ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音

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真相 5

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瞬間、凍てつくような冷たい風が、吹いた。
 そして気がつけば、川もその周りの草も、わたしを拘束していた糸も――そして、百城くんをまさに貫かんとしていた糸も、何もかもが凍りついていた。
 百城くんがあ然としている。もちろん、わたしも、メイちゃんも。
『――いいだろう。やはりお前は、面白い。』 
 不意に、重々しくも、美しく響いた声に、わたしはぱっと顔を上げる。
 横に立つ氷の王は、不敵に笑ってわたしを見ている。
 あの、まどわすようなきれいな笑みじゃない。不敵だけど、本当の笑顔――。
『小娘、いや、我が主・ユキ。お前の命令に従い、お前たちを助けよう。お前は、俺がアレを止めているあいだに、突破口を探れ。』
(うそ……氷の王が、協力してくれた? 本当に? 面白半分じゃなくて?)
 自分で言ったことだけど、信じられなくて、ぽかんとする。
 ……いや、今はそんなことはいい。わたしは急いで凍った糸を割ると、立ち上がる。
命令に従って、力を貸してくれるなら好都合。
氷の王の気が変わらないうちに、一秒でも早く探し出すんだ。あの鬼を倒す手がかりを。
「あっ!」
ふと視界に入ったものに、わたしは思わず声を上げた。
……スマホのライトが照らし出していたのは、細くて、白い糸だった。
その糸が、五人の胸あたりから伸びている。そして、その糸の先にあるのは、地面に落ちた金色のコンパクトミラー。
(あそこから糸が出てきてる……?)
よく見てみれば、五人につながる糸以外にも、もう一本、糸がのびている。その先にいるのは――メイちゃんだ。
そうか。メイちゃんの身体を乗っ取ってるのに、糸が使える。
つまり、異能は『乗っ取り』じゃなくて、糸のほう。
と、いうことは。
(あの糸で、ミラーの中から、メイちゃんを操ってるんだ! それで、この糸を使ったから、離れてても五人の生命力を奪えた……!)
メイちゃんは常にコンパクトミラーを携帯していた。あれは、メイちゃんを操るために、あのコンパクトミラーの中にいる『本体』に、そうする必要があったからだったのだろう。
さらった人を隠すための、人封じの鏡。
その中にはなんと、鬼の本体も隠れていたのだ!
(よし……!)
それに気づいたわたしはすぐさま、コンパクトミラーをつかんだ。
その拍子にブチブチ、と音がして、五人にくっついていた糸がちぎれる。
「なっ……!」
糸が切れたのがわかったのだろう。メイちゃんがこちらを、焦った顔で振り返る。
「百城くん! これを斬って!」
コンパクトミラーを百城くんに向かって投げて、思い切りさけぶ。


「――鬼の本体は、ここにいる!」


「ッ、や、やめろおおおお!」
 わたしの言葉を受けて、即座に刀を構えなおした百城くんが、地面を蹴った。
そして一気に、コンパクトミラーめがけて、刀を横凪ぎに振り抜いた。
「あああああっっ!」
断末魔とともに。
コンパクトミラーが――その中にいた小さなクモが、真っ二つになる。
そして、鬼による支配が外れたメイちゃんは気を失って、その場に倒れて。

あとには、霜が降りた河原と、疲れ果てたわたしたちが残った。



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