名探偵が弟になりまして

雨音

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「なっ!?」

ここは多目的広場への通用口に近い。だから中央棟を歩く人影が見える。
向こうはこっちに気づいてないみたいだけど、あのシルエットは間違いなく犯人一味だ。
しかも、二人いる。なんてことだ。
東棟に来るかはわからない。でも、確実にこっちに近づいてきてる……!
「ど、どうしよう! わたしたちの姿、あっちから見えちゃうかも。早く隠れなきゃ!」
「いやダメだ、解除途中の爆弾を放置はできないし、仮に放置してここから逃げたとしても、脱走はバレる。そうなると、」
……クラスメイトだけじゃなく、生徒全員が危険にさらされる。スバルくんは微かな声でそうつぶやいた。それはゼッタイ、だめだ。
なら。

「……わたしがあの人をどうにかする!」

 そう言うと、スバルくんが驚いたように目を剥いた。
「ちょ……本気?」
「本気だよ。だってそれしかないでしょ?」
スバルくんがぐっと押し黙る。
そうだ、それしかない。ここで逃げたらダメなら、迎え撃つしかないんだ。
やるしかないなら、やってみせなきゃ。
「大丈夫、さっきだって倒せた。死角から不意打ちすれば、きっと倒せるよ。」
「……わかった。信じるよ。」
低い声でそう言ったスバルくんにうなずいてみせてから、わたしは中央棟への通用口に足音を立てずに駆け寄る。
そして通用口のすぐそばの壁に隠れ、こちらに近づいてくる相手の様子を確認した。
どくん、どくん、どくん、どくん。
心臓がうるさい。緊張で、息がしにくい。
でも……大丈夫、気づかれてない。

なら、このまま一気に行く。

わたしは工具箱からくすねた小さなボルトを、あさっての方向に――敵の男の右後方の床めがけて投げつけた。
「なんだっ⁉」
目を見開いた男たちが同時に振り向き、銃を構えた。
瞬間、カンッ! と甲高い音がして、ボルトが床で跳ねる。

――今だ!

わたしは敵が背中を向けたその瞬間、通用口から飛び出し、その首筋に手刀を浴びせる。
「ア……。」
短く声を上げて、力なく男が地面に倒れ伏す。
隣の男が、わたしを見て「何っ」と声を漏らすが、構ってはいられない。
「ハァッ!」
気合いを発し、一気に距離を詰める。
驚きに目を丸くした男が拳銃を構える前に間合いに入り、手からそれを叩き落とす。
「うわっ⁉」
すかさず床に落ちた拳銃を拾えない距離まで蹴り飛ばし、間合いに入り込んだまま相手のえり元をつかんだ。そして素早く投げ飛ばす。
「あがっ。」
ずん、と床に響く重い音。
いきなりの出来事だったからか、ろくに受け身をとれなかった犯人一味の男は、かはっと息を吐いて苦しそうな顔をする。
わたしはそのスキを見逃さず、連続して締め技を仕掛けた。 
そして少しすると、うめき声とともにその男は意識を落とした。
それを確認して立ち上がり、ふぅっ、と息を吐く。
そして、同じく工具箱から取ってきたロープでそれぞれの手首を縛り、二人まとめて引きずって、東棟の中へ。
「これでよし、っと!」
……やりすぎちゃったかな?
特に最初に人、けっこう強く当てちゃったから、目が覚めた時むちうちになっちゃってるかもなあ。
謝るのもそれはそれでおかしいだろうけど、ごめんなさい、と軽く心の中で言ってから、わたしは気絶した男を金工木工室の中に座らせる。
「大丈夫、だったのか?」
スバルくんが周りに響かないように小さな声で、ためらいがちに聞いてくる。
 わたしがうなずくと、スバルくんが完全にのびた二人を見て何とも言えない顔をした。
「……………すごいね。」
「あ、ありがとう……。」
わたしはあわててお礼を返す。
……なんだろう。気持ち悪いとかは思われてなさそうだけど、じゃっかん引かれてるような気はする……。
「で、怪我は?」
「大丈夫。無傷です!」
「……そ。ならいいけど。こっちもなんとかなったよ。」
「ほんと?」
すごい。ほんとに三分で爆弾、解除しちゃったんだ。
おおー、とわたしが音を立てずに拍手をすると、「やめて。」とちょっと顔を赤くした彼ににらまれてしまった。
「さっさと次に行こう。南棟の爆弾に向かう。」
「うん!」
わたしは意気込んでうなずく。
次の定期報告まで、残り時間はあと五分。そろそろ、異変がSにバレてもおかしくない。
まだ爆弾は解除しきれてないけど……そろそろ、放送室に向かわなきゃ。
 
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