ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音

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異変 3

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「……なんだって?」
『なんだ、気づいていなかったのか、童。あの女、俺と何度か目が合ったこともあるぞ。見えないフリをしているだけだ。そうすることで身を守ってきたのだろうなあ。』
 鬼は、鬼を視ることができる人間を好んで喰らう。
 力を持つ人間は、生命力が強い傾向にあるから――。
「お前、なんでそれを今まで黙ってた……!」
『聞かれなかったからな。無論、話せと命じられていれば話していたぞ? 俺は命令には従う。』
 何せ俺は小娘のしもべなのでな、とニヤニヤ笑う氷の王に、百城くんが「くそっ。」と、悔しげに歯ぎしりする。
……でも、そうか。
茉莉花ちゃんが鬼を見ることができるなら、鬼から助けられたことで、彼女は百城くんのことを好きになったんだろう。
そして、自分以外にも鬼を見ることがいるという人を知り、安心した。
自分だけが見える、怪物。……ヒミツを一人で抱えていたところに、現れたヒーローは、きっと彼女にとって救いだっただろう。
 宗くんはあたしのトクベツなの、とさけんだ茉莉花ちゃんは、こうも言っていた――『でも、宗くんはトクベツを作らないから、あたしもただのファンでガマンしてる。告白したら、メーワクになるから』って。
(家がぎすぎすしていたなら、お父さんにもお母さんにも言えないだろうし、なおさら百城くんは『トクベツ』だっただろうな……。)
 ――それに、だ。
 その『メーワクになる』というのが、自分の気持ちを伝えると百城くんの仕事の邪魔になるかも、ということだったなら。
 もしかして、土曜日、茉莉花ちゃんがわたしに文句も言わずに逃げていったのは、もしかして、わたしが彼の『トクベツになれる人』だと思ったから?
……だってあの時、わたしは氷の王を連れていた。
だから、鬼が見える茉莉花ちゃんには、あの時のわたしが『鬼を従えて、百城くんの仕事を手伝える、彼のトクベツな女の子』に見えていたとしてもおかしくない。
もしかして茉莉花ちゃんがいなくなったのは、わたしが彼女を傷つけてしまったせい……?
 わたしがにわかに青ざめたところで、氷の王がにこりと笑って言う。
『まあ、そう怒るな童。宝生茉莉花は不良ではないのだ。一連の件とは、なんら関係のないことだろう?』
「……。」
『ほら、目的地についたようだぞ?』
 百城くんが、険しい顔のまま黙り込む。そして、目の前の汚れたビルを見上げた。

 ……たしかに、話しているうちに。
気づけばわたしたちは、目的地――廃ゲームセンターにたどりついていた。







 廃ゲームセンターは、全体的に薄暗かった。
きょろきょろしながら足を進めると、動かないアーケードゲームや、空っぽのクレーンゲームが目に入る。メダルゲームの機械の前に置かれているイスはよごれていて、足がさびている。
けれど、廃ゲームセンターの中には人の気配があった。
奥の方でざわざわと、何人かがしゃべっている声が聞こえてくる。
「あ? 誰だよ、勝手に入ってきてんの。」
わたしたちの足音が聞こえてきたのか、奥の方から人が姿を現した。第三中の制服を着ている、金髪で、ピアスをつけた、大柄な男子。
ふ、不良の人だ……!
少し怖気づいたわたしが立ち止まると、すっと百城くんがかばうように前に出てくれた。
「おい、聞いてんだけど?」
「……すみません。少し話を聞いたらすぐに出ていきますよ。」
「ああ? 話ィ?」
金髪の男子がガラ悪く片眉を上げる。
しかしそれにはまったく動じず、百城くんは淡々とはい、とうなずいた。
「ここ最近起きてる、中学生の失踪について、調べてます。」
「……。」
それを聞くと、金髪の彼は少し黙ったあと、「来いよ。」と言った。


連れてこられたのは、廃ゲームセンターのスタッフルームだった部屋だった。
そこには数人の、ハデな格好をした中学生がいて、お菓子やマンガを持ち込んでおしゃべりをしていた。彼らは入ってきたわたしたちを見て、怪訝そうな顔になる。
空気がちょっとけむたい。わたしが軽くせき込むと、茶髪の女子が口を開いた。
「ちょっと原ァ。なに、こいつら。」
「松野に聞いて来たらしい。ここいらで見るやつらが消えてる話があんだろ? それを調べてるんだと。」
あー、と茶髪の女子が、けだるげにうなずいた。心当たりがあるらしい。
「それはわかったけど、松野って誰だっけ?」
「三中の伊藤の幼なじみらしい。伊藤をここに連れてきたの真木だったろ?」
(真木?)
はて、どこかで聞いたことがある名前だ。
どこだったかな、とわたしが首をひねっていると、なめていた棒キャンディを口から取り出したその人が、眉をしかめた。
「……千歳の?」
「ああ。真木はお前の後輩だったよな、ハルカ。」
(あっ!)
そこまで聞いてようやく思い出した。第二中の真木千歳さんは四人目の消えた中学生だ。
「ふーん……。」
ハルカ、と呼ばれた茶髪の彼女は、探るようにこちらを見てくる。
「あんたら、なんで千歳や伊藤のこと調べてんの? 明らかにウチらみたいなのとはカンケーなさそうな、マジメっぽい出で立ちじゃん。」
「オレたちは松野さんに協力してるんですよ。彼女、伊藤さんを助けたいそうなので。」
しれっとウソをつく百城くん。
その横で氷の王が『童も存外図太いやつだな。』などと、おかしなところで感心している。
「協力ね……。まあいっか。なんか聞きたいことあるなら話してあげるよ、ウチらにとっても他人事じゃねーし。」
「他人事じゃない? どういう意味です?」
「そのまんまの意味だよ。消えてるやつらって、だいたいこのたまり場に出入りしてるやつだったんだよね。」
わたしと百城くんは、思わず顔を見合わせる。これは、新たな共通点だ。
たぶん鬼は、この廃ゲームセンターに出入りしてたんだ。
それで、ここにくる人たちの中から『獲物』を選んでた……!
「消えたやつらは、家出したって言われても納得できるやつがほとんどだった。オレらも、たぶん家出だろうなって思ってる。でも、気味わりーだろ?」
「そうそう。家出ならここに顔出したっていいはずじゃん? でも、千歳も伊藤も他の二人も、全然顔見せない。変だよね、フツーに。」
ハルカさんが口をとがらせる。原さんたちも彼女の言葉に小さくうなずいていた。
百城くんは少し考えるそぶりを見せたあと、「じゃあ」と口を開く。
「ここに出入りしていた中で、あやしいと感じた人間はいますか?」
「はあ? いねーよ。そもそも、ここに来るのなんて仲間たちくらいだし。何?ウチらの中のだれかが仲間に何かしたっての?」
「……本当に、他にはいないんですか? 大人とかは?」
「だからいねーって。せいぜい、たまに現れて説教してくる第一中の教師くらいだよ。」
「あとは……、補導しにくるケーサツのやつとか。」
「警察……。」
百城くんがそうつぶやいて、眉根を寄せた。
何か気になることでもあるんだろうかと思っていると、原さんが、「もういいだろ。」とあごをしゃくった。
「話せることは全部話した。とっとと出てけ。」
「……わかりました。ありがとうございます。」
わたしたちはそう言って頭を下げ、廃ゲームセンターを後にした。

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