ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音

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真相 1

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そろそろ、午後六時を回ろうかという頃。
夏至の日も近いが、さすがに日も傾いていて、あたりは薄暗い。
……そしてわたしたちは、あの、廃ゲームセンターの前に来ていた。

「ア? なんだテメェら、また来たのかよ。」
以前と同じくこちらに来る人の気配を察したのか、声をかけてきたのは原さんだった。顔はよく見えないが、声で彼だとわかる。
夜になって、ほとんど真っ暗な廃ゲームセンターの中、スタッフルームのある方だけがやや明るい。部屋の中には人がいるようなので、光が漏れているんだろう。
「で? なんの用だよ。あの時、話せることは全部話したって言ったよな? それともケンカでも売りにきたってのかよ?」
そっちがその気なら、と手の骨を鳴らす原さん。
それを見て、あわてそうになるわたしとは対照的に、百城くんはあくまで淡々と「いえ。」と首を振ってみせた。
「少し確認したいことがあって、オレたちはここに来たんです。」
「ハア? 確認したいこと?」
「はい。原さん、あなたはここをたまり場にしてわりと長い方ですか?」
百城くんが聞くと、原さんはうなずいた。
「つうか、ここを仕切ってんのはオレみてぇなもんだし。あんまり家が好きじゃねぇとか、ガッコーがやだとか、大人がウゼーってやつらの居場所をになりゃあいいって思って。」
「じゃあ、このたまり場を見つけたのも原さんなんですか?」
すると、原さんはゆるゆると首を横に振った。

「いや、それはちがう。
そもそも、家に居場所がないやつらの居場所を作りたいって言い出したのも、ここを見つけてきたのも――メイだよ。」

……ああ、そうか。やっぱり、そうだったんだ。
わたしは、くやしさと悲しみでギュッとこぶしをにぎり込んだ。
「間違いないな。これで、決まりだ。」
少しだけ緊張している様子で、しかし、いつになく真剣な顔で百城くんが言う。

「中学生を何人もさらった鬼は……間違いなく南芽以だ。」



   *



――話は少し前にさかのぼる。

パソコンの画面に写し出された画像を見て、血の気が引いていく。
大学の倉庫から消えた、『人封じの鏡』。盗まれる以前に撮ったという写真に写っていたのは、見覚えのある、金色のコンパクトミラーだった。
「……行きたいところ? それはいいが、大丈夫か? 顔が真っ青だぞ。」
 わたしの様子がおかしいことに気がついたのだろう。百城くんが顔をのぞきこんでくる。
 落ち着け。
 わたしは震えそうになるのをこらえて、「場所を変えよう。」と百城くんに言う。
「何か気づいたことでもあったのか?」
「うん。でも、ここでは……。」
 目の前には、けげんそうな顔をした風早先生がこちらを見ている。
 百城くんは少し戸惑った様子を見せたけれど、すぐに「わかった。」とうなずいた。
「風早先生、オレたちはここで失礼します。いろいろ、勝手に疑ってすみませんでした。」
「サイトとかも……ありがとうございます。」
「いや、それはいいんだが……大丈夫か? 木花、顔色が悪いぞ。」
 眉尻を下げる先生に、大丈夫ですと告げて職員室を後にする。
 そして少し歩いたところで、百城くんが足を止めてわたしを振り返った。
「……それで、木花。気づいたことっていうのは?」
「あの、盗まれた『人封じの鏡』……わたし、見たことがあるの。」
「なんだと?」
 目を見開く百城くんに、うなずく。
 思えば、初めから目についた。
古そうだが凝ったデザインの、金色のコンパクトミラー。
「――メイちゃんが、南芽以が持ってた鏡。あれに、そっくりだった。」
 そう。
 メイちゃんは茉莉花ちゃんの幼稚園からの幼なじみだ。だからこそ彼女の家のことも、よく知っていた。
 あの廃ゲームセンターに出入りしていたかはまだわからないけど、逆を返せば、彼らとのあいだにつながりがあれば、メイちゃんは俄然あやしいということになる。
「南が、鬼……? 『人封じの鏡』はホンモノで、南はさらった人間を、あの金色のコンパクトミラーに閉じ込めているってことか?」
 呆然とつぶやく百城くんは、信じられないって顔をしてる。さすがに、クラスメイトの中に鬼がまじっているとは思っていなかったんだろう。
 それは、わたしもだ。でも……。
「まだわからない。鏡も、似てるだけの別物かもしれないから。だけど、」
「ああ、調べてみる価値はあるな。さっそく、あの廃ゲームセンターに行ってみよう。」

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