【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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平和編

私が悪人

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「シズ様、この世の一番の武器って何かご存知? 」
「武器? 」
 神様、とは言わせたくないように思った。
「感情ですよ。カバンサ様もヨール王も、扱いきれない感情に振り回されているんです」
「ああ、私もそういうことあったな」
 シズはオードで過ごした時間を思い出す。
「そうですね。感情を扱いきれる方などそうそうおられないのかもしれません。人なのに人がわかりませんものね」
 もしかしたら祈っているのかもしれない。神を通して未来を祈っている。神じゃなくてもいいんだ。できるだけ無敵で大きいものであれば安心できるだけだ。ヨールは強い国を欲している。
「ベルは、他の国が憎いと思ったことはあるか? 」
「よくわかりませんね。なんとなくわかるのは、戦争が不利を押し付けるものであることぐらいでしょうか。それに過去に虐げられた分、現在優位に立てても、つり合いなんてとれません。生きている人間が違うのですから」
 ベルは優しい声で言った。
「終わりはないんです。それが人の国で、歴史です」


 午前中にドレスの直しが終わり、シズは窓の外の雪を見てぼうっと考えていた。それこそ未来のことを考えていた。自分が、自分の意思に負けて、過去の魂によって神を目覚めさせてしまったら。
「シズ様、ヨール王がいらっしゃいました」
 顔をやるとヨールが立っていた。ベルはそっと部屋を出て行く。シズは窓の外に目線を戻した。
「雪が珍しいか? 」
 そう尋ねてきながら、シズの向かいの椅子に座った。
「降るのが早いなと思っただけだ」
「インデッセは他の国よりも、雪が降る期間は長い」
 目の端に雪の髪がちらちら入る。
「王様って忙しいもんだと思っていたけど。暇なのか? 」
「あなたに会いたいので無理を言ってきているのです」
 鼻を鳴らした。ヨールの顔を見る。
「あんたさ、自分が悪いことをしようしている感情はあるわけ? 」
 感情にどれほどこの男が支配されているのか、シズは興味があった。ヨールは黙った。そしてヨールも窓の外を見た。
「この国を築いた多くの人間は、オードで仕事がなく、食べるものも眠る場所もなかった人々が、小さな船で命からがら海を渡り、この乾いた土地にきた。そして不毛の地を生きる土にした。新しい場所で生きることもオードは許してくれなかった。インデッセの生活を抑制した。これは非道な仕打ちとは言わないのか? そののちに起こったオードの大火ばかり語り継がれている。悪の極みの出来事として。オードの抑制がなければスピネもオードを火の海にはしなかったであろう。インデッセは悪か、シズ」
 ヨールは、シズの瞳に入り込むように見つめる。ヨールの髪は雪より白いとシズは思った。
「悪とはなんだ? 」
 悪とは。正と正は重ならない。ふと、カルセドニー工場の事件の時、ハクエンに言われたことをシズは、思い出した。けれどそんな話はヨールにしたくはなかった。ヨール達がしようとしていることは、シズ達にとって悪だからだ。
「悪かったよ。あんたと私じゃ、正しいもんがちがうってことだな」
 だからそう言って、シズは話を終わらせた。するとヨールは大口を開けて笑い声を上げた。
「君との会話は実におもしろい。我儘なような素直なような。想像以上に君は可愛らしいひとなのかもしれませんね」
「そりゃどうも。もう帰りなよ。私はあんたとの会話は楽しくない」
「それは力不足で申し訳ない。それでは風邪を引かないように」
 ヨールが去って行く。
シズは夕食になるまでずっと動かずに考えていた。兵隊がいないこの世界で、戦前に立つのはきっとヨンキョクだろう。カザン達だ。それはなんて嫌なことなのだろうと思った。それにやっと、この世界で生きていくこと受け入れたのに、自分が自分でなくなって、ダイアスを目覚めさせるのことは、シズは許せない。それに船の中で実は少しだけ自分の未来に着いて考えていた。この一件がすべて終わった後の事を。自分が選ぶであろうもののことを。正は人それぞれ。正と正は重ならない。戦争は、シズの未来の敵だ。自分の選択がやむを得ないことだとは思わない。だから正だとも思わない。私が私でなくなる前に悪人なろう。シズはそう決めた。
「シズ様? 」
 ベルが心配そうに声をかけてきた。シズはベルに微笑んだ。
「ベル、結婚式は出るよ、私。祭りは嫌いじゃないからな」
 ダイアスを殺そう。私が殺そう。シズはそう決めた。
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