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平和編
婚礼の準備
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インデッセ。
朝になると雪はやんでいた。けれど積もっていて、窓の外はいわゆる銀世界になっていた。壁の上の方にでっぱりがあった。頑丈そうだった。シズはガウンをベッドに放り投げ、ネグリジェもその上に投げた。パンツとキャミソールの肌着になると、そのでっぱりに向かって跳んで、掴んだ。そして懸垂をはじめた。四十七回目で、部屋に入ってきたベルが気絶しかけた。驚き過ぎたようだった。ベルは朝風呂の準備をし、風呂からがると温かい朝御飯が準備されていた。スープに白いご飯。ベーコンに半熟のゆで卵。大根の漬物みたいな奴もすべて、シズはおいしかった。
「シズ様、今日は午前中にドレスのサイズを直したいのですが」
食後のお茶を飲んでいると、ベルが申し訳なさそうに言ってきた。
「ドレスのサイズ? 」
「結婚式のドレスでございます」
「ああ、それね」
シズはお茶をすする。結婚式が済んでから、ヨールはシズに、にダイアスを起こさせるつもりだ。そしたらまたあの鏡泉へ行く。昨夜みたいにまた自分が自分の意思で動いていない、あの不気味なことになるのだろか。シズの魂の中のどこかが、シズを抑えつけて、ダイアスを目覚めさせたがっているということだ。敵はシズの外だけではないということだった。
「嫌なのは承知しております。けれどしない訳にもいきませんので……」
シズが急に黙ったため、ベルは怒ったと勘違いさせた。シズは慌てて首をぶんぶん振った。
「いや、いいよ。どうせすることないし」
それもどうかと思うが。逃亡のことも結局何も考えついていない。
「ベルがしてくれるのか? 」
「はい。でも式の前にシズ様がいなくなっても大丈夫なので気にしないでくださいね」
ベルが微笑む。式の前に逃げる。その言葉をまるで文章を書くかのように、シズは頭の中で言葉を並べた。そして、ベルに微笑み返すことしか出来なかった。
朝ご飯から二時間ほど経ってから、ドレスの直しをベルが始めた。
「おい、なんだこのブラジャーみたいなドレスは。結婚式にしては破廉恥じゃないか?」
着せられたドレスは真っ白で、肩紐は細く、胸元は三角の布が二枚並べてあって、谷間ががっつり見える。シズに谷間はない。そしてウエスト部分は絞められ、そのまま膝まで沿うようにスカートは伸び、そこからまた広がり、シズから見て、左の方だけのスカート裾が五十センチほど床に着いていた。
「安心してください。上にあれをはおります」
ベルの視線の先に、白いジャケットがかけられてあった。丈は短い。胸元と腹の半分が隠れる。首元は詰まっていて、学ランみたいな襟だった。袖は長袖で先は大きくラッパみたいな形になっている。
「シズ様は身体が締まっていますので、もう少しウエストを詰めますね」
「太ったと思ったけど」
「何をおっしゃるのですか。こんなにお腹が割れている女性の方ははじめて見ました」
「どうも」
ここはベッドルームの方でドアから離れている。よほどの大きな声を出さなければ見張りに声は聞こえないだろう。それにドレスの直しをしていることを神の団は知っている。突然入ってきたりはしない、とシズは判断した。
「ベル、聞きたい事がある」
「なんでございましょう」
「あのカバンサは城人でもないのになんで王様の側近になれたんだ? 」
それがずっと疑問だった。ベルの手が一瞬止まった。そして警戒しながら話始めた。
「神の団の団長は戦後から代々、ペンタゴン家が担っておりました。先代は、スピネ王の秘書でした。ペンタゴンの一族は代々城人になっております。一局のことがありましたが、他の局にいることもありました。そして最後のペンタゴン家の方がヨール王の秘書でございました」
インデッセの一局長ということ。
「その方は結婚をなされず、団長の跡継ぎ問題は何度も話に上がっていたそうです。その時に現れたのがカバンサ様でした。カバンサ様は、ルリ様の日記を持っておられたのです」
「ルリの日記? 」
「元々は、スイド家に引き継ぐためにルリ様が書かれたものだったのですが、それがなぜかカバンサ様の手に。そこに鏡泉に神を眠らせていることが書いてあったそうです」
よりにもよってそんな日記がカバンサのところに。
「ちょうどペンタゴン様が年齢的に、退局の時期でして。そこにペンタゴン様が、カバンサ様を無理矢理押し込んだのです」
「それ一局から反感買っただろうな」
シズは暗に想像がついた。
「詳しくは知りませんが。それなりのことが今でもあるでしょう。しかし、ヨール王がカバンサ様を許していますので」
職権乱用甚だしいな。
「じゃあ、インデッセの王は戦後から代々神の団の存在を? 」
「いいえ。知らせてません。ヨール王がはじめてでございます。カバンサ様が告げました。ヨール様は若くして王になった。それゆえにまだ飲み込めていないものがあると、ジェーダ様がおっしゃられておりました」
それだけじゃないと、シズは思う。ヨールは元々野心があったのだ。それをカバンサは見抜いたのだ。そして王の力を利用しているのでもあると思う。ヨールもまた、カバンサと神の団に崇められることによって自分の駒として使っている。あの二人は案外、狐と狸の化かしあいみたいなものだ。
