ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音

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任務協力 2

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「……えっ? わ、わからないのっ?」
どういうこと?
わたしが丸くして困惑していると、「言葉の通りだ。」と百城くんが続ける。
「日本全国に、百城家のような鬼退治屋はポツポツ存在するが、鬼の正体を解き明かしたものはいない。わかっているのは、『はるか昔から存在する、人の生命力を食らうバケモノ』ってことだけだ。」
「そ、そうなの⁉」
「ああ。鬼に生命力を喰われきった人間は、あっという間に衰弱して死ぬ、と言われている。けど、鬼が見える人間は限られてるんだ。」
だからこそ、『鬼を見ることができる人間が鬼退治するほかない』となって、生まれたのが退治屋らしい。
そして、退治屋の家系に生まれたものは、人間よりはるかに強い鬼を退治するべく、日夜特別な訓練にはげんでいるのだそうだ。
(だから、三階までかけ上ってこれたんだ……。刀まで使えるなんて、本当に『桃太郎』みたい。)
『まあ、鬼どうしで共食いもするがな。人間もそうだが、強い鬼ほど、生命力がうまい。』
わたしが感心していると、楽しそうに付け加える白い男の子。こっちはいらない情報すぎる……。
「そもそも、この国における『鬼』の定義はとても広いんだ。『死者の魂』や『怨霊』を鬼としたり、『天狗』や『山の神』を鬼と言ったりする。仏教系だと『羅刹』や『夜叉』もそうだな。人が恨みによって鬼になった話もある。……その定義の広さのせいか、鬼がどこから生まれるのかは、誰も知らないんだ。だから、俺たち退治屋は、人間の生命力を喰らうバケモノを総称して『鬼』と呼んでいる。」
ちら、と百城くんがするどい目付きで白い男の子を見た。
彼はニヤニヤしたまま、空き教室の机に座って足をぶらぶら揺らしている。
「じゃあ、さっきから言ってる、【原初】っていうのは……?」
「……神話の時代から存在すると言われる、強力な異能を持つ太古の鬼を、【原初】の鬼と呼ぶんだよ。そこの氷の王は、そのうちの一体だ。」
「し、神話の時代⁉」
この子、そんなに、古くて強い鬼だったんだ……!
いや、一瞬で校舎を氷漬けにするんだから、ものすごくヤバいやつってことは、わかってはいたけど。
「じゃあ、わたし、そんな強い鬼を……、」
「ああ。……しもべとして従えた、ってわけだな。」
(ひ、ひえぇー!)
転入早々、とんでもないことになっちゃった! 
事の大きさに、今さら震え出したわたしを見て、百城くんが深いため息をつく。
「【原初】の主になった人間なんて、前代未聞だ。木花が【原初】すら喰らいきれない莫大な生命力を持っているのはたしかみたいだが、いまだに信じられない。」
『同感だな。いったい、何の突然変異なんだか。』
「わたしだって信じられないよ……。」
というか、代々受け継がれていたペンダントに、とんでもないものが封じられていたことからすでに信じられないもん。
「……なんにせよ、このままにはできないな。」
 百城くんが眉間をつまんで、苦い声で言う。
「いくらそこにいるのが本体の『残りかす』といっても、氷の王だ。……だが、『残りかす』を倒そうが、なんの意味もない。」
『そうだろう。何せ俺の本体は鏡の中だ。しかも、割れている、な。』
「かといって、本体を倒すのも無理だ。くやしいが、今のオレでは、【原初】の鬼を倒すことも、完全に封印することもできない。……というより、百城家の人間が全員でかかっても、氷の王には勝てないと思う。」
 百城くんはくやしさを押し殺すような声で、「だから。」とつづける。
「現状、氷の王のことは木花にまかせるしかない。」
「……ッ。」
わたしにまかせるしか、ない……?
 こめかみを、冷や汗が流れる。
 百城くんの言っていることは、わかる。そうするしかないってことも。
 でも、あんな――校舎を氷漬けにするようなやつの主が、わたしに本当に務まるのかな?
「……今回、オレは一般人であるお前に命を賭けさせてまで、学校のみんなを救ってもらった。」
 ぽつりと、百城くんがつぶやく。
「それは、本来なら、退治屋であるオレの役目だったはずだ。それなのに――。」
「百城くん……。」
「……氷の王のことを、ヤツの主である木花にしかまかせられないのは、本当だ。」
 でも、と言って、百城くんがわたしを見た。
「今度何かあった時は、オレが命を賭けてお前を守る。鏡が割れていて、封印が完全でない以上、氷の王が安全である保障は、どこにもないからな。」
「……!」
 百城くんの、どこまでも真剣な目に、わたしは息をのむ。
 本当に、本気で、わたしを守るって、そう考えてくれてるのがわかる。
「あ、ありがとう、百城くん。」
「お礼なんていい。……それに、放置はできない以上、オレはお前と氷の王を監視しなくちゃいけない。不便をかけることもあるだろうから。」
「ううん、大丈夫。もとはといえば、わたしがまいた種だから。」
 そう言うと、百城くんは「そうか。」と言って、相好をくずした。
「ああ、それと……そばでお前を守るためにも、任務に協力してくれないか。同行してくれてた方が、氷の王の監視もしやすい。」
「それは、もちろんいいけど……任務に、協力?」
「ああ。」
百城くんが真剣な顔でうなずく。

「――今、話題になっている中学生の行方不明事件。
オレは、その事件が、鬼の仕業じゃないかと疑ってるんだ。」
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