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平和編
二局四連会議
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(婚礼の日の朝)
「夜の結婚式というのは美しいですね」
顔を見に来たとかどうでもいい理由で部屋に来たカバンサは、まるで今日の結婚式がシズにとって最高な人生のイベントとでも言いたいような口ぶりだった。
「お互い一緒に暮らしたいとか思ってないのによ、美しいもクソもねぇだろうが」
シズは足を組み、頬杖までついた失礼極まりない態度で、カバンサの顔に見向きもしてやらなかった。
「明日になったら世界は変わりますよ」
「変わらねぇよ。世界はずーっと平行線だ」
シズみたいにコインを引っくり返されないと世界は変わらない。そサルファー、
「もし世界が変わっても、自分は変わらない。心も身体も、全部変われない」
シズは組んだ足をはずし、頬杖をやめて、カバンサを見据えた。カバンサはシズを見ていた。その眼差しには軽蔑が見えた。だから似たような眼差しを返してやった。
「お前は世界を変えるために顏と名前を変えているのか? 」
「世界が変わらないから私は何度も人生をやり直しているだけです」
ふざけた理由だ。それでもこいつはこれを本気でいっているから恐ろしい。
「世界にいったい何を求めているんだ? 」
カバンサはこっちへ近づいてくるとテーブルに手をついて、顔を近づけてきた。よく見ると、化粧で隠しているが、皮膚にいくつか傷があった。人生をやり直すための代償だろう。
「プライドの証明です」
「はぁ? 」
平等とか正義とか平和とかそういうもっともらしい事を言ってくると思った。
「私のプライドが正しい世界に一致するという証明です。満月は楕円ではないと知らしめたい」
「誰にだよ? 」
カバンサはすぐに答えない。唇を少し動かし、酒の味を思い出し、閉じて、開いた。
「この世の人間に」
(二局四連会議当日)
「これが節度を守っているかは、個人的には非常に疑問なんですけど、バライト局長」
九局フロアでカルカは腑に落ちない心持ちで時計を見ていた。今まさに、アベンチュレ城の特別会議室で、二局四連会議が行われている。九局フロアにはカルカとバライト以外出払っていた。
「似た前例はある。数年前、インデッセの機密手配人がアベンチュサルファー現れたとき、うちが知らせる前に、インデッセのヨンキョクがアベンチュサルファー来ただろう? 」
「あれは二局四連会議の一か月あとです。前例というには、少し甘いです」
「だから外交のプロも一緒に送った。そのための奇跡の偶然だろう? 」
バライトはにたりと笑う不安があってもどうしようもない。時間はなかった。最善とはいえないがしょうがない。
「奇跡の偶然のために、アザムはずっと飲み屋をはしごしましたもんね。さらにはアザム家の名前まで使って媚びを売ったり。奇跡って案外泥臭いものですね」
「もう始まったんだ。嫌味に始まった作戦のアラ探しをするな」
「私達は待機ですからね。不安が募ってるだけですよ。アラ探しなんて、嫌な言い方しないでください」
「いいじゃないかアラ探し! 俺は人のアラ探しをしてほじくり回すのが大好きなんだよ、あははっ! 」
バライトが身体を揺らし大声で笑う。
「そういうこと言わないでください。心の中でとてつもないクズだなって思ってしまうので」
「全然心の声になってないよ、カルカ」
「わざとです」
「この小悪魔め」
バライトは時計を見る。
「機密手配人の会議は最後だ。もうそろそろだな。熱くなってきたな! 楽しいな、カルカ! 」
「私は早く冷めて欲しいです。猫舌なもので」
アベンチュレ城、特別会議室。
円卓を囲む各国の二局長。
「それでは最後に、機密手配人の新たな申請はございますかな?」
今回の進行はインデッセ二局長、クンツァが勤めている。
「オードはございませんわ」
オード二局長アンバーは微笑みながら右隣を振り返る。
「インデッセもありません」
インデッセ二局長トラメも頷いた。そして右隣のクンツァに尋ねる。
「インデッセは? 」
「今回はありませんな」
そして三人がテネブレを見る。
「アベンチュレはいかがですか?」
テネブレは眼鏡のレンズを通して、トラメを見た。トラメの口元は微かに弧を描いていた。テネブレは右隣に座っているクンツァの方を向いた。
「ひとり、申請したい人物がおります」
トラメの瞳が揺れた。何か言いたいが、トラメがぐっと堪えた。
「うちの青少年学校生徒に起きた四年前の事件に関する事件です」
「四年前ってことは、九十七期生の悲劇のことかしら? 」
アンバーがすぐに答えた。
「そうです」
トラメはカバンサがアルガー塾長と同一人物であることを知っていた。もし、テネブレがアルガー塾長を機密手配人にするなら、トラメは今ここで、カルセドニー工場で銃の部品を製造していたこと、その銃がインデッセにあることを暴露し、宣戦布告をするつもりだった。そうなってもよいと願っていた。今夜には待ちに待った神が今夜目覚める。その火ぶたを自分が切ることができる。トラメは興奮を懸命に押さえた。テネブレはポケットから手紙を出すとクンツァに差し出した。
「これは? 」
「うちのヨンキョクの元に届いた手紙です。この四局員の兄が九十七期生です。クンツァ殿、読んで頂いてよろしいですか? 短いものです」
クンツァは手紙を受け取る。宛名は「アベンチュレ国民局四局 カザン殿」とあった。裏返すと、差出人は「絵描きのじいさんより」となっていた。クンツァは怪訝な顔する。しかしすぐに封筒から便箋を出し、読み始めた。
「夜の結婚式というのは美しいですね」
顔を見に来たとかどうでもいい理由で部屋に来たカバンサは、まるで今日の結婚式がシズにとって最高な人生のイベントとでも言いたいような口ぶりだった。
「お互い一緒に暮らしたいとか思ってないのによ、美しいもクソもねぇだろうが」
シズは足を組み、頬杖までついた失礼極まりない態度で、カバンサの顔に見向きもしてやらなかった。
「明日になったら世界は変わりますよ」
「変わらねぇよ。世界はずーっと平行線だ」
シズみたいにコインを引っくり返されないと世界は変わらない。そサルファー、
「もし世界が変わっても、自分は変わらない。心も身体も、全部変われない」
シズは組んだ足をはずし、頬杖をやめて、カバンサを見据えた。カバンサはシズを見ていた。その眼差しには軽蔑が見えた。だから似たような眼差しを返してやった。
「お前は世界を変えるために顏と名前を変えているのか? 」
「世界が変わらないから私は何度も人生をやり直しているだけです」
ふざけた理由だ。それでもこいつはこれを本気でいっているから恐ろしい。
「世界にいったい何を求めているんだ? 」
カバンサはこっちへ近づいてくるとテーブルに手をついて、顔を近づけてきた。よく見ると、化粧で隠しているが、皮膚にいくつか傷があった。人生をやり直すための代償だろう。
「プライドの証明です」
「はぁ? 」
平等とか正義とか平和とかそういうもっともらしい事を言ってくると思った。
「私のプライドが正しい世界に一致するという証明です。満月は楕円ではないと知らしめたい」
「誰にだよ? 」
カバンサはすぐに答えない。唇を少し動かし、酒の味を思い出し、閉じて、開いた。
「この世の人間に」
(二局四連会議当日)
「これが節度を守っているかは、個人的には非常に疑問なんですけど、バライト局長」
九局フロアでカルカは腑に落ちない心持ちで時計を見ていた。今まさに、アベンチュレ城の特別会議室で、二局四連会議が行われている。九局フロアにはカルカとバライト以外出払っていた。
「似た前例はある。数年前、インデッセの機密手配人がアベンチュサルファー現れたとき、うちが知らせる前に、インデッセのヨンキョクがアベンチュサルファー来ただろう? 」
「あれは二局四連会議の一か月あとです。前例というには、少し甘いです」
「だから外交のプロも一緒に送った。そのための奇跡の偶然だろう? 」
バライトはにたりと笑う不安があってもどうしようもない。時間はなかった。最善とはいえないがしょうがない。
「奇跡の偶然のために、アザムはずっと飲み屋をはしごしましたもんね。さらにはアザム家の名前まで使って媚びを売ったり。奇跡って案外泥臭いものですね」
「もう始まったんだ。嫌味に始まった作戦のアラ探しをするな」
「私達は待機ですからね。不安が募ってるだけですよ。アラ探しなんて、嫌な言い方しないでください」
「いいじゃないかアラ探し! 俺は人のアラ探しをしてほじくり回すのが大好きなんだよ、あははっ! 」
バライトが身体を揺らし大声で笑う。
「そういうこと言わないでください。心の中でとてつもないクズだなって思ってしまうので」
「全然心の声になってないよ、カルカ」
「わざとです」
「この小悪魔め」
バライトは時計を見る。
「機密手配人の会議は最後だ。もうそろそろだな。熱くなってきたな! 楽しいな、カルカ! 」
「私は早く冷めて欲しいです。猫舌なもので」
アベンチュレ城、特別会議室。
円卓を囲む各国の二局長。
「それでは最後に、機密手配人の新たな申請はございますかな?」
今回の進行はインデッセ二局長、クンツァが勤めている。
「オードはございませんわ」
オード二局長アンバーは微笑みながら右隣を振り返る。
「インデッセもありません」
インデッセ二局長トラメも頷いた。そして右隣のクンツァに尋ねる。
「インデッセは? 」
「今回はありませんな」
そして三人がテネブレを見る。
「アベンチュレはいかがですか?」
テネブレは眼鏡のレンズを通して、トラメを見た。トラメの口元は微かに弧を描いていた。テネブレは右隣に座っているクンツァの方を向いた。
「ひとり、申請したい人物がおります」
トラメの瞳が揺れた。何か言いたいが、トラメがぐっと堪えた。
「うちの青少年学校生徒に起きた四年前の事件に関する事件です」
「四年前ってことは、九十七期生の悲劇のことかしら? 」
アンバーがすぐに答えた。
「そうです」
トラメはカバンサがアルガー塾長と同一人物であることを知っていた。もし、テネブレがアルガー塾長を機密手配人にするなら、トラメは今ここで、カルセドニー工場で銃の部品を製造していたこと、その銃がインデッセにあることを暴露し、宣戦布告をするつもりだった。そうなってもよいと願っていた。今夜には待ちに待った神が今夜目覚める。その火ぶたを自分が切ることができる。トラメは興奮を懸命に押さえた。テネブレはポケットから手紙を出すとクンツァに差し出した。
「これは? 」
「うちのヨンキョクの元に届いた手紙です。この四局員の兄が九十七期生です。クンツァ殿、読んで頂いてよろしいですか? 短いものです」
クンツァは手紙を受け取る。宛名は「アベンチュレ国民局四局 カザン殿」とあった。裏返すと、差出人は「絵描きのじいさんより」となっていた。クンツァは怪訝な顔する。しかしすぐに封筒から便箋を出し、読み始めた。
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