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平和編
結婚式は来週
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「な、なぜ? 」
シズが聞く。
「なぜって。平和主義ですから、私」
ベルはにっこりほほ笑んだ。
「なんとか神の団の壊滅をしようと、ジャーダ様と密通していたんです」
「ネス様って、ヨール王の叔母の? 」
ベルは頷いた。
「けど、それが願わずネス様はお亡くなりに。カバンサ様を危なく思っているものは少なくないのです。けれど、神の団の情報網は広く、迂闊に『反神の団』を広げることができませんでした」
「今は、その『反神の団』はあなた以外に仲間は? 」
「私ひとりでございます」
シズはえっ、と零した。
「元々、ジェーダ様と、そののメイド。そして私の三人でございました。ジェーダ様が亡くなられたあと、後を追うようにメイドの方も……」
ベルはひとりぼっちになった。
「じゃあ今からは二人で」
シズは騙されていることはないと思った。もしそうだとしても仕方ない。
「私も大人しくしているつもりはないから。私の事見捨ててもいいけど、見逃して」
ベルは目を丸くしたが嬉しそうにほころばせた。
「情報はできる限りお渡しします。けれどその前にお着替えを。シズ様はお好きなドレスのかたちは? 」
「ドレスが好きじゃない。あと、シズ様ってやめてくれない? 」
「やめられません。私が怒られてしまうのでお許しを」
「それなら、まあ、仕方ないか」
「ドレスの色はまだジェーダ様の喪の期間ですので、黒で。ご希望がなければ私がお選びします」
「絶対着なきゃ駄目なのか? 」
「駄目でございます。どうか私のためだと思って」
そういうのはずるいとシズは思う。けどベルにもメイドという立場がある。
「……女性らしくなくて、動きやすいの。ひらひらしてないのがいい」
「お任せください」
といって、シズ着せられたのはタートルネックの五分袖のドレスだった。ウエストは締まっていて、スカートはAラインに広がっている。
「これはひらひらだと思う」
シズはベルに抗議した。
「そのスカートの形が一番動きやすいかと。タイトスカートのものに変えられますか ?」
シズはこのままで我慢することにした。靴は列車から履いてきたのをそのまま履かせてもらった。髪は整えてもらったが、化粧は頑固拒否した。
「やはりお綺麗で。それなりのものを着ますと見違えますね」
戻ってきたカバンサに嫌味な褒められ方をして、シズは椅子に座ったまま腕を組んでそっぽを向いた。
「聞いていた通り、不機嫌なようで」
雪色の髪。美人と褒めるのがまさに正しい男。ヨールはカバンサの後ろから姿を見せた。
「彼女と少し話をしたい。席をはずしてくれないか? 」
ベルは一礼して部屋を素早く出て行く。
「王様、十五分だけです」
「わかっている、カバンサ」
カバンサは、シズを一瞥して部屋を出た。部屋にはヨールとシズのふたりになった。ヨールはシズの向かいに椅子を持ってくると腰を下ろした。所作のひつひとつが優雅で隙が無い。シズは腕組みをはずさず、さらに足を組んだ。目は合わさない。
「会うのは三度目だな」
ヨールはシズの態度をいさめることなく、穏やかに話をはじめた。
「私はあなたが城に戻ってくるのをずっと待っていたんだ」
「ここは私の戻ってくる場所じゃないよ」
「戻りたい場所にはもう戻れないだろう? 」
ヨールを睨む。そうか、私が二度ひっくり返されたことを知っている。知っていてこの言い方。見た目とは裏腹に腹黒いなこいつ、とシズは思う。
「あんたがカバンサに洗脳されてるって聞いたんだけど? 本当? 」
ヨールは噴出した。シズは顔を顰めた。
「それはどういう笑いだ? 王様? 」
「素直におかしいからさ。真正面からそんなことを聞いてくる人間なんていないよ。ああ、おかしい」
ヨールは涙を拭う仕草まで見せた。
「そういう風に思っているのは、神の団の中にもいるよ。けどね、私は洗脳されている自覚はないんだよ。君はどう思う? 」
「知らねぇよ」
シズは吐き捨てた。
「私は、世界を変えるのに、カバンサの力が必要だと思っている。それだけだ」
神様使って世界征服か、とシズは呆れる。
「インデッセの王様じゃ駄目なんですか? 世界の王様にならないといけないんですか? 」
「尊厳が欲しいんだよ。そのためには一番強い国にならないといけないのだ」
「そういうもんですかね? 」
「そういうものです」
その一言だけは、ヨールは冷たく突き付けてきた。シズから見ると、、洗脳されてるっていうよりヨールもカバンサを利用してるって感じだった。
「ずっと君を待っていた。君は私の救いになるんだ」
「そんな大層な人間じゃないよ。私は。メンタルが弱いただの不良だ」
ヨールは声をあげて笑った。それがひどく、シズの癪に障る。怒ったり苛立ったりすればいいのに。余裕シャクシャクでシズはムカツク。
「君は本当に面白い。君が相手なら退屈することはないだろう。まあ、とりあえず長旅の疲れを癒してください。来週まではゆっくりして欲しい」
「来週、何があんだ? 」
「結婚式です」
「誰の? 」
「私達の」
「へえ。あんた結婚するんだ。喪の期間って聞いたけど? そういうの大丈夫なの? 余計なお世話だけど」
「やむをえない。早く済ませたいですから。世間には内緒にするのでご心配なく」
「心配なんてしてないけどな」
「なぜ? あなたとの結婚式なのに」
「あ? 」
「私とあなたが結婚するんですよ」
