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平和編
それぞれの朝
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アベンチュレ・スキャ家の朝。
フローラはトースターに食パンを二枚並べて焼く。フライパンにオリーブオイルを垂らし、ベーコンエッグを二つ作る。隣のコンロで玉子と玉ねぎと彩に少し人参を入れてスープも作る。朝食のにおいに誘われるように、ウェルネルがキッチンに来る。時計は六時十五分を指している。
「おはよう、フローラ」
トースターがチンっと鳴る。ウェルネルは皿に食パンをのせる。
「おはよう。昨日も遅かったでしょう? 大丈夫? 」
食パンの上に、フローラがベーコンエッグをのせる。
「うん。この時期は毎年忙しいから。あと、聞いたけど、新しい鉄道会社の社長さん、良い人らしいよ」
「噂でしょ? まだわかんないわよ」
フローラが疑う。
「厳しいな、フローラは! 俺、グレープフルーツジュース飲むけどフローラどうする? 」
「私、紅茶にするから自分でするわ。ありがとう」
ウェルネルが皿を運び、グレープフルーツジュースをそそぐ間に、フローラがスープをテーブルに運ぶ。
「わあ、今日のスープ玉子入ってる! 」
「玉子なんてしょっちゅう入れてるでしょう? 」
フローラが可笑しがる。ふたりで朝食を食べ、フローラが片づけとシリマのご飯を作っている間に、ウェルネルは着替える。今日もシャツには綺麗にアイロンがかかっている。それをウェルネルは幸せそうに撫でる。そしてシリマを起こしに行き、ウェルネルに抱えられながらキッチンへくる。シリマがご飯を食べ終わらないうちに、ウェルネルが出かける時間になる。フローラとシリマが玄関までウェルネルを見送る。
「パパ、いってらっしゃいー」
シリマが手を振る。
「いってきます」
ウェルネルは今日も仕事へと出かけて行く。
オード。
トムソンは週に一回、花を持って、小さな丘をのぼる。丘のてっぺんの手前に墓地がある。その中に彼の祖母、アンの墓があった。そして今日は先客がいた。
「ドクター、病院にいないと思ったらここにいたのかよ」
ドクターは丘からマンシトの街を眺めていた。
「最近は優秀な医者が入ったからな、休憩時間が長くなっても安心だ」
「何言ってんだよ」
トムソンはドクターの病院で医者として復帰していた。ドクターが持って来た花の横に、トムソンは花を置いた。トムソンはアンの望み通り、最後まで手を握りしめていた。アンはまた再び目覚めるのではないかというぐらい、穏やかに永遠の眠りについた。トムソンはドクターの隣へ行く。
「じじいって、こんな風に家眺めたり、街眺めたりするの好きだよな」
「じじい扱いするな」
ドクターが怒る。
「時々、こうやって街を眺めて感動してるんじゃ」
「感動? 」
「百年と、十何年前か。ここら一帯、焼野原になったんだぞ。神の火で消えたこの街は、人も消えた。神の呪いが染みついた土地とか馬鹿げたことを沢山言われたらしい。よそに行った奴らも、邪険にされただろう。それが、ほら。今はこんなに美しい街だ。食べ物もうまい。よくやってきた。俺たちの先祖は」
「じじいってみんな歴史すきだよな」
「給料減らすぞ、若造が」
トムソンは、それは困ると謝ると、手紙をドクターに渡した。
「ルーからだ。元気にしてるかって」
「おお! 」
ドクターが手紙を読む。
「麦の収穫が終わったて落ち着いたら、ばあちゃんの墓参りにくるってさ」
「そりゃあ、いい」
「あと、ルーがいた部屋に新しい住人が昨日引っ越して来た。赤ちゃんと母親だ」
「ほお。困ってたら助けてやれよ」
「分かってる。その赤ちゃんさ、左手に大きな痣があるんだ。灰色の。母親が病気じゃないかって心配しててさ、今日来る。問題ないと思うけど、ドクターも一応診てくれよ」
「あいよ。じゃあそろそろ戻らんとな」
花束の花びら柔らかく揺れる。
アベンチュレ青少年学校校舎付近、外。
セッシサンは校舎からから離れたところに隠れるようにしてある喫煙所で煙草を吸っていた。するとひょっこり赤毛の男が現れた。
「タンサ」
「どうも、セッシサン副局長。あ、今年は教官か」
「お前に教官って呼ばれる筋合いはねぇよ」
タンサはけらけら笑いながら、喫煙所の中に入ってくる。
「吸わないのか? 」
「すぐ戻らなきゃいけないんで。あの件カラミンに言ってもいいですか?」
「駄目だ。忘れろ。今度酒奢るから」
タンサはまた可笑しそうに笑った。
「カラミンが四階の非常階段に行くようになったのを知ったのを、俺に伝えてカラミンの心配させるとか、泣かせますね」
「今ここで、お前を泣かすぞ。喫煙場所として目を付けてたらあいつが出入りしてるが分かったんだよ」
「いい場所教えてもらって、俺は助かりましたけど」
「恐ろしい程調子いいな、お前」
カラミンがひとり、トイサキレウの死について調べていることに勘付いたセッシサンはタンサに頼み、危ない線を越えないように見張っててくれと頼んでいた。
「同じヨンキョクには絶対に気を抜かないだろうからな。あいつなりに巻き込みたくないっていうのがあるだろうからな。少し離れたお前には気が緩むだろう。お前、カラミン並みに性格悪いし」
「ひどいですよ。ま、オドーも勘付いてましたけどね。まあ、大人しくなってよかったです。けど、それだけカラミンを心配してるってことは、やっぱり次期副局長に押すんですか?」
