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平和編
昔がありて、新しく
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(二局四連会議から数日後)
オード。
メト王女は新聞を畳むとテーブルに置いた。アベンチュレの鉄道会社の社長が、会社資金を使い込み、インデッセに逃亡しようとした所を逮捕された記事がそれなりに大きく載っていた。アイドが温かいミルクティーとクルミのタルトを運んできた。
「ストライキのデモ、一日で終わってよかったですね、メト様」
「そうね。当分、混乱が続きそうだけれど。おいしそうなタルトね」
「トーレン王子からです。私とバリミアさんの分もあります」
「本当に細やかな人ね、あの方は」
メトは微笑みながら、タルトを眺めていると、バリミアが外から戻って来た。
「ただいま戻りました。王女、これを」
バリミアが手紙をメトに差し出す。アンドラからであった。直接、メト宛てにすると検閲する可能性もないとはいえないため、使者のものからバリミアが外で受け取ってきた。メトは手紙をすぐに開けると、読む。二度、素早く読むと、たたみ封筒に戻した。それをアイドに渡した。
「燃やしといてちょうだい」
「かしこまりました」
アイドは手紙を持って、その場を離れた。
「兄上がアベンチュレに戻ったらアルトのことを教えて欲しい、と。色々知られちゃったみたいだわ。大変」
言葉に比べて、メト王女は愉快だった。
「シズのことももう心配ないみたい。例の『大きな悪事』もなんとかなったようよ」
「そうですか」
バリミアは安堵する。けれど、すぐ頭にはオードの王が浮かんだ。
「けれど、メト様。ここの王様がこれから先にも何かしでかすんじゃないですか?色々と荒立てたいみたいですし。これで一安心ってことはないですよ」
バリミアはひそひそ声でカイル国王の憂いだ。
「それも大丈夫よ。私がトーレン様と結婚するのだから」
「え? 」
メトはタルトがのった皿を持ち上げると柔らかい気持ちで見つめた。
「あの方の妻になって、私はあの方を立派な国の長にするわ。何か会った時に、父である王と戦える方に。トーレン様にはその器があると信じているの」
「メト様……」
「私、国の為に結婚するわけじゃないわ。トーレン王子を愛してるっていうにはまだ足りないとは思う」
メトの心にはまだミトスへの恋が残っている。この恋が消えることはないかもしれない。消えなくてもいい。古い恋になるのだ。この先もアルトを案じ続けるだろうと、メトは思っていた。
「新しい恋のはじまりは、強がってもときめくかどうかよ。私は今このケーキにときめいているわ」
「なんかそれはちょっと、トーレン王子が可哀想です、王女」
バリミアがトーレンに同情すれば、メトは楽しそうにタルトを一口食べた。
アベンチュレ城。国王執務室。
アンドラ王子とエンス王はふたりならんで、ホットチョコレートを飲んでいた。アンブリ局長が少し離れた場所で立っている。
「甘いものをそろそろ控えたらいかがですか、父上」
「控えておるよ。これも当分控えめだ。なあ、アンブリ」
「はい」
アンブリが頷く。アンドラ王子はそれ以上言えず、一口飲む。
「インデッセの件、お前が行くかと思ったら、まさかオーツ国王にまかせるとはな」
「私が行くよりいいでしょう。立場的にも、私の声よりオーツ国王の声の方が感情が高ぶらないかと。オーツ国王には色々無理をいいましたが、承諾してくださって感謝してますよ」
「私が思っているより、根回しがきくなお前は。おお、怖い怖い」
エンス王は、朗々と笑った。
「お前はこれからどうすのだ? 」
「今までどおりです。人は繰り返すものです。またいつか必ず戦争は起きるでしょう。そのいつかをできるだけ遠ざける重石になります」
「時代の回転を鈍くするのか? 」
「ある意味そうなるかもしれません。慎重にやっていきます。それが性分なので」
世界は大きいだからこそ大きい物を求めてしまう。空の宝箱を詰めるように。宝箱を小さくすればいいのか、小さいものを沢山詰めるのか、空に何かを見出すか。アンドラ王子は正解は持っていない。これから先も持つことはないだろう。ずっと最善を悩み続ける。毒を隠しながら。
「歴史にならないと正解はわからない。正解を知らないままお前は決断を下さなければいけない」
「心得ております。石橋を叩いて渡りますけど、はったりは得意な方なので」
「そうなのか? 私も騙されないように気を付けよう」