ケッコン、血痕、結婚、コケコッコー。シズの頭の中で鶏が鳴く。
「……はあ? 」
シズが聞く。
「なぜって。平和主義ですから、私」
ベルはにっこりほほ笑んだ。
「なんとか神の団の壊滅をしようと、ジャーダ様と密通していたんです」
「ネス様って、ヨール王の叔母の? 」
ベルは頷いた。
「けど、それが願わずネス様はお亡くなりに。カバンサ様を危なく思っているものは少なくないのです。けれど、神の団の情報網は広く、迂闊に『反神の団』を広げることができませんでした」
「今は、その『反神の団』はあなた以外に仲間は? 」
「私ひとりでございます」
シズはえっ、と零した。
「元々、ジェーダ様と、そののメイド。そして私の三人でございました。ジェーダ様が亡くなられたあと、後を追うようにメイドの方も……」
ベルはひとりぼっちになった。
「じゃあ今からは二人で」
シズは騙されていることはないと思った。もしそうだとしても仕方ない。
「私も大人しくしているつもりはないから。私の事見捨ててもいいけど、見逃して」
ベルは目を丸くしたが嬉しそうにほころばせた。
「情報はできる限りお渡しします。けれどその前にお着替えを。シズ様はお好きなドレスのかたちは? 」
「ドレスが好きじゃない。あと、シズ様ってやめてくれない? 」
「やめられません。私が怒られてしまうのでお許しを」
「それなら、まあ、仕方ないか」
「ドレスの色はまだジェーダ様の喪の期間ですので、黒で。ご希望がなければ私がお選びします」
「絶対着なきゃ駄目なのか? 」
「駄目でございます。どうか私のためだと思って」
そういうのはずるいとシズは思う。けどベルにもメイドという立場がある。
「……女性らしくなくて、動きやすいの。ひらひらしてないのがいい」
「お任せください」
といって、シズ着せられたのはタートルネックの五分袖のドレスだった。ウエストは締まっていて、スカートはAラインに広がっている。
「これはひらひらだと思う」
シズはベルに抗議した。
「そのスカートの形が一番動きやすいかと。タイトスカートのものに変えられますか ?」
シズはこのままで我慢することにした。靴は列車から履いてきたのをそのまま履かせてもらった。髪は整えてもらったが、化粧は頑固拒否した。
「やはりお綺麗で。それなりのものを着ますと見違えますね」
戻ってきたカバンサに嫌味な褒められ方をして、シズは椅子に座ったまま腕を組んでそっぽを向いた。
「聞いていた通り、不機嫌なようで」
雪色の髪。美人と褒めるのがまさに正しい男。ヨールはカバンサの後ろから姿を見せた。
「彼女と少し話をしたい。席をはずしてくれないか? 」
ベルは一礼して部屋を素早く出て行く。
「王様、十五分だけです」
「わかっている、カバンサ」
カバンサは、シズを一瞥して部屋を出た。部屋にはヨールとシズのふたりになった。ヨールはシズの向かいに椅子を持ってくると腰を下ろした。所作のひつひとつが優雅で隙が無い。シズは腕組みをはずさず、さらに足を組んだ。目は合わさない。
「会うのは三度目だな」
ヨールはシズの態度をいさめることなく、穏やかに話をはじめた。
「私はあなたが城に戻ってくるのをずっと待っていたんだ」
「ここは私の戻ってくる場所じゃないよ」
「戻りたい場所にはもう戻れないだろう? 」
ヨールを睨む。そうか、私が二度ひっくり返されたことを知っている。知っていてこの言い方。見た目とは裏腹に腹黒いなこいつ、とシズは思う。
「あんたがカバンサに洗脳されてるって聞いたんだけど? 本当? 」
ヨールは噴出した。シズは顔を顰めた。
「それはどういう笑いだ? 王様? 」
「素直におかしいからさ。真正面からそんなことを聞いてくる人間なんていないよ。ああ、おかしい」
ヨールは涙を拭う仕草まで見せた。
「そういう風に思っているのは、神の団の中にもいるよ。けどね、私は洗脳されている自覚はないんだよ。君はどう思う? 」
「知らねぇよ」
シズは吐き捨てた。
「私は、世界を変えるのに、カバンサの力が必要だと思っている。それだけだ」
神様使って世界征服か、とシズは呆れる。
「インデッセの王様じゃ駄目なんですか? 世界の王様にならないといけないんですか? 」
「尊厳が欲しいんだよ。そのためには一番強い国にならないといけないのだ」
「そういうもんですかね? 」
「そういうものです」
その一言だけは、ヨールは冷たく突き付けてきた。シズから見ると、、洗脳されてるっていうよりヨールもカバンサを利用してるって感じだった。
「ずっと君を待っていた。君は私の救いになるんだ」
「そんな大層な人間じゃないよ。私は。メンタルが弱いただの不良だ」
ヨールは声をあげて笑った。それがひどく、シズの癪に障る。怒ったり苛立ったりすればいいのに。余裕シャクシャクでシズはムカツク。
「君は本当に面白い。君が相手なら退屈することはないだろう。まあ、とりあえず長旅の疲れを癒してください。来週まではゆっくりして欲しい」
「来週、何があんだ? 」
「結婚式です」
「誰の? 」
「私達の」
「へえ。あんた結婚するんだ。喪の期間って聞いたけど? そういうの大丈夫なの? 余計なお世話だけど」
「やむをえない。早く済ませたいですから。世間には内緒にするのでご心配なく」
「心配なんてしてないけどな」
「なぜ? あなたとの結婚式なのに」
「あ? 」
「私とあなたが結婚するんですよ」
ケッコン、血痕、結婚、コケコッコー。シズの頭の中で鶏が鳴く。
「……はあ? 」
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