【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
221 / 241
平和編

一部屋空けておく

しおりを挟む
「奥さんは大丈夫だったか?」
 病院から帰ってきたウェルネルに社長のカルセドニーは心配そうに声をかけた。
「ええ、おかげさまで大丈夫でした。ヨンキョクさんに助けられて盗られた物も返ってきました。捻挫してしまったんですけど、ヨンキョクさんが家まで送ってくれるというので」
 ウェルネルは汚れた軍手をはめながら安心の笑みを浮かべた。
「ヨンキョク? 」
「はい。なんか調査で城から来てるそうです」
「……そうか」
「社長」
 社長秘書のロドが作業場に現れた。
「社長、お電話です」
「ああ、今いく。ウェルネル、今日は早く帰れよ」
「はい! ありがとうございます! 」
 カルセドニーの背中にウェルネルが頭を下げる。そんなウェルネルをロドは冷めた目で一瞥すると、カルセドニーと共に作業場を後にし、社長室に入った。カルセドニーは簡単な会話を終わらせると電話を切った。
「振り込みの確認だったよ」
「そうですか。それより社長、明日の件ですが延期なされた方が。スキャが言っていた通り城からの四局がうろついているようですし」
「山の工事のことだろう。慎重にすれば大丈夫だ、ロド。明日で終わるのだ。明日で全てが。ウェルネル達には感謝しないとな。申し訳ないが」
 カルセドニーの安心したような横顔とウェルネルのさっきの笑みを比べ、ロドは色が違うと思った。どちらの色もロドは目に映したくなかった。


「何するのー? 鬼ごっこ? 」
「駄目だ。鬼は今あれだ、里帰り中だから駄目だ」
シズと手を繋いで歩くシリマは、えーと不満そうに背中をのけ反る。
「お兄さん、鬼やってー」
「お兄さんじゃなくてお姉さんな。それにお姉さん鬼はできないんだ。心が清らか過ぎて」
「冗談は脳みそだけにしてください」
 カザンが呆れたため息を吐く。
「子連れで調査できませんよ。どうするんですか? 」
「僕、ちょーさ手伝うよ! 」
 シリマはきらきらした顔する。
「お気持ちだけで結構です」
 カザンはそれを容赦なく遮った。シズはどうしようかと辺りを見回すと、昨日の絵描きが目に入った。
「よし。あそこに預けよーぜ」
 シズはシリマを抱えると絵描きのじいさんの所まで行く。
「あんたまた来たのかい? 」
「今日はこの子描いて。一時間ぐらいたっぷりと。後で迎え来るから」
「えー。嫌だー。ひとりやだー」
 シリマはじたばたし出した。
「じゃあ僕ひとりだけ調べに行きます」
「十五分あったら終わるから二人ともおりなさい」
 絵描きにそう言われ、結局絵が描き終わるまで昨日みたいに、シズは木箱に座って待つことにした。
「なんですか、この無駄な時間」
 預ける作戦が上手くいかず、カザンが不満をシズにぶつける。
「思った通りにいかないことは沢山あんだよ」
「僕のパパはね、カルセドニー工場で凄いお仕事してるのー」
「ほお、それは凄いな」
 シズ達の気持ちをよそに、シリマと絵描きは楽しそうに話していた。
「カルセドニー工場は百五十年以上続く歴史がある会社なんじゃ」
 絵描きがそう教えるとシリマはその大きな数字に驚いて喜んだ。五歳にしたら百五十年なんて宇宙みたいなモノだろうな、とシズは思った。
「百年以上も鉄道とか車ってあるんだな」
「あるに決まってるじゃないですか。授業で何聞いていたんですか。だから三点なんですよ」
「三点は入学試験の時ですー。だから授業関係ありませんー」
 カザンは見下すような嘲笑をした。シズは嫌味より腹立った。
「武器屋じゃよ」
 絵描きが呟いた。
「え? 」
「だからカルセドニー工場は最初、武器屋だったと、わしのじいさんが話しておった。戦争が終わって、四ヵ国条約できて武器が製造できなくなったから、鉄道の会社に鞍替えしたらしいぞ」
 シズはカザンを見る。カザンは頷いた。
「意外に有効な時間でしたね」
「思いがけないことは沢山あるんだよ」
 自分の顔の絵を見て喜んだ。そんなシリマを引き連れて聞き込みを続けた。銃の調査のことは極秘なため、山の工事のことについて来ている風を装い、世間話を織り交ぜてカルセドニー工場のことを聞いた。こういうのはカザンの方がうまかった。顔もまあ良い方だからおばちゃん二人相手に色々引き出していた。
「城人さんの顔タイプだわ」
「そんな」
 カザンは可愛らしく微笑んだ。ザ・猫かぶりだ。シズは少し離れ地面に絵を描くシリマのそばにいた。
「やだ、可愛い」
「息子にしたいわ」
 おばちゃん達の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。しばらくしてカザンが戻ってきた。シズはシリマから少し離れる。
「カルセドニー工場は数年前に事業を拡大しようとして失敗して多額の借金があったようですが、今は持ち直しているようです」
「どうやって持ち直したかは? 」
「そこまでは分かりませんが、借金返済のために手を出してはいけないものに、手を出したのかもしれませんね」
 銃の製造に。カザンが腕時計を見る。
「そろそろシリマ君を送り届けましょう」
「ああ」
 シリマはくたびれたようで足取りがおぼつかなかった。しょうがないから、シズがおんぶしてやるとものの数秒で寝た。
「子ども背負ってもあなたから母性を感じませんね」
「ああ? なんだよ、てめぇ。じゃあお前抱っこしてみろよ。父性が感じられるかジャッジしてやるよ」
「遠慮します。制服に涎つくのは嫌なので」
「お前本当に嫌い」
「光栄です」
 スキャ家の前に着くと後ろから声をかけられた。
「ヨンキョクさん! 」
 ウェルネルだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...