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過去編
百年の恋、もしくは隠された希望
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遊び人といのは、全員で固まって動くのではない。いくつかのグループ、群れがあり、それぞれがそれぞれのルートで国を渡り歩いている。ルリが一緒に旅する遊び人は全員で、十二人だった。これは、自称旅人のエピドーも入れてだ。遊び人は基本的に来る者拒まず、去る者追わず、である。遊び人にならずとも、旅に同行することを許していた。そして、群れの長を女ならば「グーマ」、男ならば「グーパ」と呼ぶ。ルリのところの長は「グーマ」だった。見た目ももう老人に見えたが足腰はしっかりしていて、走る所見た時はさすがのルリも驚いた。
冬になった。戦争が過激を増していく。ルリ達は戦争のため国境を超えるが難しく、グーパはベグテクタで戦争が終わるのを待つことに決めた。ルリ達は戦争が終わるまで、ベグテクタの中をひたすら歩き続ける。ルリは拾った新聞にアベンチュレがオードに付いたのは神を恐れたからだと書かれていたのを読んだ。アベンチュレは神より、オードを恐れたと書いた方が納得できると、自虐的なことをルリは考えてしまった。
「今日はヘマが買い出しに行ってくれて助かったよ」
夕食が終わるとチルルはルリに感謝をした。今日の食事には久しぶりに肉が入った。パンも明日の朝の分までルリは買ってくることができた。
「マントを脱いだら上手に紛れこめただけです」
カーキ色のマントをはおったままではもうどこも食料を売ってくれず、遊び人たちは人目に付く場所ではマントを脱ぐようになった。迫害から身を守るためでもある。
「マントを脱いでも分かってしまうものさ。私みたいな、歳よりは遊び人のにおいがしみついとる。マントを脱いだところじゃ、どうにも隠せん」
グーマは焚火に手をかざしながら笑った。その炎で照らされたグーマの横顔をルリは何とも言えない気持ちで眺めた。
「確かに、ヘマは顔が土に汚れても泥臭さがないね」
チルルも焚火の向こうでルリを褒める。
「そんな。自分では分からないですけど……」
ルリは火に枝をくべながら言葉を濁した。
「けど、あんなに遊び人をないがしろにしなくてもいいのに……」
ルリが零す。遊び人が差別されていることは、ベグテクタの城にいる頃から知っていたが実際に体験するとそれは予想を超えた厳しさだった。
「命を守るために差別する。よく分からないものは避けたいだろう?ある意味差別というのは人間の本能なのだよ」
グーマが優しく語る。それでもルリは思うことがあった。今日も川を流れる兵士の死体を見た。家族のために墓を掘る村人を見た。
「命を守るはずの人たちが、こんなにむごたらしいことをしている。人間の本能なんて都合のいいものだわ」
ルリは苦しそうに吐き出した。
「ヘマ……」
チルルがルリの名を呼んだが、その後に続く言葉が見つからなかった。焚火が夜にパチパチと音を鳴らす。
「命ばかり守っても生きていけないかしらね」
グーマが呟く。そしてルリに尋ねた。
「人間の命の価値はどのくらいだと思う? 」
ルリは黙った。考えることもできなかった。
「ゼロだ」
グーマは言い切った。
「そのゼロに人間は狂う。ゼロだからこそどうしようもない」
「それを言ったらおしまいだろう、グーマ」
チルルが笑う。
「では、そのゼロに狂わないためにはどうすればいいのですか?」
ルリは思わず聞いた。グーマはすぐに教えた。
「愛だな」
ルリが隠すことなくがっかりしてしまった。ルリにとっては月並みの答えだった。グーマはルリの納得いかない表情を横目で見ると微笑んだ。
「愛情は人間が生き残り続ける手段だ」
「そう、ですか……」
ルリの相槌は気のないものだった。グーマは首を振る。
「勘違いしないでおくれ。これは人間愛の話でも、道徳の話でもない。人間個体はね、物理的に強くない。犬みたいに足は速くないし、猫みたいな機敏さもないし、ゴリラみたいな強さもない。だから固まる。アリやハチとおなじ。あれらと人間は一緒。アリとハチとかよりは知恵と技術が発展しているけどね。それが人間のオゴリだ。とにかく人間は、集団でないと生きていけない。けれど知っての通り人間がいっぱいいると面倒だろう? 自分が産んだ子どもにさえイラつくことがあるんだ。けど一緒にいる。それは愛情があるからよ。大事にしたいって思うから。大事にしたいなんて思わなかったら一緒に居たいなんて思わないだろう?生きていこうと思ったら愛情が沸く。だから死にたくなったら愛を求めなさい。それは甘えではけしてないから。人間が生きていこうとする習性だ」
スピネには裏切られ、父親は戦争をしている。ダイアスは遥か空の彼方。
「そんなの、いらないわ」
「いらなくてもそれが人間の習性。骨みたいなもんだ。諦めな。愛情っていうのは重くないから、生きていくのに便利なもんだから。重いのは愛憎だ。それと一緒にしちゃ駄目。さて、そろそろ寝るかね」
