ほお、なかなか罪作りな男だなお前は。』
「何の話だ……。」
茉莉花ちゃんの部屋の外で待機していた氷の王に今の話をすると、彼は少し呆れたようにそう言った。そう、百城くんは罪作りな人気者なんです。
まあ本人はあんまり関心がなくて、気づいてないみたいだけど。
『まあなんにせよ、童とユキがどうこうというのはないだろう。』
そう言って、氷の王はにやりと笑う。
『ユキは俺のご主人様であるわけだしな。ちんちくりんの童を相手にしているヒマなどないだろうよ。』
「はあ? 誰がちんちくりんだ、誰が! そもそも、お前はさんざん俺たちを引っかき回しただろ。よく、臆面もなくそんなことが言えるな。」
『まあ、今回の件で俺はユキを真の主として認めたわけだからな。今までとはちがうのは、当然だ。』
えっ。わたしはぽかん、として、真っ白い美少年を見上げる。
もちろん、百城くんもぽかんとしている。
「あ、主として認めた……?」
『ああ。土壇場でも自分をつらぬく胆力に、興味深さを覚えた。大人しく、ユキのしもべにおさまっているのも悪くない。』
氷の王はそう言うと、勝ち誇ったようにわたしの肩を抱いた。
ヒェッ、と悲鳴をもらすわたしに、百城くんがまなじりを吊り上げる。
「勝手なことを……。とっとと木花から離れろ。何をするかわかったものじゃない。」
『おや、信用がないな。残念だ。』
わざとらしく肩をすくめる氷の王。
そんな彼をにらみつけてから、百城くんは少し眉を下げてこちらを見た。
「結局、木花には助けてもらってばかりだったな。」
「……ううん。そんなことないよ。」
百城くんがいなかったら、あの五人を助けることはできなかっただろう。
それだけじゃない。
わたしが封印を解いてしまったのに、百城くんはそれを責めずに、そばにいてくれた。
彼がいてくれたから、わたしは氷の王の主になっても、不安にならずに済んだんだ。
「わたし、百城くんに、ずっと守ってもらってたよ。ありがとう。」
「……そうか。」
百城くんが、わずかにほほえむ。
ふだんあんまり表情を見せない彼の、笑顔にちょっぴりドキッとしたところで、
「――見ていろ、氷の王。」
すぐさま表情を険しくさせた百城くんが、氷の王をにらみつけた。
「木花のためにも、いつか必ず、お前を完全封印する方法を見つけてやるからな。」
『はっ。やれるものなら、やってみろ。そもそも、今回のクモの鬼に関しては、お前などよりよほどオレのほうがユキの役に立ったと思うがなあ?』
「なんだと……?」
あああー、だから、往来で火花を散らさないで……。
……わたしは、最強の鬼の主さま。だからこれからも、今回みたいなトラブルに巻き込まれるかもしれない。
それでもまあ、彼らといっしょなら、きっと強い心を持って前を向けるかな。
そんなことを考えながら、わたしはにらみあう二人に向かって、「やめなよー。」と声をかけるのだった。
「……ああ。鬼は、まず南を糸を使って支配して、人封じの鏡を盗ませて……それから、みんなをさらったんだと思う。」
百城くんの言葉に、茉莉花ちゃんは小さく、そっか、と言った。
――鬼を倒し、みんなを助けたあの後。
百城くんは、行方不明者のことを百城家を通して警察に話してくれた。
さらわれた四人が今までどこにいたのか、どうやって生活していたのか、など説明できないことはたくさんあるけど、百城家がそのあたりを調整をしてくれるらしい。
そして、無事、一件落着となったあとに。
わたしと百城くんは、被害者の中で唯一鬼のことを視ることができた茉莉花ちゃんに事情を説明するべく、彼女の部屋を訪れていた。
「おかしいとは思ってたんだよね。メイ、中学に入ってからいきなり性格変わったから。優等生みたいになっちゃったりするし。」
……もっと早く気づいてたら、こんなことにはならなかったのかな。
そうつぶやいて、茉莉花ちゃんはため息をついた。
「茉莉花ちゃんも他の四人と同じで、さらわれてたあいだの記憶はないの?」
「まあね。メイもあやつられてる時の記憶、ないみたいだった。」
けれど、茉莉花ちゃんは「まあでも、いやなことばっかじゃないよ。」とつけ加える。
「この事件で、お父さんもよくあたしを気にかけてくれるようになったし。お義母さんとも話し合ってくれてるみたいだったから。」
「そうなんだ……! よかった!」
ほっとした。このまま、家族ともうまくいくといいな。
すると、茉莉花ちゃんは少し恥ずかしそうに、「それに」とつけ加えた。
「……鬼が視える人が、他にいるのもわかったから。」
「え?」
「宗くんも視えて退治できるってことは、助けてもらったこともあって知ったけど。宗くんは退治屋だから、視えるだけで近づいていくのも、メーワクかなって思って……。」
