ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音

文字の大きさ
上 下
22 / 26

真相 2

しおりを挟む




「――南芽以はオレのイトコだ。
あいつ、今は大人しく優等生やってるみたいだけどさあ、小六のころとかはよく学校さぼってよくここに来てたんだぜ。まあ、最近はたまにしか顔を見せないけどな。」

さびついたパイプいすに座ってそう言った原さんを思い出し、わたしはぐっ、とくちびるを噛みしめる。
廃ゲームセンターから出ると、もう日も暮れかけていた。
月の姿は見当たらないが、その代わりとばかりに一番星がかがやいている。



……メイちゃんには、ここに出入りしてた過去があった。
そして、このたまり場でのリーダー格である原さんのイトコなら、きっとここに来る中学生とも親しかったんだろう。
大人や、先生に話せないことも、同じ子どもになら話せることもある。
メイちゃんはたぶん、伊藤さんや野村さん、寺田さんからも、ここで時間をかけて話を聞き出したんだろう。
そして、いざ行方不明になっても、家出の可能性が強いと思わされる子だけを、『人封じの鏡』に閉じ込めて誘拐した。
「……ごめん、百城くん。」
「どうしたんだ?」
「わたしがしっかりしていれば、もっと早く、気づけたかもしれないのに。」
 わたしはメイちゃんの金色のコンパクトミラーに、気づいていた。
 もっと早く『人を隠す手段』について注目していれば、少なくとも茉莉花ちゃんがさらわれることはなかったかもしれない。
 すると、百城くんが首を横に振った。
「木花は何も悪くない。お前が悪いって言うなら、調査の役目を負っていたオレが気づかなかった方が、ずっと問題だ。……だがな!」
 さけび、百城くんが怒りの表情で、氷の王をにらみつけた。そしてのばした手で、氷の王のまとう着物の胸ぐらをつかみ、その小さな身体ごと持ち上げる。
『……おい、何の真似だ? これは。』
「お前……気づいていたな? 南芽以が、鬼であることに。」
 低い、地獄の底をはうような声。わたしはするどく息をのむ。
 そうだ。その通りだ。氷の王は鬼の王様、【原初】の鬼。
メイちゃんが鬼であることに、気づいていなかったとは思えない。
 だとすると、もしや――氷の王は、わざと、黙っていた? 
『くくっ。』
 不意に、氷の王があざけるように笑った。そして、言った。
『――だから、なんだ?』
「何?」
『言っただろう。俺は小娘の命令「には」従うと。今度もそうだ、聞かれなかったから、黙っていた。それだけだ。』
 わたしも百城くんも、絶句する。
 やっぱり氷の王は、わたしたちが中学生たちをさらった鬼を見つけるために奔走していたのを知っていて、わざと黙っていたんだ。心の中で、わたしたちをあざ笑いながら。
 ああ、なんて。なんて、
「邪悪な……っ。」
『はははは! おいおい、忘れたか小娘。俺は鬼。【原初】の鬼、氷の王だぞ。』
 おぞましくも美しい小さな少年の、銀の瞳が、ギラギラとあやしくかがやく。
『しもべにされたからと言って、俺が人間の意のままに動くと思うか?』
「くそっ……!」
 百城くんが悔しげにうめき、氷の王の着物から手を離す。
 氷の王はふわりと地面に着地すると、『それに。』とほほえんでみせた。
『何もヒントを出していなかったわけではないだろう? 鬼が人になりすましている可能性を示したのは俺だ。』
「それはお前が、オレたちが右往左往するのを見るのを楽しむためだろうが……!」
『否定はせん。しかし気づくタイミングならいくらでもあったはずだぞ?』
 たとえば、と氷の王がこちらを見る。
 いきなり視線を向けられて、わたしはびくっと肩を跳ねさせた。
『俺が復活する直前のことだ。鏡の中から見ていたが、あの女は必死にペンダントを取り返そうとしていたな。会ったばかりの、ただの人間であるお前の持ち物をだ。それはなぜだと思う?』
「それは、ただ、わたしのために……、」
 善意で取り返そうとしてくれたんだ、とそう言いかけて口をつぐむ。
 ……そんなはずがない! 
 彼女は鬼なんだ。中学生を五人もさらって平然としてられる、邪悪な鬼。
 ならどうして、彼女はペンダントを守ろうとした?
(――そうか!)
 メイちゃんがあんなに焦って、茉莉花ちゃんからペンダントを取り返そうとしたのは。

「あなたを恐れていたからね……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

処理中です...