「父上にはったりは使いません。騙すなら、計画的にします。一生知られないように」
オード。
メト王女は新聞を畳むとテーブルに置いた。アベンチュレの鉄道会社の社長が、会社資金を使い込み、インデッセに逃亡しようとした所を逮捕された記事がそれなりに大きく載っていた。アイドが温かいミルクティーとクルミのタルトを運んできた。
「ストライキのデモ、一日で終わってよかったですね、メト様」
「そうね。当分、混乱が続きそうだけれど。おいしそうなタルトね」
「トーレン王子からです。私とバリミアさんの分もあります」
「本当に細やかな人ね、あの方は」
メトは微笑みながら、タルトを眺めていると、バリミアが外から戻って来た。
「ただいま戻りました。王女、これを」
バリミアが手紙をメトに差し出す。アンドラからであった。直接、メト宛てにすると検閲する可能性もないとはいえないため、使者のものからバリミアが外で受け取ってきた。メトは手紙をすぐに開けると、読む。二度、素早く読むと、たたみ封筒に戻した。それをアイドに渡した。
「燃やしといてちょうだい」
「かしこまりました」
アイドは手紙を持って、その場を離れた。
「兄上がアベンチュレに戻ったらアルトのことを教えて欲しい、と。色々知られちゃったみたいだわ。大変」
言葉に比べて、メト王女は愉快だった。
「シズのことももう心配ないみたい。例の『大きな悪事』もなんとかなったようよ」
「そうですか」
バリミアは安堵する。けれど、すぐ頭にはオードの王が浮かんだ。
「けれど、メト様。ここの王様がこれから先にも何かしでかすんじゃないですか?色々と荒立てたいみたいですし。これで一安心ってことはないですよ」
バリミアはひそひそ声でカイル国王の憂いだ。
「それも大丈夫よ。私がトーレン様と結婚するのだから」
「え? 」
メトはタルトがのった皿を持ち上げると柔らかい気持ちで見つめた。
「あの方の妻になって、私はあの方を立派な国の長にするわ。何か会った時に、父である王と戦える方に。トーレン様にはその器があると信じているの」
「メト様……」
「私、国の為に結婚するわけじゃないわ。トーレン王子を愛してるっていうにはまだ足りないとは思う」
メトの心にはまだミトスへの恋が残っている。この恋が消えることはないかもしれない。消えなくてもいい。古い恋になるのだ。この先もアルトを案じ続けるだろうと、メトは思っていた。
「新しい恋のはじまりは、強がってもときめくかどうかよ。私は今このケーキにときめいているわ」
「なんかそれはちょっと、トーレン王子が可哀想です、王女」
バリミアがトーレンに同情すれば、メトは楽しそうにタルトを一口食べた。
アベンチュレ城。国王執務室。
アンドラ王子とエンス王はふたりならんで、ホットチョコレートを飲んでいた。アンブリ局長が少し離れた場所で立っている。
「甘いものをそろそろ控えたらいかがですか、父上」
「控えておるよ。これも当分控えめだ。なあ、アンブリ」
「はい」
アンブリが頷く。アンドラ王子はそれ以上言えず、一口飲む。
「インデッセの件、お前が行くかと思ったら、まさかオーツ国王にまかせるとはな」
「私が行くよりいいでしょう。立場的にも、私の声よりオーツ国王の声の方が感情が高ぶらないかと。オーツ国王には色々無理をいいましたが、承諾してくださって感謝してますよ」
「私が思っているより、根回しがきくなお前は。おお、怖い怖い」
エンス王は、朗々と笑った。
「お前はこれからどうすのだ? 」
「今までどおりです。人は繰り返すものです。またいつか必ず戦争は起きるでしょう。そのいつかをできるだけ遠ざける重石になります」
「時代の回転を鈍くするのか? 」
「ある意味そうなるかもしれません。慎重にやっていきます。それが性分なので」
世界は大きいだからこそ大きい物を求めてしまう。空の宝箱を詰めるように。宝箱を小さくすればいいのか、小さいものを沢山詰めるのか、空に何かを見出すか。アンドラ王子は正解は持っていない。これから先も持つことはないだろう。ずっと最善を悩み続ける。毒を隠しながら。
「歴史にならないと正解はわからない。正解を知らないままお前は決断を下さなければいけない」
「心得ております。石橋を叩いて渡りますけど、はったりは得意な方なので」
「そうなのか? 私も騙されないように気を付けよう」
「父上にはったりは使いません。騙すなら、計画的にします。一生知られないように」
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