朝になると雪はやんでいた。けれど積もっていて、窓の外はいわゆる銀世界になっていた。壁の上の方にでっぱりがあった。頑丈そうだった。シズはガウンをベッドに放り投げ、ネグリジェもその上に投げた。パンツとキャミソールの肌着になると、そのでっぱりに向かって跳んで、掴んだ。そして懸垂をはじめた。四十七回目で、部屋に入ってきたベルが気絶しかけた。驚き過ぎたようだった。ベルは朝風呂の準備をし、風呂からがると温かい朝御飯が準備されていた。スープに白いご飯。ベーコンに半熟のゆで卵。大根の漬物みたいな奴もすべて、シズはおいしかった。
「シズ様、今日は午前中にドレスのサイズを直したいのですが」
食後のお茶を飲んでいると、ベルが申し訳なさそうに言ってきた。
「ドレスのサイズ? 」
「結婚式のドレスでございます」
「ああ、それね」
シズはお茶をすする。結婚式が済んでから、ヨールはシズに、にダイアスを起こさせるつもりだ。そしたらまたあの鏡泉へ行く。昨夜みたいにまた自分が自分の意思で動いていない、あの不気味なことになるのだろか。シズの魂の中のどこかが、シズを抑えつけて、ダイアスを目覚めさせたがっているということだ。敵はシズの外だけではないということだった。
「嫌なのは承知しております。けれどしない訳にもいきませんので……」
シズが急に黙ったため、ベルは怒ったと勘違いさせた。シズは慌てて首をぶんぶん振った。
「いや、いいよ。どうせすることないし」
それもどうかと思うが。逃亡のことも結局何も考えついていない。
「ベルがしてくれるのか? 」
「はい。でも式の前にシズ様がいなくなっても大丈夫なので気にしないでくださいね」
ベルが微笑む。式の前に逃げる。その言葉をまるで文章を書くかのように、シズは頭の中で言葉を並べた。そして、ベルに微笑み返すことしか出来なかった。
朝ご飯から二時間ほど経ってから、ドレスの直しをベルが始めた。
「おい、なんだこのブラジャーみたいなドレスは。結婚式にしては破廉恥じゃないか?」
着せられたドレスは真っ白で、肩紐は細く、胸元は三角の布が二枚並べてあって、谷間ががっつり見える。シズに谷間はない。そしてウエスト部分は絞められ、そのまま膝まで沿うようにスカートは伸び、そこからまた広がり、シズから見て、左の方だけのスカート裾が五十センチほど床に着いていた。
「安心してください。上にあれをはおります」
ベルの視線の先に、白いジャケットがかけられてあった。丈は短い。胸元と腹の半分が隠れる。首元は詰まっていて、学ランみたいな襟だった。袖は長袖で先は大きくラッパみたいな形になっている。
「シズ様は身体が締まっていますので、もう少しウエストを詰めますね」
「太ったと思ったけど」
「何をおっしゃるのですか。こんなにお腹が割れている女性の方ははじめて見ました」
「どうも」
ここはベッドルームの方でドアから離れている。よほどの大きな声を出さなければ見張りに声は聞こえないだろう。それにドレスの直しをしていることを神の団は知っている。突然入ってきたりはしない、とシズは判断した。
「ベル、聞きたい事がある」
「なんでございましょう」
「あのカバンサは城人でもないのになんで王様の側近になれたんだ? 」
それがずっと疑問だった。ベルの手が一瞬止まった。そして警戒しながら話始めた。
「神の団の団長は戦後から代々、ペンタゴン家が担っておりました。先代は、スピネ王の秘書でした。ペンタゴンの一族は代々城人になっております。一局のことがありましたが、他の局にいることもありました。そして最後のペンタゴン家の方がヨール王の秘書でございました」
インデッセの一局長ということ。
「その方は結婚をなされず、団長の跡継ぎ問題は何度も話に上がっていたそうです。その時に現れたのがカバンサ様でした。カバンサ様は、ルリ様の日記を持っておられたのです」
「ルリの日記? 」
「元々は、スイド家に引き継ぐためにルリ様が書かれたものだったのですが、それがなぜかカバンサ様の手に。そこに鏡泉に神を眠らせていることが書いてあったそうです」
よりにもよってそんな日記がカバンサのところに。
「ちょうどペンタゴン様が年齢的に、退局の時期でして。そこにペンタゴン様が、カバンサ様を無理矢理押し込んだのです」
「それ一局から反感買っただろうな」
シズは暗に想像がついた。
「詳しくは知りませんが。それなりのことが今でもあるでしょう。しかし、ヨール王がカバンサ様を許していますので」
職権乱用甚だしいな。
「じゃあ、インデッセの王は戦後から代々神の団の存在を? 」
「いいえ。知らせてません。ヨール王がはじめてでございます。カバンサ様が告げました。ヨール様は若くして王になった。それゆえにまだ飲み込めていないものがあると、ジェーダ様がおっしゃられておりました」
それだけじゃないと、シズは思う。ヨールは元々野心があったのだ。それをカバンサは見抜いたのだ。そして王の力を利用しているのでもあると思う。ヨールもまた、カバンサと神の団に崇められることによって自分の駒として使っている。あの二人は案外、狐と狸の化かしあいみたいなものだ。
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