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過去編
城の人々と、ミトスの運命
しおりを挟む〔ミトスとシズが入れ替わる日〕
ミトスの誕生日の前日。明日は終戦記念日。終戦記念日が誕生日とは、因果めいていると改めてミトスは思った。
「産まれた日の十二時、日付が変わった瞬間、全員一律で入れ替わったコインは死ぬ。今回は俺が行かずに、俺がお前を飛ばす。そしたらコインの唇に自分の唇を押し付けろ。それで言葉の交換ができる」
「へぇ、結構便利だね」
キミドリアパートでミトスはコーネスから説明を受けていた。
「時間は四十三秒。その時間内に終わらせろ」
「その間も言葉は通じないの? 」
「通じる。俺も時々話すからな。けど勧めはしない。あと、本当にその恰好で行くのか? 」
ミトスはプライトに準備して貰った城人の制服を着ていた。
「一生に一度とないことだからね。一張羅だよ」
コーネスは呆れた。
「駄目か? 」
「反対したいが、好きにしろ」
「ありがとう」
コーネスはミトスを見つめた。
「なに? 」
「お前はなにも言わないな」
「どういう意味? 」
「俺は沢山人を殺した。そして金にした」
コインで引っくり返した人間達のことだった。コーネスは自分の左手を眺める。
「周りの人間達の思惑のためにひっくり返した奴もいる。本人に頼まれてやったのもある。もう何人殺したかわからない」
「コーネスはそんな風に本当は生きたくなかっただろう? 」
ミトスは優しく言った。コーネスは昔はそうだったかもしれないと思った。
「君のしたことは許されることじゃない。自首したらインデッセに連れていかれるから駄目だよ」
「しないさ」
ミトスはコーネスを抱きしめた。
「嫌ならもうやめればいい」
「やめないさ」
コーネスは即答した。
「この能力が、俺の存在意義だ。今さら、普通にもう生きていけないよ」
「……そっか」
ミトスはコーネスから離れ、ベッドに座った。
「そろそろやろう、コーネス」
コーネスは返事をせずにミトスと向かい合う。
「やめるなら、最後のチャンスだぞ」
「やめないよ」
「そうか、じゃあやるぞ」
「コーネス、俺好きな人できたよ」
終わってしまう恋だけれど。ミトスはメトを思い描く。
「恋なんてできると思わなかったけど。コーネスも誰かを好きになったら? 」
「ならないよ。俺が大事だと思ったのはお前だけだ」
「え、プローズ? 」
「そういうんじゃない。俺がこの世で大事なのはスイド家の人達だってことだ」
「じゃあうまく入れ替わったら俺のコインを好きなるのは? 正真正銘のスイド家の子どもさ」
「違う」
コーネスは強めに言い切った。
「今いるスイドの人はお前だけだ。お前だけだ」
ミトスは一筋の涙を流した。金の海が揺れている。
「ありがとう、コーネス」
「こっちのセリフだ、馬鹿」
「じゃあついでに頼むけど、今年から母さん達の墓参りお願いね」
「……わかったよ」
「ありがとう、よろしくね。もう頼みごとはないよ」
「そうか。じゃあやるぞ」
ミトスは涙を拭い頷いた。コーネスは左手をミトスの顔に触れた。
死んだらおしまい。死は結末。終わらせるにはミトスは大切な人がいた。メトに、コーネス。意外にそれだけだはなく、ヘミモル村の人達、プライトもアンドラ王子もミトスにとって大事だった。あともうひとり、どこかで生きてるルバ。
「うおっ!」
自分のコインは「パイラ」の自分よりありままの自分の方が近いなと、ミトスは思った。シズは止まった世界に狼狽えて騒いでいる。そしてミトスの姿を見ると「ひっ!」と悲鳴を上げ、近づけば逃げていく。自分と同じ顔しているのだから不気味なのは当たり前か、とミトスは内心笑った。
「どちらさんかお名前聞かせてもらえないですか?おんどりゃあ」
ミトスは食い入るようにシズを見つめると尋ねた。
「死にたくないか? 」
「は? 」
もし、死にたいと言ったらこのまま帰ろうとミトスは思った。
「死にたくないか?」
もう一度ミトスは尋ねた。
「死にたくねぇよ。あんたわたしのこと殺しにでもきたのか?」
ミトスは安堵した。そしてひとりで決めた賭けをすることにしていた。シズに神の始末を託そうと考えたのだ。スイド家の人間が全員死んだ事になっているのに、「神の団」は諦めずに存在し続けたのだ。目覚めることがないにしても、神は存在し続ける。危険と隣り合わせだが、神を目覚めさせることのできる彼女が唯一、神をどうにかできるのだ。「神の団」を始末し、戦争の火種を消せる唯一の存在だった。けれど、恐ろしい賭けだった。シズに神の始末を頼むには、一方的過ぎたし、四十三秒では到底無理だった。そのための城人の制服だった。向こうの世界に行けば、この制服を見つけるだろう。もし、俺の正体を捜すならこの制服を頼りにするはずだとミトスは考えた。あわよくば十八歳だからぎりぎり学校に入学ができる。そこまでは期待し過ぎかな、とミトスは思っていた。使命を与えるつもりはない。選択肢のひとつにミトスは願いを潜り込ませた。ミトスは彼らを悲しくさせる種を取りのぞいて欲しい、と願った。城人の制服は願いだった。
「よかった。俺も死にたくないんだ」
ミトスが死ねば、シズも死ぬ。コインは生も死も共有する。
「あ?な、」
時代は運命だ。時代は変えられない。けど、利用はできる。だから生きて。ミトスはシズにキスをした。
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