あたし、ずっと一人で鬼を見ないふりしてたからさ。
茉莉花ちゃんはそう言って、ちら、とわたしを見た。
(そっか……そうだよね……。)
彼女は家族にも話せず、鬼が見えるヒミツをずっと一人で抱え込んできたんだ。
怖い鬼もいただろうに、必死で見ないフリをしてきた。……それがどれだけ大変なことだったか、わたしには想像もつかない。
わたしがいることで、茉莉花ちゃんの心の支えになるなら何よりだ。
「今度から……鬼のことでもし何かあったら、わたしが話聞くから。茉莉花ちゃんもわたしが話したら、聞いてくれる?」
「……いいよ。しょーがないから、聞いてあげる。」
そっぽを向いてそう言った茉莉花ちゃん。やった。
しかしそこで、不意に彼女がこっちをにらんできた。
えっ、と思わずひるむと、茉莉花ちゃんはわたしに耳打ちしてくる。
「助けてくれたことには感謝するけど! 宗くんのこと独り占めはダメだからね!」
「しないよ……。」
うーん、そこは信用されてないか。わたしは苦笑する。
ちゃんと仲良くなるには時間が必要かもだけど、いつかふつうの友達になれるといいな。
*
『ほお、なかなか罪作りな男だなお前は。』
「何の話だ……。」
茉莉花ちゃんの部屋の外で待機していた氷の王に今の話をすると、彼は少し呆れたようにそう言った。そう、百城くんは罪作りな人気者なんです。
まあ本人はあんまり関心がなくて、気づいてないみたいだけど。
『まあなんにせよ、童とユキがどうこうというのはないだろう。』
そう言って、氷の王はにやりと笑う。
『ユキは俺のご主人様であるわけだしな。ちんちくりんの童を相手にしているヒマなどないだろうよ。』
「はあ? 誰がちんちくりんだ、誰が! そもそも、お前はさんざん俺たちを引っかき回しただろ。よく、臆面もなくそんなことが言えるな。」
『まあ、今回の件で俺はユキを真の主として認めたわけだからな。今までとはちがうのは、当然だ。』
えっ。わたしはぽかん、として、真っ白い美少年を見上げる。
もちろん、百城くんもぽかんとしている。
「あ、主として認めた……?」
『ああ。土壇場でも自分をつらぬく胆力に、興味深さを覚えた。大人しく、ユキのしもべにおさまっているのも悪くない。』
氷の王はそう言うと、勝ち誇ったようにわたしの肩を抱いた。
ヒェッ、と悲鳴をもらすわたしに、百城くんがまなじりを吊り上げる。
「勝手なことを……。とっとと木花から離れろ。何をするかわかったものじゃない。」
『おや、信用がないな。残念だ。』
わざとらしく肩をすくめる氷の王。
そんな彼をにらみつけてから、百城くんは少し眉を下げてこちらを見た。
「結局、木花には助けてもらってばかりだったな。」
「……ううん。そんなことないよ。」
百城くんがいなかったら、あの五人を助けることはできなかっただろう。
それだけじゃない。
わたしが封印を解いてしまったのに、百城くんはそれを責めずに、そばにいてくれた。
彼がいてくれたから、わたしは氷の王の主になっても、不安にならずに済んだんだ。
「わたし、百城くんに、ずっと守ってもらってたよ。ありがとう。」
「……そうか。」
百城くんが、わずかにほほえむ。
ふだんあんまり表情を見せない彼の、笑顔にちょっぴりドキッとしたところで、
「――見ていろ、氷の王。」
すぐさま表情を険しくさせた百城くんが、氷の王をにらみつけた。
「木花のためにも、いつか必ず、お前を完全封印する方法を見つけてやるからな。」
『はっ。やれるものなら、やってみろ。そもそも、今回のクモの鬼に関しては、お前などよりよほどオレのほうがユキの役に立ったと思うがなあ?』
「なんだと……?」
あああー、だから、往来で火花を散らさないで……。
……わたしは、最強の鬼の主さま。だからこれからも、今回みたいなトラブルに巻き込まれるかもしれない。
それでもまあ、彼らといっしょなら、きっと強い心を持って前を向けるかな。
そんなことを考えながら、わたしはにらみあう二人に向かって、「やめなよー。」と声をかけるのだった。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版

秘密
阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。
以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。
不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる