【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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平和編

国の上に立つ者、国を守る者

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 夜。
 場所はアベンチュレ城の一室。
 大きな丸テーブルに一局長から九局長の九人、そしてアンドラ王子が座っていた。
「話を簡潔にまとめますと、」
 はち切れ丸眼鏡局長こと、ダラ・テネブレ二局長が落ち着いた声で言った。身長はセッシサンより高く、肩幅はその場にいる誰よりも広い。テネブレを例える言葉は、筋肉隆々。筋骨隆々。ガチムチ。筋肉モリモリ。マッチョ。それをすべてまとめても、物足りない。そういう見た目なため、よく四局長に間違われる。それがハクエンは実は内心、悔しい。
「インデッセは秘密裏に、うちの国にあるマコーネル工場に銃の部品を製造させたことで、戦争の共犯にさせようとしている。そして、インデッセは満月の夜に神を起こす準備ができている。そしてそれにアルガー塾長、今はプネ・カバンサとしてインデッセの王に仕えている男が主導を握っている。そういうことでいいですな?」
「間違いない」
 アンドラが頷いた。局長達はため息を漏らしたり、頭を抱えたり、それぞれ現状の問題を中々受け入れられなかった。
「もっと早くにどうにかできなかったのか、九局長」
 三局長は八つ当たりに近い怒りを、バライトにぶつけた。バライトを組んだまま肩をすくめた。
「どうにかできたならとっくに、してますよ」
 バライトはどこまでも飄々としている。三局長は長い溜息を吐いて頭を抱えた。
「私ももっと、シラーのことをどうにか処理すればよかったです。申し訳ありません」
 シプリンが謝る。
「このご時世にスパイなんざ、どうにかできる方がむずかしいですよ」
 五局長がシプリンを庇う。プライトはそれを黙って見ていた。
「それで。どう致しましょう。王子」
 トンプソン局長が、アンドラに指示を促す。
「作戦は考えてある。再来週二局四連があるだろう? その日の夜が満月だ。その日にインデッセに乗り込みたい」
「けれど先程のお話じゃ、カバンサを機密手配人にすることはできないのでは?」
 六局長が疑問を呈す。
「ああ。カバンサは機密手配人にしない。そのことはあとで話す。最初に皆に考えてもらいたいのは、インデッセの二局長をその日アベンチュレに閉じ込めたい。インデッセとの接触をできないようにしたいのだ。電話もすべて」
 会議は騒めいた。
「それはインデッセの二局長を軟禁するということでしょうか、王子? 」
 テネブレ二局長が尋ねる。
「それに近い。そう言い切ってもいい」
「それは危ないですよ。逆上されたら、元も子もないです」
 三局長が王子に訴える。
「私もそう思います」
 五局長も冷静に同意し、テネブレ二局長の方を見た。
「私も、軟禁は避けた方がよろしいかと」
「軟禁と思わせないように、軟禁すればいいんじゃないですかね?」
 その場の人間がバライトを見る。
「どうやって? 」
 ハクエンが尋ねる。バライトは人差し指でテーブルを二回叩いた。
「それを考える時間でしょ。今」
 三局長はついにバライトを睨んだ。
「無謀なことを言っているのはわかっているつもりだ」
 アンドラは穏やかだった。だが、その丁寧な言葉の端々にひるみはなかった。アンドラの声には、若さには似合わない、鋼の糸に引っ張られるような魅力と強さがある。
「無謀だとしても、起こることがわかっているなら、犠牲と悲劇から私は逃れたい。犠牲と悲劇が人を成長させ、人を食い止めてきた。それに倣ってまた、多くの命を失ってからまた一歩上の平和に変化させる、そんな効率がわるく、回りくどいことはしたくない」
 夜の会議の空気がアンドラ王子によって張りつめられる。局長達は逆らえない指令かのように、意識がすべてこの国の王子に持っていかれていた。
「また戦争が起きるとする。戦争とはやむをえないものなのだろう。だが、あれはただ問題を増やすだけだ。私が世間知らずの王子でも、人が死ぬということはわかっている。命ある人がいなければ、国はない。国がなければ、王族もいない。そなたたちの仕事も存在しないだろう。そんな頼りない霞みたいな我らがこれだけ恵まれた生活をしているのはなぜだ?民は私に服を着せてくれる。腹をも満たせて、舌を肥やしてくれる。なぜだ?いざといときに守ってもらうためだ。いざというときに守るための我らだ。それなのに、戦争とは人を死なせるために前進しなければならない。国が永くあるためには、国民に長生きをしてもらわないといけない。我が国の誰ひとり、死に急がせることなどしない。人が生きることを諦めるような国にはしない」
 アンドラはテーブルの上に置いていた手は気づけば、握り拳になっていた。その力がテーブルを微かに揺らす。アンドラは昨夜王である父からの言葉を思い返していた。この世は人でできている。国は人でできている。国は掴めないが、人は掴める。
「政を為すは人にあり。我々の役割は、足らない部分を補い、限りなく完全にし、見返りを期待することなく世の為に尽くす。そして、人それぞれの心の自由を守ることだ。そのために国があり、それがゆえに政治という仕事が現れる。政は後から来る。民の思想、時代を追い越すことはできない。多数の理解が得られないからだ。時代をコントロールしようするのは無理な話だ。例えば、愛する人間を限定させても、それですべての愛を諦めさせることを政治で、できるはずがない。時代は先走る感情で、人間がコントロールできない見えず、触れずのものがつくるからだ。理屈はあとからやっと、追いつく。いくら完璧な予測をしても、先のことなんて見越せると信じきってはいけない。見当はずれだってある。だからこそ、後始末はできる限り完璧に、できる限り少し先をスムーズに。それが私の目指すアベンチュレの政治だ。今の人間を私達は任されている。現実の今をどうにかしなければならない。国家を救えと言うんじゃない。未来を救えとも言わない。時代の弱さにすがらないで欲しい」
 アンドラは握り拳を解くと、前のめりだった姿勢を正し、九人の局長をしっかりと眺めた。
「後先考える必要がないと言っているわけではない。存在する現在を受け入れなければ、先の選択肢は減り、自分達の首を絞めるだけだ。今をどうにかしなければ、民に言い訳するにしても滑稽なものだろう?」
 アンドラは微笑んだ。
「だが、節度は守ろう。嫌なものは嫌。思うがままの本能で自由に排除していい世界で生きていけるなら、国なんていらない。国は理性だ。倫理的な理性だ。それを踏まえて諸君、悪知恵を働かせてくれたまえ」

 アンドラ、この世は人でできている。国は人でできている。国は掴めないが、人は掴める。国を恨んでも、そのはけ口、的(まと)は人間だ。すべて人間でできている。どこかの誰かが耐えているから、平和はある。プライドを踏みにじられても耐え、欲しいものが手の内になくても耐え、人に耐えている。だから、平和を忘れるな。
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