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平和編
一矢のてだて
しおりを挟む「抹消したい物を悪にしただけだ」
バライトはどすんとやっと椅子に座った。掻きむしり過ぎた髪はボサボサだった。
「生きていくのにルールは大切だ。それが窮屈であってもその窮屈のおかげで生きやすくなる。ルールがあるってことは自分で決めなくていいからな。だが、正しいルールを決めることは死ぬほど難しいんだ。それを多くの人間は理解してくれない。世の中馬鹿ばっか! 」
「バライト暴言は慎め」
ハクエンがまた宥める。
「おい! もうこっそりお前ら、アルガー塾長殺しにいっちまえ! 」
バライトは落ち着くどころか噛み付いてきた。
「あのな、バライト。秩序ある世界を守るには、殺してもいい奴でも勝手に殺してはいけない。秩序とはそういうものだ。それくらい頭のいいお前なら分かってるだろう」
「知ってるさ! 秩序は法をつくる! 法が国を創る! そもそも国なんかにカタチはない。同盟はまぼろし。国もまぼろし。俺達はまぼろしをつくってまぼろしに踊らされまぼろしの中を生きている。ぜーんぶまぼろし! ぜーんぶだ、全部! 」
「これはまた、元も子もないことを、バライト局長」
セッシサンは笑うしかない。カルカがため息を吐いた。
「局長のおっしゃっていることは正しいですが、今それをいっても現状は最悪から変わりません。しいていうなら、まぼろしの中で多くの人間が死ぬということでしょう」
カルカの言葉に部屋は静かになる。
「まぼろしの中に理性があります。これは理性でまぼろしを守ろうという会議です。まぼろしがなければ人の世はないのでしょう? 私達の仕事もない。けれどまだまぼろしは消えていない。仕事はあります。ふててないで仕事しましょう」
カルカに叱られ、バライトはやけくそから抜け出した。
「カルカはまるでお母さんだな」
セッシサンが褒める。
「やめてください。キショイです」
「傷つく。カルカなんか猫舌のくせに」
「猫舌は悪口にはなりませんよ」
バライトはテーブルを叩く。
「なにかないかカルカ? 一矢を報いるてだては? 」
「インデッセを今から口や脅しで止めても無理でしょうね。こっちを理解する気はない。ヨール王もきっと揺るがない。王の意思を知る機会はもうないですよ」
カルカはそうとしかすぐには言えなかった。意思がわからないというのは厄介だ。どうしてやればいいかわからない。
「やはり直接止めるには、機密手配人を使うのがいちばんいい。インデッセの許可がいらないからな」
シプリンが降り出しに話を戻した。すると、アザムが手を上げた。
「なにかあるのかアザム? 」
バライトが尋ねる。
「ミトス・スイドを機密手配人にしたらどうでしょう? 実は九十七期生に生き残りがいたという理由で。カンダと同じ顔ですし。カンダはインデッセ城にいるはずです。城に乗り込むにはいい理由になりませんか? 」
「悪くはないな」
シプリンが頷く。いや、とカラミンは懸念した。
「それでも、二局四連会議で銃の事を出してくるだろう。それを阻止することを考えないとミトス・スイドを機密手配人にするのは厳しい。なぜ我々が、ミトス・スイドがインデッセ城にいることを知っていることを問い詰められたら芋づる式に全部話さないといけない」
また沈黙が流れる。カザンはポケットに手を入れる。そして反対の手を上げた。
「カザン? 」
アシスが呟く。カラミンが黙ってカザンを見た。
「ひとつ、案があります」
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