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過去編

城の人々と、ミトスの運命

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 ミトスはスパイ訓練で様々な情報を頭にインプットした。その中に各国の機密手配人も漏れがあるはずはなかった。そこでコーネスが、コーネス・カーネスと呼ばれ、インデッセの手配人になっていることを知った。それもまた、ミトスにとってインデッセに疑惑をかけるひとつとなった。

 各国を飛び回る中、男を女に変え、女を男に変える男がいるという話をミトスはベグテクタのろくでもない輩が集まる酒場で聞いた。話のつなぎにミトスは「どんな男だい? 」と尋ねてみた。濃いネイビーの長い髪らしい。あと三白眼。ミトスはコーネスが頭に過った。けれどそこでまだ、酔った男の話とコーネスを結び付けていなかった。男は怪談を話す愉快さで話を続けた。
 けどな、異性に変えられた奴らはみーんな、若い奴らだってよ。そんで、どんなに健康でも十八歳になったとたんに、ぽっくり、さ。

 ミトスはその見知らぬ男の酒の肴ぐらいにしかなりそうにないおとぎ話に、自分の運命の真実を感じた。母のティーネが自分に十八歳までしか生きられないと言ったこと。そして赤の他人であるはずのコーネスがスイド家に住んでいた理由。ミトスは男の話を興味深く聞いた。異性に変えられた人間は十八歳の誕生日に死んでるといった。男はそいつらを三人知っていると言ったが、よくよく聞けば、男もどっかの酔っ払いから噂話を聞いただけだった。

 ミトスは、十八歳の誕生日に死んだ人間の情報を幾つかあらった。そして、ある富豪の家の息子の死に辿りついた。その息子は三年前に十八歳の誕生日に、眠るように突然死んだ。その息子の父親は三人兄弟の二番目で、一家の長である彼らの父親が「男を最初に産んだところに、家督を譲る」と約束していた。ミトスはその死んだ息子をとりあげた医者のところに行き、ネイビーの髪の三白眼の男に見覚えはないか、と尋ねた。医者は頷いた。
「部外者の男であるはずなのに、そばにいてなんか気味が悪かったと。しかも産んだ瞬間赤子を奪った。すぐに戻したが。私は叱ったが、母親も父親もそいつにへこへこ礼を言って。なんか気分が悪かったよ」
医者は愚痴をミトスに語った。
 自分もたぶんそうだったのだ。自分は本当はスイド家の人間ではない。入れ替えられた。だから十八歳で死んでしまう。

「けれどなぜ変えられたのだろう? それをずっと聞きたかったんだ。教えて欲しい、コーネス」
 ウヴァロの家の地下で、ミトスとコーネスは向き合って座っていた。ウヴァロは遠くで作業をしていた。話が聞こえないように配慮をしてくれているのか、ジャズのレコードを流してくれていた。
「コーネスは『うらがえし』なんだろう?」
「そこまで調べたのか? 」
「すごいだろう? 」
 ミトスはいたずらぽく笑った。コーネスは苦い顔をする。
「コーネスが俺をうらがえしたのか? 計算すると、六歳の頃になるけど」
「違う、俺じゃない。アタカマ・カーネスという男だ」
 コーネスは知っている事をすべてミトスに教えた。ゆっくりと、丁寧に。ミトスの曾祖母にあたるヘマがルリであること。ミトスの祖母はマヤと神の子であること。そして神はまだこの世のどこかにいること。それが、ヘマの生まれ変わりであろう、ミトスのコインが蘇らせることができること。それを阻止するために、裏返され、ミトスはスイド家の息子として育てられたこと。
「じゃあ俺が死ねば永遠に神は目覚めないのか? 」
「たぶんな」
「死ぬことはないのか? 」
「それも難しいだろう」
 目覚めなくても神は存在しつづける。もしかしたら眠る姿を見つけられるかもしれない。目覚める方法がなくても存在しつづけるなら「神の団」は諦めないかもしれない。
「……憎むか? 」
 コーネスは重く静かに零した。
「俺を、スタウロさん達を憎むか?」
 コーネスはミトスが死ぬ直前にスイド家の人々に恨みをもたせてしまった気がした。けれど、ごまかすこともできないぐらいにミトスは調べていた。それでもコーネスは間違えてしまったかもしれないと思った。
「お前にはすべてを憎む権利がある」
 ミトスはそうだね、と呑気に呟いた。
「コーネスや母さんたちを憎むにしては、俺は愛され過ぎた」
 ミトスは笑う。
「家族は俺を幸せにしようと必死だったのは今思い返すと分かるよ。だから俺は自分が不幸だとは思えな」
「お前は不憫で不幸だよ」
 コーネスは思わず口に出してしまった。
「ひどいな! 」
 ミトスはケタケタ笑った。そしてそうだ、とコーネスにお願いした。
「コーネス、もう一度引っくり返してよ」
 コーネスはミトスの言葉の真意が咄嗟に理解できず、ミトスの顔をまじまじと見つめた。
「お互い産まれた世界に戻すんだ。そしたら俺達は十八歳で死ななくていい」
「無理だ」
 コーネスは強めに言った。
「一度引っくり返した者達をもう一度返せたためしがない。発作を起こして苦しんで戻れないまま死ぬ」
「やったことがあるんだね? 」
 コーネスは黙った。ミトスは手のひらを広げ、腕をのばす。
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