ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音

文字の大きさ
上 下
3 / 26

はじまり 3

しおりを挟む
――その日の放課後。
「えーっと、職員室は……っと」
たしか、東棟二階の奥だったっけ。
わたしはメイちゃんに教えてもらった教室から職員室への行き方を思い出しながら、ろうかを歩いていく。希正第一中は公立校だが、の校舎はなかなか広くて、気を抜くと迷ってしまいそうになる。
メイちゃんは部活に行ったらしい。
……そしてわたしは、その部活を決めるため、今年一年生用に作成された部活紹介冊子を先生から受け取るため、職員室に向かっていた。
「あ、あった。あそこかな」
先生たちが出入りしている扉を見つけ、中に入ろうとした時。
……聞こえてきた声に、わたしは足を止めた。

「ねぇ聞いた? となりの中学で行方不明になった子、結局まだ見つかってないんだって。」

担任か顧問かに用事があるのか、職員室の扉の前に立って先生を待っている様子の生徒が数人、おしゃべりをしている。
上級生だろうか。見た目が大人っぽい。
「ただの家出じゃねぇの? まさか、誘拐とか?」
「病気で入院してただけだったりして~。」
「いや、殺されたってウワサだよ。例の、鬼にさ。」
(……『鬼』?)
なんのことだろう、とわたしが戸惑っていると、案の定、すぐに生徒たちの一人が「はぁ?」といぶかしそうに声を上げた。
「おいおい、それってただの言い伝えだろ。鬼が出る、とか、鬼は人を食う、とかさ。」
「えー、でも、目撃者がいるとかいう話じゃん?」
「実際に一年にはあの百城家の息子がいるんでしょ? 鬼が実在するから退治屋がいるんじゃないの?」
(タイジヤ? 何それ……?)
ガラッ。
わたしが首をひねったタイミングで、職員室の入口の扉が開いた。
そして出てきたのは、なんと、ウワサの渦中の百城宗二郎くんだった。
――ウワサをすれば、影。
おしゃべりをしていた先輩たちは気まずそうに口を閉ざすが、百城くんは気づいていないのか、あるいは気にしていないのか、さっさと歩き出す――職員室の扉から少し離れたところで立ちすくむわたしの方へ。
ま、まずいっ。こっちに来る!
「お前、たしか転入生の……。職員室に用でもあるのか?」
「あっ……えっと、」
き、気づかれた……!
しかも、百城くんがわたしに声をかけたからか、周りにいた生徒たちがざわっとどよめいた。そ、そんなに珍しいことなんだ?
そして、百城くんがするどく目を細めたのを見て、わたしはあわてて「先生に部活紹介冊子をもらえるって言われたから」と、弁明するように言った。
それを聞き、彼はふうんとうなずいたものの、やはりどこか警戒をにじませている。
……やっぱり、わたし、百城くんに敵視されてる?
なんで? 今日が初対面のはずだよね?
「……なあ、お前さ、木花だっけ?」
「あ、はい、そうですけど……。」
「木花、今何か……変なもの、身につけたりしてないか?」
「へ、変なもの?」
「札とか、いわくつきの人形とか、誰かの髪の毛とか……。」
「そんなもの持ち歩くわけないよ⁉」
思わずつっこんでしまう。
いや、だって、ふだんからそんな変なものを携帯してたら変人以外のなにものでもないよ。特に、最後の髪の毛。何に使うんだろう。怖すぎる。
そう言うと、百城くんは納得いかなそうな顔のまま、「そっか。」とだけ言って再び歩き出してしまった。
「あ、待って、百城くん、今朝の――」
あの手、本当に見えなかった?
そう聞こうとして、わたしはハッと我に返る。そういえば、わたし、百城くんに話しかけられて、みんなの視線を集めて――。
(あわわわわわ!)
人気者の百城くんを狙う女だと、誤解されてはたまらない。
わたしは人目から逃げるように、あわてて職員室に飛び込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

処理中です...