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平和編
仕組まれた共犯
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(参考)
一日目 シズ誘拐。ラリマ撃たれる
二日目 シラー拘束
三日目 シラー尋問(この話と次の話)
四日目
五日目 シズ、アベンチュレから月海へ
六日目
七日目 カーネス沈没。シズ船から列車へ
八日目
九日目
十日目 シズ、インデッセ城に到着(前話)
遡る事、シズが誘拐されてから三日目。(シズがインデッセの城に着いた日から約一週間前)
アベンチュレ城・九局専用資料室。
カルカはホイップがたっぷりかかったコーヒーをアザムに持ってきた。アザムは嫌そうな顔をした。
「なんですか?」
「局長から。ホイップが見つかったお祝いだってさ」
「まさか局長が買ってきたんですか?」
「ああ。砂糖のバケモノだ。歯が凍るぞ」
カルカがテーブルに紙コップを置くと、ホイップが揺れた。新しい隠語でホイップはインデッセのスパイのことだ。アザムは礼を言ったがそれを受け取らなかった。
「バライト局長は八局棟へ? 」
「たぶんね。尋問に立ち会っているかどうかはわからないけど」
「ホイップはユオ・オーピメンの素性をどこまで知っていたんですかね。八局にいたということは、アルガーと同一人物というのはどっちにしろ知っていると思いますが……」
アザムがルーサイト古書店の店主から聞き出した情報で、ユオ・オーピメンは元ベグテクタの城人ガレナ・ホーエンであることはほぼ間違いがなかった。
「下っ端だったらどうだろうな。けど、もし知っていたら厄介だな」
「なぜ? 」
尋問で情報が引き出せる分、どちらかといえば有利ではないかとアザムは思った。
「再来週は二局四連会議だ。うちは、ユオ・オーピメンを機密手配人にする予定だ」
「そうだと聞いています。元ベグテクタの城人であるなら、ベグテクタ側の協力も得られるでしょう。そもそも機密手配人に反対を述べる国など今までなかったのでは?」
「会議上ではないよ。もしかしたら、オーピメンの手配はホイップの尋問次第でなかったことになるかもな」
アザムは驚く。
「忘れたか? つい最近ここで話しただろう? ありえないっていう思い込み」
アザムははっとする。戦争のために共犯にされる。
「正直、あのホイップがオーピメンの過去は知らなくてもオーピメンのことは知っている。残念だが、うちはもう、かーなり奥まで引きずり込まれているよ」
カルカの微笑みは張りつめていた。アザムはたまらずホイップのコーヒーを飲んだが、甘さにむせた。
八局棟・尋問室。
「ラブラド・シラー。これは本名か?」
「本名です」
上司であるシプリンの質問にシラーは素直に答えた。ハクエンとセッシサンは壁側でそれを黙って見ている。シプリンは淡々と尋問を続ける。
「スパイが目的でアベンチュレの城人に? 」
「ええ」
「それは志願か? 」
「家系です。うちは代々、神の団です」
「神の団? 」
「神の復活を願い、インデッセに再び力を取り戻させるための集まりです」
シラーも淡々と答えていく。その余りの素直さは気持ち悪さがあった。
「カンダが城人になったのは私にとって幸運でした。神の団はインデッセに隠されているルリ王妃の肖像画を年に数度、崇めます。だからカンダを見た時は驚きました。まさに生き写し。神はルリ王妃の血で蘇ります。神の団はひとりひとり神の鱗を持っています。その鱗をカンダに見せたとき、カンダは銀色だといいました。ルリ王妃は神が銀色に見えた」
「だからカンダを誘拐した」
「そうなりますね」
シラーは微笑を浮かべた。シプリンはそれを数秒黙って眺めた。
「本当になんでも素直に話すな。もっとためらってもいいと思うが」
シプリンが正直な感想を漏らした。シラーは尋問だというのに力が抜けているように見えた。舐められているのとも違う。諦めていると言った方が近かった。
「もう、私の役目は終わったので。それとアベンチュレには同情します。間諜だとしても働かせてもらいましたしね」
「同情? 」
シプリンの声に不快感が混ざる。
「ユオ・オーピメンを機密手配人はできませんよ。もしすれば、銃の部品をアベンチュレで製造し、それを隠蔽したことを二局四連会議でオードとベグテクタに伝えます」
ハクエンとセッシサンの顔色が変わる。シプリンは喉を鳴らした。
「その言い方じゃ、インデッセの二局長も神の団ということか」
「ええ。アベンチュレも気が付いていたと思いますが、オードがインデッセをずっと警戒しています。そのために、オードは他国研修にベテランの城人を混ぜる案を出しました。より確かな目を光らせるために。それを逆に利用して私は、インデッセに四局が押収した部品を届けました。そして私も受け取り、一丁完成させました」
なくなった部品は二セット。
「完成した銃はインデッセに一丁あるということか……」
ハクエンが険しい顔で零す。
「アベンチュレにひとつ。インデッセにもひとつ。同盟の印みたいでしょう? 」
「だからまとめて盗まず、あえて二つ分しか持って行かなかったのか」
セッシサンは顔をゆがめる。
「あまり欲張り過ぎると見つかってしまいますし。急いだのは、メト王女とトーレン王子の婚約が決まる前に決行したかった。あの結婚は百年前のルリ様とスピネ様の結婚と同じ、同盟のようなものだ」
「それで滑り込んできて、アベンチュレは共犯にされたってことね」
