ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音

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はじまり 4

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翌日。
白昼夢だったかもしれないけど、昨日の黒い手のことを思い出して、ドキドキしながら学校にたどり着くと。
突然、スーツの男性二人組から声をかけられた。
「あの、ちょっと君。いいかな?」
「えっ?」
警察手帳を見せられて、ちょっとドキッとする。何も悪いことなんてしてないはずなのに、肩が強ばった。
警察の人に話しかけられるなんて、はじめてだ……。
刑事さん、なんだろうか。男性が警察手帳をしまいながら言う。
「最近、ここで不審者を見かけたりしていないか?」
「ここの生徒たちに何度か聞いてるんだが……。」
「不審者……いえ、見てないです。」
不審者、という言葉に、昨日の黒い手のことがフラッシュバックしたけれど、あれは関係ないだろう。
わたしが首を振ると、刑事さんはちょっとがっかりしたように「そうか。」と眉を下げた。
「実は、ここらで、君たちくらいの年齢の中学生が何人か姿を消していてな。」
「中学生なら思春期だし、多感な時期だ。だから家出だとは思うんだが、そうでないかもしれない。もしものこともあるかもしれないから、気をつけなさい。」
「そ、そうなんですか……。ありがとうございます。」
怖いなあ。ただの家出だったら、まだいいんだけど。
……そういえば昨日、先輩らしき人たちも、職員室何か言ってたよね。行方がわからない中学生がいるって。
(それに、先輩たちは『鬼が出る』とか言ってたけど……。)
鬼と聞いて思い浮かべるのは、頭に角が生えた、金棒を持つ赤い肌の大男だけど。
うーん、それがこの町には『出る』ってこと? 何かの比喩だろうか。
「ッ、」
不意に。
頭をよぎる、地面から生えた黒い、手。
(まさか、ね……。)



  *



「うん、最近、たしかにウワサになってるよね。」
「え、鬼が⁉」
「そう。この町、昔から『突然人が消えた時は、悪鬼が人を食らった時だ』っていう言い伝えが根強くあるらしいの。」
朝。
登校して、さっそく気になったことをメイちゃんに聞いてみると、返ってきた答えはこうだった。
鬼が出る、って話は、その言い伝えが残っているせいで広まったウワサだったんだ……。
わたしが少し青ざめてうつむくと、金色のコンパクトミラーで髪型をととのえていらメイちゃんが苦笑いする。
「もちろん、ただの伝説だよ? だって、本当に鬼なんかいるはずないもん。」
「そうだよね……。」
それはわかってる。わかってるんだけど……。
どうしても、あの黒い手が脳内にチラついてしまう。
「ユキちゃん、大丈夫? もしかして怖いのダメなタイプだった?」
「そういうわけじゃないんだけど。実際、ここ数ヶ月で数人が姿を消してるんでしょ……?」
刑事さんたちが言うには、中学生が数名、行方不明になっているんだという。
姿を消した子に共通するのは、学区が同じであるという点。
長い子は数ヶ月、家に帰っていないそうだけど――だいたい姿を消した子というのはいわゆる非行少年が多くて、ふだんからひんぱんに外泊もしているそうだから、家出の可能性も濃厚なのだという。だから警察も、連続誘拐事件とするわけでもなく、本格的に動いていないとか。
「たしかに、こわいよね。さらわれた、とかじゃなければいいんだけど……でも、本当に鬼の仕業ってことはないと思うよ? そもそも、鬼って具体的になんなのかとか、全然わかってないし。それに、」
「それに?」
「もし、鬼の仕業でも、百城くんがきっと守ってくれるよー!」
きゃー、と言ってほおをおさえるメイちゃん。
そういえば、先輩たちも百城くんの家の名前を話に出してたような。
「でも、どうして百城くんが……?」
「そっか、ユキちゃんは知らないよね。百城家ってね、ここらでも有名な名家なんだけど、昔から『鬼退治屋』って有名な家なんだよ。」
退治屋。たしかに、それも聞いたっけ。
「百城くんのお兄さん、慎太郎さんっていうらしいんだけど。ほら、名前に『モモ』と『タロウ』が入ってるでしょ?」
「あ、ほんとだ。桃太郎……!」
なるほど、だから、鬼退治のウワサなんだ。
そう言うと、メイちゃんは我が意を得たりとばかりにうなずいた。
「代々百城家の長男って、『太郎』の名前が入ってるんだって。だから、この町では百城家は『桃太郎の末裔』ってウワサなの。百城くんは次男だから『宗二郎』だけど。」
「へえー……。」
あくまでウワサだけど、鬼をバッタバタと退治する百城くん、想像の中でもカッコイイよね。
ほおを染めてそう言うメイちゃんは夢見がちな目をしてる。茉莉花ちゃんに気をつかっているみたいだけど、本当はメイちゃんも彼が好きなのかもしれない。
『モモ』と『タロウ』で鬼退治屋、っていうのはちょっと強引な気もするけど、そっか……。そんなウワサがあるんだ。

でも、百城くんはあの黒い手に気づいていないようなそぶりだったけど――。
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