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過去編
城の人々と、ミトスの運命
しおりを挟む「けどさ、俺のコインは普通じゃないだろう?ルリ王妃の生まれ変わりなら、神様に愛されている魂を宿している。神様ってすごい大きな力をもっているだろう。それならさ、凄い力で引き寄せる力があると思うんだ。百年も待っているんだから。早く来い、って」
ミトスは空を握ると自分に引き寄せる。
「やってみる価値はミトス思う。どうせこのままだったら死んじゃうんだからさ」
ミトスは真剣な顔でコーネスに頼んだ。コーネスは頭を抱える。
「このままだったら楽に死ねるんだぞ。万が一、元に戻れたとしても、どうやってあっちの世界で生きていく? 地獄だぞ。想像できるだろう? 」
コーネスはもう怒鳴っていた。ミトスはそれでも頑なだった。
「そうかもしれない。でも、死ぬことは恐怖じゃなくちゃいけないんだよ。恐怖はいつだって生を脅かすから。死が恐怖だからこそ、人は殺されることを恐れる。戦争を恐れる。死への恐怖がぼんやりしてきた奴が、戦争を起こすんだ」
ミトスの頭にはカバンサが浮かんだ。
「俺は、この死を怖がりたい。実際いくら楽に死ねるって言ってもめっちゃ怖いし。だから、生きようと思う。母さんが俺を引っくり返したのもある意味、世界平和のためだろう? なら、生きることが俺の反戦精神だ」
ミトスはそこまで言い切ると歯を見せて笑った。
「なーんてね。ちょっとカッコつけすぎたね」
コーネスは大きなため息を吐く。
「それはスイド家で育ったための使命感か? 」
「そうかもね。それに、俺のコインは何が何でも死にたくないかもしれないし」
自分と同じ顔の女。ミトスは想像してみたが、「パイラ」の時の自分の顔しか出てこなかった。それでほとんど正解なんだろう。
「生きることに使命感なんか持つな。人生に使命もクソもない。産まれて生きて死ぬだけさ」
「それだけだとしてもさ、悲しいんだよ。コーネスだってそうだろう? 答えがない。答えがないからどうしようもないままでいるしかない。それがさ、たぶんつらいんだ。どうしようもないものを持ち続けなくちゃいけないのは死にたくなるよ」
ミトスは静かに反論した。コーネスは呆れた顔をした。
「結局、お前は死にたいのか? 」
「残念ながら死にたくない。と、言ったら嘘になる。やせ我慢もしてる。今、あがいてる。理由はないけどあがいてるんだ」
「あがかずに諦めろ」
「嫌だ。運命と心中はしないよ。命に執着してみる。だから手伝って」
「……無謀過ぎる博打だぞ」
コーネスは自分が諦めなければならないことを察した。
「わかってる。だから、よろしくね」
コーネスが思っている以上の博打をミトスがしようとしていることを、コーネスは永遠に知ることはなかった。
〔ミトスとシズが入れ替わる二か月半前〕
「俺のコインの戸籍を準備するからアベンチュレに戻ろうと思う」
「そこまでするのか?」
「そうだよ。保護者もいるよね、コーネスなってくれる? 」
「嫌だよ」
「だと思った。じゃあアベンチュレでいい人捜そう」
「そんなにほいほい戸籍準備できるのかよ」
「職権乱用だよ」
〔ミトスとシズが入れ替わる一か月半前〕
「この、ジャモン・サーペティンって人と養子縁組組ませようと思う。コーネス、交渉してきて」
「なんで僕が? 」
「俺が行くとややこしいでしょう?」
「けっ」
「あとコーネス」
「なに? 」
「なんで顔の中心に前髪垂らしてるの? 」
「癖毛だよ」
〔ミトスとシズが入れ替わる一か月前〕
「ジャモン・サーペティンが了承したぞ」
「よかった!ありがとう。ペタのキミドリアパートっていう、物件を購入したから、その、サーペティンさんを持ち主にするから。今は無人で荒れ放題だけれど直したらアパート経営できるようになるしね」
「……お前、なんでそんなに金持ってるんだよ」
「職権乱用かな」
「着服か? 」
「……」
〔ミトスとシズが入れ替わる二日目〕
ミトスはプライトが準備した隠れ家のアパートに来ていた。もちろん、プライトにも連絡をした。
「お前、三か月も行方をくらまして、大丈夫だったのか? 」
プライトは心底心配していたようで、ミトスの顔を見るとほっとした。
「一応大丈夫でした。けど俺って結構美人みたいで、ヨール王から夜のお誘い貰って。さすがにバレるでしょう? 」
「夜……! 」
プライトは口に手をあてて、青ざめた。
「あんな女みたいに涼しい顔してあの男……! 」
「王でも人間の男ですよ。アベンチュレ出身ってこと言っちゃってたんで、先週までベグテクタに身をひそめていたんです」
ミトスは嘘を伝えた。プライトは疑うことはしなかった。
「そうか。アンドラ王子もお前の顔を見たがっている」
「明日の夜に伺うとお伝えください」
「分かった。あと、これ」
プライトは紙袋をミトスに差し出した。
「若干、本物と仕様が変えてあるが、ぱっと見は分からない」
ミトスは紙袋受け取り、中身を見る。それは城人の制服だった。
「お前ほど優秀なやつなら、絶対に城人になれていてはずだ。優秀な俺の部下だったろう」
「俺が七局志望なの知ってたんですね」
「お前が自分で俺に教えてくれたんだぞ」
「そうでしたっけ? 」
プライトは苦笑する。
「お前は頭がいいのに抜けているな」
「そんなことないですよ。この制服を悪用する方法はいくらでも思いつきますよ」
「だから若干仕様を変えてある。悪さをしてもしょうもない詐欺だ。そんなしょうもないことはお前はしないだろう? 」
ミトスは笑った。ミトスはプライトが制服を準備してくれるのはほぼ確信していた。下から頼んでおきながら、身内の優しさを操っている。スパイであるからこそできる所業もいくつも個人のために利用した。ミトスは悪い人間になったものだと心の中で自虐した。
「一度袖を通したら、処分します」
「ああ」
「プライトさん」
「ん? 」
「ありがとうございます」
「礼は言うな。お前に礼を言われると、良心がさらに傷む」
プライトは本気で言ったが、ミトスはなんだかおかしくて幼い少年ようにはしゃいで笑った。
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