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過去編
スイド家の人々と、とりまく未来
しおりを挟む二人は墓地まで行くと、明かりに囲まれ照らされた麦畑を並んで眺めた。コーネスは素直に綺麗だと思った。ミトスは目を輝かせている。そして今度は太陽の下で、二人で見ようとせがんだ。
「コーネスはいつ帰ってくる?」
「え? 」
思わぬことを聞かれコーネスは動揺する。
「来週くらい? 」
そんなすぐに帰らない。もうずっと帰らない。けど嘘を吐いておこうかとコーネスは思ったが、ミトスのまっすぐな瞳にコーネスは心が痛んでしまった。
「もう帰らないよ」
「え? 」
「帰れないんだ」
「まさかスイド家にいたとは。この八年我々を欺かれていたのですね」
コーネスは振り返る。男が立っていた。インデッセの人間だとすぐに分かった。
「女が産まれたらうらがすために、匿われていたか」
コーネスは舌打ちをする。
「うらがえす? 」
ミトスはきょとんとしている。これ以上ミトスに聞かせるわけにはいかなかった。男は指を口にやった。口笛で仲間を呼ぶのだと察したコーネスはその手を掴み阻止しようとする。応援要請をするってことはひとりしかいないらしい。男は顔を歪ませた。
「俺をうらがえすつもりか! 」
無意識だった。コーネスが伸ばした手は左手だった。コーネスは自分で恐ろしくなり思わず引っ込めた。男はその隙にナイフを振りかざした。身体が固まる。
「怖いのですか? ちょうどいい。そのままじっとしてれば楽に死なせてあげますよ」
コーネスは息ができなくなった。
「やめろ! 」
ミトスが駆け出し、男の足にタックルした。男がよろめく。
「ミトス! 逃げろ! 」
コーネスが叫ぶ。男はミトス蹴り飛ばすように投げた。ミトスが地面を転がる。コーネスはかっとなって男に飛び掛かった。男は構わずコーネスにナイフを振りかざし、二の腕を刺す。コーネスは痛みを忘れ、無我夢中だった。そして男の顔に左手を押し付けた。
ひっくりかえれ。
そう念じた。コーネスは止まった時間を体感し、心臓に強い衝撃を感じた。それが治まれば男はコーネスの下で死んでいた。男は十八歳以上。十八歳以上の人間をうらがえそうとすれば、拒絶反応が起こり、うらがえらないままコインは男も女もそれぞれの世界で死ぬ。アタカマにコーネスはそう教えられていた。
殺した。俺が殺した。
コーネスは自分の左手を見つめた。震えが止まらなかった。
「コーネス? 」
ミトスが立ち上がりコーネスのそばに行こうとする。
「来るな! 」
コーネスは怒鳴った。ミトスの肩が跳ねた。コーネスは震える左手を右手で必死に押さえた。もうこれからは優しい人はいない。スイド家の人々のような温かい人は自分にはいなくなる。自分で立ち上がらなくてはいけない。コーネスは深呼吸して、ゆっくりと立ち上がった。
「ミトス」
ミトスはコーネスの横顔をじっと見つめた。
「お前は自由に生きろ。思うが儘に駆け抜けろ。しっかりなんてしなくていい。お前はなにをしたって自由なんだから。運命なんかに縛られるなよ」
コーネスは少しミトスの方を見て笑った。
「帰るんだ! 走って帰れ! 振り向くな! 」
「コーネスは? 」
ミトスの声は怯えていた。
「行けない。お前ひとりで行くんだ。早く、ここは危ない。俺は追われている。もう行かないと。急ぐんだ! 」
ミトスは動こうとしない。自分が動けばミトスも村へ帰る、コーネスはそう思いその場を去る。ミトスから離れて行く。ミトスは呻いた。そして叫ぶ。
「俺、大きくなったらコーネスに会いに行くから! どこにいたって会いに行くから!だから俺のこと忘れないで! 待ってて! 絶対に待っててよ! 」
コーネスは瞳を揺らす。約束はできなかった。ミトスを振り向かない。
ミトスは覚悟を決めると、泣き叫びながら山を転がるように駆け下りていく。コーネスは村からどんどん離れ、気が付くと走っていた。涙が止まらなかった。嗚咽で息が苦しい。顔がぐしゃぐしゃになり、夜風が涙を飛ばす。コーネスはシャツの袖で顔を乱暴に拭った。
「畜生! クソで汚くてろくでなしになったって、生きてやる! 」
もうスイド家には帰れない。ミトスにも会うことはないかもしれない。すべダイオ拭い去ろうとするコーネスの背中を、月明かりはずっと照らしていた。太陽はまだずっと、遠かった。
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