グーマは立ち上がる。
「夜に色々難しいことを考えるのはよくなかったねぇ。ヘマ、お前も寝なさい」
グーマに頷くと、アンダがルリを呼びに来た。
「エピドーがお話してくれるって。ヘマも一緒に聞こう」
「ちょうどいいじゃないか。馬鹿な話聞いて、暗いことは今夜だけ忘れな」
チルルに促され、エピドーがいる焚火の方へアンダに連れられてやってきた。エピドーの足元にはコチュンが寝そべっていた。
冬になった。戦争が過激を増していく。ルリ達は戦争のため国境を超えるが難しく、グーパはベグテクタで戦争が終わるのを待つことに決めた。ルリ達は戦争が終わるまで、ベグテクタの中をひたすら歩き続ける。ルリは拾った新聞にアベンチュレがオードに付いたのは神を恐れたからだと書かれていたのを読んだ。アベンチュレは神より、オードを恐れたと書いた方が納得できると、自虐的なことをルリは考えてしまった。
「今日はヘマが買い出しに行ってくれて助かったよ」
夕食が終わるとチルルはルリに感謝をした。今日の食事には久しぶりに肉が入った。パンも明日の朝の分までルリは買ってくることができた。
「マントを脱いだら上手に紛れこめただけです」
カーキ色のマントをはおったままではもうどこも食料を売ってくれず、遊び人たちは人目に付く場所ではマントを脱ぐようになった。迫害から身を守るためでもある。
「マントを脱いでも分かってしまうものさ。私みたいな、歳よりは遊び人のにおいがしみついとる。マントを脱いだところじゃ、どうにも隠せん」
グーマは焚火に手をかざしながら笑った。その炎で照らされたグーマの横顔をルリは何とも言えない気持ちで眺めた。
「確かに、ヘマは顔が土に汚れても泥臭さがないね」
チルルも焚火の向こうでルリを褒める。
「そんな。自分では分からないですけど……」
ルリは火に枝をくべながら言葉を濁した。
「けど、あんなに遊び人をないがしろにしなくてもいいのに……」
ルリが零す。遊び人が差別されていることは、ベグテクタの城にいる頃から知っていたが実際に体験するとそれは予想を超えた厳しさだった。
「命を守るために差別する。よく分からないものは避けたいだろう?ある意味差別というのは人間の本能なのだよ」
グーマが優しく語る。それでもルリは思うことがあった。今日も川を流れる兵士の死体を見た。家族のために墓を掘る村人を見た。
「命を守るはずの人たちが、こんなにむごたらしいことをしている。人間の本能なんて都合のいいものだわ」
ルリは苦しそうに吐き出した。
「ヘマ……」
チルルがルリの名を呼んだが、その後に続く言葉が見つからなかった。焚火が夜にパチパチと音を鳴らす。
「命ばかり守っても生きていけないかしらね」
グーマが呟く。そしてルリに尋ねた。
「人間の命の価値はどのくらいだと思う? 」
ルリは黙った。考えることもできなかった。
「ゼロだ」
グーマは言い切った。
「そのゼロに人間は狂う。ゼロだからこそどうしようもない」
「それを言ったらおしまいだろう、グーマ」
チルルが笑う。
「では、そのゼロに狂わないためにはどうすればいいのですか?」
ルリは思わず聞いた。グーマはすぐに教えた。
「愛だな」
ルリが隠すことなくがっかりしてしまった。ルリにとっては月並みの答えだった。グーマはルリの納得いかない表情を横目で見ると微笑んだ。
「愛情は人間が生き残り続ける手段だ」
「そう、ですか……」
ルリの相槌は気のないものだった。グーマは首を振る。
「勘違いしないでおくれ。これは人間愛の話でも、道徳の話でもない。人間個体はね、物理的に強くない。犬みたいに足は速くないし、猫みたいな機敏さもないし、ゴリラみたいな強さもない。だから固まる。アリやハチとおなじ。あれらと人間は一緒。アリとハチとかよりは知恵と技術が発展しているけどね。それが人間のオゴリだ。とにかく人間は、集団でないと生きていけない。けれど知っての通り人間がいっぱいいると面倒だろう? 自分が産んだ子どもにさえイラつくことがあるんだ。けど一緒にいる。それは愛情があるからよ。大事にしたいって思うから。大事にしたいなんて思わなかったら一緒に居たいなんて思わないだろう?生きていこうと思ったら愛情が沸く。だから死にたくなったら愛を求めなさい。それは甘えではけしてないから。人間が生きていこうとする習性だ」
スピネには裏切られ、父親は戦争をしている。ダイアスは遥か空の彼方。
「そんなの、いらないわ」
「いらなくてもそれが人間の習性。骨みたいなもんだ。諦めな。愛情っていうのは重くないから、生きていくのに便利なもんだから。重いのは愛憎だ。それと一緒にしちゃ駄目。さて、そろそろ寝るかね」
グーマは立ち上がる。
「夜に色々難しいことを考えるのはよくなかったねぇ。ヘマ、お前も寝なさい」
グーマに頷くと、アンダがルリを呼びに来た。
「エピドーがお話してくれるって。ヘマも一緒に聞こう」
「ちょうどいいじゃないか。馬鹿な話聞いて、暗いことは今夜だけ忘れな」
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