「……ノーコメント。俺は人望を失いたくないからな」
「本当にひどいですね」
フローラはトースターに食パンを二枚並べて焼く。フライパンにオリーブオイルを垂らし、ベーコンエッグを二つ作る。隣のコンロで玉子と玉ねぎと彩に少し人参を入れてスープも作る。朝食のにおいに誘われるように、ウェルネルがキッチンに来る。時計は六時十五分を指している。
「おはよう、フローラ」
トースターがチンっと鳴る。ウェルネルは皿に食パンをのせる。
「おはよう。昨日も遅かったでしょう? 大丈夫? 」
食パンの上に、フローラがベーコンエッグをのせる。
「うん。この時期は毎年忙しいから。あと、聞いたけど、新しい鉄道会社の社長さん、良い人らしいよ」
「噂でしょ? まだわかんないわよ」
フローラが疑う。
「厳しいな、フローラは! 俺、グレープフルーツジュース飲むけどフローラどうする? 」
「私、紅茶にするから自分でするわ。ありがとう」
ウェルネルが皿を運び、グレープフルーツジュースをそそぐ間に、フローラがスープをテーブルに運ぶ。
「わあ、今日のスープ玉子入ってる! 」
「玉子なんてしょっちゅう入れてるでしょう? 」
フローラが可笑しがる。ふたりで朝食を食べ、フローラが片づけとシリマのご飯を作っている間に、ウェルネルは着替える。今日もシャツには綺麗にアイロンがかかっている。それをウェルネルは幸せそうに撫でる。そしてシリマを起こしに行き、ウェルネルに抱えられながらキッチンへくる。シリマがご飯を食べ終わらないうちに、ウェルネルが出かける時間になる。フローラとシリマが玄関までウェルネルを見送る。
「パパ、いってらっしゃいー」
シリマが手を振る。
「いってきます」
ウェルネルは今日も仕事へと出かけて行く。
オード。
トムソンは週に一回、花を持って、小さな丘をのぼる。丘のてっぺんの手前に墓地がある。その中に彼の祖母、アンの墓があった。そして今日は先客がいた。
「ドクター、病院にいないと思ったらここにいたのかよ」
ドクターは丘からマンシトの街を眺めていた。
「最近は優秀な医者が入ったからな、休憩時間が長くなっても安心だ」
「何言ってんだよ」
トムソンはドクターの病院で医者として復帰していた。ドクターが持って来た花の横に、トムソンは花を置いた。トムソンはアンの望み通り、最後まで手を握りしめていた。アンはまた再び目覚めるのではないかというぐらい、穏やかに永遠の眠りについた。トムソンはドクターの隣へ行く。
「じじいって、こんな風に家眺めたり、街眺めたりするの好きだよな」
「じじい扱いするな」
ドクターが怒る。
「時々、こうやって街を眺めて感動してるんじゃ」
「感動? 」
「百年と、十何年前か。ここら一帯、焼野原になったんだぞ。神の火で消えたこの街は、人も消えた。神の呪いが染みついた土地とか馬鹿げたことを沢山言われたらしい。よそに行った奴らも、邪険にされただろう。それが、ほら。今はこんなに美しい街だ。食べ物もうまい。よくやってきた。俺たちの先祖は」
「じじいってみんな歴史すきだよな」
「給料減らすぞ、若造が」
トムソンは、それは困ると謝ると、手紙をドクターに渡した。
「ルーからだ。元気にしてるかって」
「おお! 」
ドクターが手紙を読む。
「麦の収穫が終わったて落ち着いたら、ばあちゃんの墓参りにくるってさ」
「そりゃあ、いい」
「あと、ルーがいた部屋に新しい住人が昨日引っ越して来た。赤ちゃんと母親だ」
「ほお。困ってたら助けてやれよ」
「分かってる。その赤ちゃんさ、左手に大きな痣があるんだ。灰色の。母親が病気じゃないかって心配しててさ、今日来る。問題ないと思うけど、ドクターも一応診てくれよ」
「あいよ。じゃあそろそろ戻らんとな」
花束の花びら柔らかく揺れる。
アベンチュレ青少年学校校舎付近、外。
セッシサンは校舎からから離れたところに隠れるようにしてある喫煙所で煙草を吸っていた。するとひょっこり赤毛の男が現れた。
「タンサ」
「どうも、セッシサン副局長。あ、今年は教官か」
「お前に教官って呼ばれる筋合いはねぇよ」
タンサはけらけら笑いながら、喫煙所の中に入ってくる。
「吸わないのか? 」
「すぐ戻らなきゃいけないんで。あの件カラミンに言ってもいいですか?」
「駄目だ。忘れろ。今度酒奢るから」
タンサはまた可笑しそうに笑った。
「カラミンが四階の非常階段に行くようになったのを知ったのを、俺に伝えてカラミンの心配させるとか、泣かせますね」
「今ここで、お前を泣かすぞ。喫煙場所として目を付けてたらあいつが出入りしてるが分かったんだよ」
「いい場所教えてもらって、俺は助かりましたけど」
「恐ろしい程調子いいな、お前」
カラミンがひとり、トイサキレウの死について調べていることに勘付いたセッシサンはタンサに頼み、危ない線を越えないように見張っててくれと頼んでいた。
「同じヨンキョクには絶対に気を抜かないだろうからな。あいつなりに巻き込みたくないっていうのがあるだろうからな。少し離れたお前には気が緩むだろう。お前、カラミン並みに性格悪いし」
「ひどいですよ。ま、オドーも勘付いてましたけどね。まあ、大人しくなってよかったです。けど、それだけカラミンを心配してるってことは、やっぱり次期副局長に押すんですか?」
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