ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音

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任務協力 5

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「ウチ、松野エリカ。第三中の二年。」

交番でおまわりさんにつかみかかっていた女の子は、仏頂面でそう名乗った。



ふざけんな警察! トモミを早く見つけろよ! と暴れる彼女をなだめ、なんとか駅前のハンバーガーショップに連れてきたことに成功したわたしたちは、まずは名乗ってくれたことにほっとする。
松野さんはハンバーガーセットを、百城くんはアイスコーヒーを頼む。もう少しで夕飯なので、わたしも飲み物だけを注文した。

「……で? あんたらも、トモミのこと調べてんの?」
「はい。ワケあって、ここ数ヶ月に起きた四件の行方不明事件を調べてます。」
ふーんと言って、松野さんがチーズバーガーをかじる。
明るい金髪に、ラインストーンががキラキラとした真っ赤なネイル。
メイクは濃いめだけど、松野さんが彫りが深い顔立ちだからか、彼女によく似合っていた。
氷の王はといえば、興味深そうに松野さんのうろちょろしている。『ずいぶん派手な化粧をする女だな。』なんて言って。
お願いだから、大人しくしてて……。
「自己紹介が遅れましたね。オレは百城宗二郎、第一中の一年です。」
「お、同じく一年の木花優希です。あの、ごめんなさい、いきなりいっしょに来てもらっちゃって……。」
「……まあ、別に、それはいいけどぉ。」
わたしの言葉に応えながらも、松野さんの視線は百城くんに釘付けだ。というか、心なしか、ほおが赤いようにも見える。
さ、さすがは百城くん……。この短時間で、さっそく一つ年上の先輩を見とれさせてしまったようだ。
「それで、さっそくなんですが。松野さんは伊藤トモミさんと友人同士なんですか?」
「そー。いわゆる、幼なじみってヤツ? ウチ、トモミとは幼稚園からの付き合いなんだよね。」
ほら、第二中の近くのとこ、と、松野さんは身振りで方向を示す。
わたしは引っ越してきたばかりなのでピンとこなかったが、百城くんにはわかったらしい。ああ、あそこか、というようにうなずいている。
「さっき、警察につかみかかってましたけど、アレは?」
「あれはあいつらが悪い。どうせ家出だろうとかなんとか言って、トモミを本気で探そうとしないんだ。」
「そ、それって、松野さんは伊藤さんが家出だとは思ってないってことですか……?」
思わず口をはさむと、松野のさんはキュッと眉根を寄せて「当たり前じゃん。」と言った。
「トモミが家出なんてする訳ないよ。……そりゃ、あたしらは優等生とはかけ離れてる不良だし、ストレス溜まったら、少しは家を飛び出したくなることもあるけど。でも、一ヶ月以上も家を離れるなんてありえない。トモミなんてなおさらだ。」
「そう言える、根拠は?」
「……トモミの家はたしかに、いい環境とは言えないかもしれない。母子家庭で、家にはお金がないっていつも言ってて、母親ともケンカばかりしてるし、その母親も、家出だろうって思ってるみたい。……でも、」
松野さんが、何かをこらえるように言葉を切る。
そして、勢いよく顔を上げて、言った。
「あいつ、まだ小学校に入ったばっかの弟がいるんだ。トモミ、弟をすごい可愛がってて、あたしが守ってやるんだっていつも言ってた。……それなのに、一ヶ月以上も無言で家出してるなんて、ありえないよ!」
しぼりだすようなその声に、わたしと百城くんはそっと顔を見合わせる。
……じゃあ、本当に、中学生たちの失踪は、鬼の仕業ってことなんだろうか?



  *



念のために松野さんの連絡先をもらったわたしと百城くんは、ハンバーガーショップの前で彼女と別れた。
店を出ると、もう日が暮れかけていた。門限までまだ時間があるとはいえ、そろそろ帰らないとお母さんに心配をかけてしまう。

「……やっぱり、鬼の仕業なのかな。」
 人もまばらな、夕暮れの希正橋。
 市内を流れる唯一の川・希正川にかかるその橋の上を歩きながら、わたしはぽつりとつぶやいた。
話を聞いたら、伊藤さんが長期の家出をするようには思えなくなってしまった。もちろん、一人の話だけをうのみにするのはよくないかもしれないけど。
「近くに住んでいる、しかも同じ年頃の中学生だけが、行方不明になってるんだもんね。誘拐の可能性が低いから、警察は本気で捜査をしてないのかもしれないけど……。」
松野さんの話を聞いて、さらに四件の失踪の不自然さが際立ってきたような気がする。
「だが、失踪が鬼の仕業だとして……消えた四人は、どこに行った?」
「!」
はっとする。
たしかに、そうだ。姿を消した中学生は、ずっとそのまま消息不明。
それって……と最悪の想像をしたわたしに、「いや」と百城くんが首を振ってみせる。
「鬼は人の生命力を喰らうんだ。人そのものを喰うわけじゃないから、被害者が姿を消したままなのはおかしい。」
「じゃ、じゃあまだ鬼は、さらった中学生の生命力を食べてない、ってこと……?」
少しだけ希望が戻ってくる。
まだ、消えた四人は無事かもしれないってことだ。
……でもそれなら、いったいなんのためにさらった子達に手をつけないでいるんだろう。
鬼なんだから、退治屋さんが気づく前に、どんどん人を襲うんじゃないの?

『五人目を待っているのかもしれんな。』
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