【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
190 / 241
過去編

城の人々と、ミトスの運命

しおりを挟む

〔ミトスとシズが入れ替わる七か月前〕

「神の団? 」
 一年間、三国を飛び回りミトスはその存在を掴んだ。そしてそれをアンドラ王子に報告をした。アンドラ王子は白の寝間着をだらりと身にまとい、ソファに腰掛けミトスの報告を聞いた。そのような格好でもアンドラには気品があり、色気もある。これが王族の血か、とミトスは内心感心した。
「はい。その単語は一回しか聞いていないので、確かとは言い切れませんが、各国に散らばった組織がいるのは間違いないかと。そしてアベンチュレに忍び込んでいるスパイもその一味の可能性があるかと」
「神、ね……」
 アンドラはそう呟きながらグラスに水を注いだ。
「それで? その神の団というのは、神を復活させようとしているのかい? 」
「そのようかと」
「まるでこの世にまだ神がいるかのような組織だね」
 アンドラは喉を鳴らし、水を一口飲んだ。
「いるかどうかまでは、まだ。けれど、その大元はインデッセにあるようで」
「まあ、話の流れからして、そうだろうね。本腰いれて、インデッセを調べてくれるかい? 」
「そのつもりです」
 そもそもミトスにとってインデッセは本星だった。小さい頃、家族がなんとなくインデッセについて口にすることを避けていたのを肌に感じていたし、嫌悪を抱いているようであった。インデッセとスイド家にはなんらかの関わりがあるのかもしれない。
「プライトに手配を頼む。しばらく休みたまえ。またプライトから連絡が来るだろう」
「承知致しました」
 ミトスはアンドラに背を向ける。
「ミトス」
 主に呼び止められて振り返る。
「ミトス、君は従順過ぎる。欲がなさ過ぎる。素直過ぎる」
「……それは苦情ですか? 」
 ミトスは困る。アンドラは笑った。
「いや、不思議でね。何か、望んでるものはないのかい? 」
 ミトスは少し考えて答えた。
「長生きしたいです」
 ミトスの答えにアンドラは黙った。
「……すまない。お前を殺してしまって」
「違います! 」
 ミトスはすぐに否定した。
「あなたを責めているわけでも、現状を悲観しているわけでもありません。実際死んでいませんし」
 ミトスは微笑んだ。
「……全部終わったら、ミトス・スイドが生存していたことを公表しよう。九十七期生の悲劇の真実を内密にして、こちらで都合通りのシナリオを作ることになるが……」
「アンドラ王子はもっと偉そうでいいと思いますよ。そのうち心労で倒れます。今の私は自分で望んだ立場です。お気になさらず、ご命令を」
「……ありがとう。呼び止めて悪かった。おやすみ」
「おやすみなさい、王子」
 ミトスはアンドラ王子の部屋を後にする。そしてこっそり、メト王女のバルコニーに降り立つ。窓を指で叩くとすぐに開いた。
「ミ、」
 ミトスがメトの唇に人差し指をあてる。
「お静かに、王女様」
「ごめんなさい、中に入って。寒いでしょう」
 あの日、ミトスが落とした太陽のブローチはメトが拾った。そしてミトスのことを口外しないことを条件にメトは自分に時々でいいから会いにきて欲しいと頼んだ。それからミトスは任務が一区切りするたびに、メトに会いに来た。二人の不思議な関係は一年以上続いた。
「久しぶり、ミトス! 」
「もう少し声を小さく! 人が来ます」
「大丈夫よ! 」
 メトはミトスに会えたことが嬉しくて堪らなかった。メトはミトスに恋をしている自覚があった。ミトスもメトと会えば、顔には出さないが心が弾んだ。それを恋とミトスは認めるわけにはいかなかった。二人はあまりにも立場が違い過ぎた。
「今夜はどれくらいいられる? 」
「十五分ほどです」
「あっという間ね」
 メトは寂しく呟いた。
「当分、アベンチュレいるので会いにこれます」
 メトは花のような笑みで喜んだ。
「嬉しい。ミトスの話聞きたいわ」
「私のことは話せません。あと王子には」
「内緒にしてるわ、大丈夫よ」
 二人は年相応のじゃれ合い的な会話を楽しみ、いつも名残惜しさを抱えて別れた。ミトスは拠点のアパートへと戻る途中公衆電話から電話をかける。
「ウヴァロさんですか?僕です。彼から連絡は?ああ、ありませんか。また電話します」
 受話器を置くと、ミトスは自然に今度はいつの夜にメトに会いに行こうかと考えた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...