シプリンは顔には出さないが内心焦っていたそれはハクエン達も同じだった。
一日目 シズ誘拐。ラリマ撃たれる
二日目 シラー拘束
三日目 シラー尋問(この話と次の話)
四日目
五日目 シズ、アベンチュレから月海へ
六日目
七日目 カーネス沈没。シズ船から列車へ
八日目
九日目
十日目 シズ、インデッセ城に到着(前話)
遡る事、シズが誘拐されてから三日目。(シズがインデッセの城に着いた日から約一週間前)
アベンチュレ城・九局専用資料室。
カルカはホイップがたっぷりかかったコーヒーをアザムに持ってきた。アザムは嫌そうな顔をした。
「なんですか?」
「局長から。ホイップが見つかったお祝いだってさ」
「まさか局長が買ってきたんですか?」
「ああ。砂糖のバケモノだ。歯が凍るぞ」
カルカがテーブルに紙コップを置くと、ホイップが揺れた。新しい隠語でホイップはインデッセのスパイのことだ。アザムは礼を言ったがそれを受け取らなかった。
「バライト局長は八局棟へ? 」
「たぶんね。尋問に立ち会っているかどうかはわからないけど」
「ホイップはユオ・オーピメンの素性をどこまで知っていたんですかね。八局にいたということは、アルガーと同一人物というのはどっちにしろ知っていると思いますが……」
アザムがルーサイト古書店の店主から聞き出した情報で、ユオ・オーピメンは元ベグテクタの城人ガレナ・ホーエンであることはほぼ間違いがなかった。
「下っ端だったらどうだろうな。けど、もし知っていたら厄介だな」
「なぜ? 」
尋問で情報が引き出せる分、どちらかといえば有利ではないかとアザムは思った。
「再来週は二局四連会議だ。うちは、ユオ・オーピメンを機密手配人にする予定だ」
「そうだと聞いています。元ベグテクタの城人であるなら、ベグテクタ側の協力も得られるでしょう。そもそも機密手配人に反対を述べる国など今までなかったのでは?」
「会議上ではないよ。もしかしたら、オーピメンの手配はホイップの尋問次第でなかったことになるかもな」
アザムは驚く。
「忘れたか? つい最近ここで話しただろう? ありえないっていう思い込み」
アザムははっとする。戦争のために共犯にされる。
「正直、あのホイップがオーピメンの過去は知らなくてもオーピメンのことは知っている。残念だが、うちはもう、かーなり奥まで引きずり込まれているよ」
カルカの微笑みは張りつめていた。アザムはたまらずホイップのコーヒーを飲んだが、甘さにむせた。
八局棟・尋問室。
「ラブラド・シラー。これは本名か?」
「本名です」
上司であるシプリンの質問にシラーは素直に答えた。ハクエンとセッシサンは壁側でそれを黙って見ている。シプリンは淡々と尋問を続ける。
「スパイが目的でアベンチュレの城人に? 」
「ええ」
「それは志願か? 」
「家系です。うちは代々、神の団です」
「神の団? 」
「神の復活を願い、インデッセに再び力を取り戻させるための集まりです」
シラーも淡々と答えていく。その余りの素直さは気持ち悪さがあった。
「カンダが城人になったのは私にとって幸運でした。神の団はインデッセに隠されているルリ王妃の肖像画を年に数度、崇めます。だからカンダを見た時は驚きました。まさに生き写し。神はルリ王妃の血で蘇ります。神の団はひとりひとり神の鱗を持っています。その鱗をカンダに見せたとき、カンダは銀色だといいました。ルリ王妃は神が銀色に見えた」
「だからカンダを誘拐した」
「そうなりますね」
シラーは微笑を浮かべた。シプリンはそれを数秒黙って眺めた。
「本当になんでも素直に話すな。もっとためらってもいいと思うが」
シプリンが正直な感想を漏らした。シラーは尋問だというのに力が抜けているように見えた。舐められているのとも違う。諦めていると言った方が近かった。
「もう、私の役目は終わったので。それとアベンチュレには同情します。間諜だとしても働かせてもらいましたしね」
「同情? 」
シプリンの声に不快感が混ざる。
「ユオ・オーピメンを機密手配人はできませんよ。もしすれば、銃の部品をアベンチュレで製造し、それを隠蔽したことを二局四連会議でオードとベグテクタに伝えます」
ハクエンとセッシサンの顔色が変わる。シプリンは喉を鳴らした。
「その言い方じゃ、インデッセの二局長も神の団ということか」
「ええ。アベンチュレも気が付いていたと思いますが、オードがインデッセをずっと警戒しています。そのために、オードは他国研修にベテランの城人を混ぜる案を出しました。より確かな目を光らせるために。それを逆に利用して私は、インデッセに四局が押収した部品を届けました。そして私も受け取り、一丁完成させました」
なくなった部品は二セット。
「完成した銃はインデッセに一丁あるということか……」
ハクエンが険しい顔で零す。
「アベンチュレにひとつ。インデッセにもひとつ。同盟の印みたいでしょう? 」
「だからまとめて盗まず、あえて二つ分しか持って行かなかったのか」
セッシサンは顔をゆがめる。
「あまり欲張り過ぎると見つかってしまいますし。急いだのは、メト王女とトーレン王子の婚約が決まる前に決行したかった。あの結婚は百年前のルリ様とスピネ様の結婚と同じ、同盟のようなものだ」
「それで滑り込んできて、アベンチュレは共犯にされたってことね」
シプリンは顔には出さないが内心焦っていたそれはハクエン達も同じだった。
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