【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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平和編

偶然たる幸運は、悲運

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「あいつもこの隠し通路の存在を知っているはずだ。とっくに逃げてるよ」
「逃げないさ。ここには神がいる。あいつは神にずっとすがっている。そのために俺たちの仲間は死んだんだ」
 隠し通路に入ろうとするルバの前に、シズは立つ。
「行かせろ」
「お前、あいつを殺すかもしれないだろう? いやだ」
「お前に関係ないだろう」
「関係ない。けど、私とカザンは関係ある」
 ルバの瞳が微かに揺れた気がした。
「あいつはあんたとずっと、救いたいと思っている」
 誰かの声がする。シズを呼んでいる。
「カンダさん! どこですか! カンダさん! 」
 シズは逃げないようにルバの腕を掴む。
「カザン、ここだ! カザン! 」
 部屋に息切れをしたカザンが飛び込んできた。そして、ルバに気づいた。反応をしたが、それほど驚いていなかった。カザンは唇を噛み締め、シズ達を見据える。
「カンダさん、大丈夫ですか? 」
「平気だ。アシス達は? 」
「皆さん無事だと思います」
 カザンはルバを見る。
「また、会うとはな」
 ルバの表情が柔らかくなる。嬉しそうであり、辛そうだった。
「ルバ。あなたを保護するためにきました」
 その一言でルバは状況を察したようだった。
「九十七期生の悲劇の生き残りがいることを皆さんに話しました。そして機密手配人にしました。我々はあなたを保護しなければならない」
 ルバを機密手配人してここに乗り込んで来る口実をつくったことを、シズは察する。
「ルバ」
 カザンが呼ぶ。
「僕と一緒にここで、アベンチュレに帰ろう。もう、帰ろう」
 カザンが懇願しながら、一歩、シズ達に近づいた。
「お前は本当にいい奴だ。サルファー」
 ルバは可愛い弟に語りかけているようだった。
「お前を傷つけることはしたくない。でも俺は、アルガーのために、ここまで生き延びたんだ。それが、俺が信じる運命だ」
「ルバ! 」
「それに、俺はもう戻れない人間だ。スフェンの優しい親友じゃ、もう、ない」
 見方だと思い込んで、シズは完全に気を抜いていた。最初は殴られたと思った。そのままシズはカザンの方に放り投げられた。
「カンダさん! 」
 ドレスの白に何か垂れている。シズは触る。血だ。右肩の方へゆっくりと、シズは顔を向ける。ナイフが刺さっている。
「早く病院に連れってやらないと、出血死するぞ」
「ルバ! 」
 カザンの声に怒りが混じる。ルバは隠し通路から上に消えていった。シズは膝から崩れ落ちかけたが、カザンに支えられた。やった方とやられた方が同じ風景をみることなんてない。色もにおいもまるで違う。見ようとしないものを見せたら払いのける。優しさと強さだけでは止められない。
「カンダさん! しっかりしてください! 」
「しっかりしてる」
 シズは痛い気もするが、よく分からない気もする。だが身体はもう思うように動かない。カザンのジャケットを掴む。
「……いけ」
「え? 」
 カザンを睨み上げる。
「早く、ルバ・ソーを追いかけろ! まだ間に合う! 」
「それどころじゃないでしょう! 早く外へ、」
「あいつを救うために、お前はあいつを裏切ったんだろうが! 早く行け! 私はナイフなんかじゃ死なねぇよ!! 」
 カザンの肩が揺れる。カザンはシズを壁際まで運ぶと、シズを座らせた。そしてジャケットを脱ぐと、シズの肩にかけた。
「ひとつ、聞いていいか? 」
「なんですか? 」
「マッシュは、無事か? 」
「無事です。僕達がアベンチュレを発つ前に目が覚めました」
 そうか。よかった。もうその声もシズは出せなかった。
「気を付けろよ」
 やっとそれだけ出た。カザンは立ち上がる。
「じゃあ、あとで」
「ああ……」
 カザンがルバのあとを追い、消えて行く。シズはそれを確かめると、カザンのジャケットの裾の部分を持ち上げると口の中につめて噛んだ。そしてナイフを掴むと、引っこ抜いた。
「いってぇっ、やっぱ死ぬかも」
 ナイフの刃をドレスで拭くと、裾をまた細く切り、その切れ端の先を咥えて、傷口にまき止血する。ナイフはジャケットのポケットにしまった。袖に手を通し、立ち上がろうとすると、隠し通路から人が出てきた。ヨール王だった。
「怪我してるみたいだね」
「お見舞いにきたのか? 」
 自分で言っといて、シズは寒い冗談だと思った。
「血が出てるならちょうどいいと思ったんだよ」
 ヨールの手には銃があった。
「お前が持ってるのか。てっきり、カバンサが持ってるのかと思ったぜ」
「それは同意する。だが、私が持つべきだと、カバンサは言った」
 サールは銃口を廊下の方に向けた。
「じきにそなたの仲間が来るだろう。最初に入って来た者を撃つ」
 ああ、このシチュエーションは最悪だ。シズはラリマのときのことを思い出す。
「それが嫌なら、下まで共に参ってもらいたい」
 壁に手をついて、立ち上がる。
「肩、貸して貰っていいですか? 王様」
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