166 / 241
過去編
百年の恋、もしくは隠された希望
しおりを挟むベグテクタ。とある町。
「悪いが遊び人にやる食料はないよ! 」
「貰うつもりはありません。買いに来たんです」
カーキ色のマントをはおった女は弁解する。それでも商店の女店主は忌々しいものを見るように女を見た。
「国の為に戦おうとう性根のない輩にやる飯はないんだよ! 」
「そーだ! そーだ! 」
周りにいた町の住人達も騒ぎ立てる。
「お前ら本当に遊び人か? 遊び人のふりをしたアベンチュレの人間か? オードの人間か? 」
「ありえるぞ! 遊び人なんていい隠れ蓑だ! 」
「違う、私は! 」
女はそこまで叫んで、飲み込んだ。私は今、何者だ?
「ヘマ、こうなったらもうダメだ。行こう」
チルルが歩き去る。ヘマもそのあとに続いた。後ろから石を投げられた。
「今日のスープも具が草だけじゃねーか」
夜、遊び人達は町から離れた森の川岸で野営をした。
「よく見な、コチュン。川魚の身もちゃんと入っている。でなければ、この味はでない」
チルルにそう言われてもコチュンは不満そうにスープを眺めた。そして隣にいるアンダの器を覗く。
「おお! お前、大きい身入ってるじゃんか! くれよ! 」
「ええ、そんなぁ」
アンダと呼ばれた少女は半泣きになる。
「なんだよ、俺に逆らうのか? 俺十歳、お前九歳。俺のが年上だから偉いんだ。偉い奴の言うことは聞け」
「じゃあ私、三十六歳。お前より偉い。私の言うことを聞け。人の食べ物をとるな」
チルルは威圧含んだ声で、コチュンの我儘を抑え込む。コチュンがちぇっと言うと不貞腐れながら大人しくなった。ヘマはコチュンの器に魚の身を入れてやった。
「食べて。私食欲ないの! 」
「おお! 食ってやるよ、ヘマ」
「ヘマ、お前はまたそうやって。食べなきゃ持たないぞ。少しは自分の身体のことを考えろ」
チルルが咎める。
「あまり喉が通らなくて……」
「ヘマ、記憶は戻った? 」
アンダはマスタード色のおかっぱを揺らし首を傾けると、心配そうにヘマの顔を除いた。昨日チルルが前髪を切ってやり、眉毛の上まで短くなっているのが愛らしい。チルルは黒髪のショートヘアで、琥珀色の瞳をしていた。ガタイは良く、後ろ姿は男に見える。
「……まだよ」
「けど、名前だけでも覚えててよかったな。忘れてたら俺がもっとカッコイイ名前つけてやったけどな! 」
コチュンは八重歯を見せた。コチュンはライトベージュの髪で、肌は雪のように白かった。コチュンもアンダも孤児で、チルルが拾ったとヘマは聞かされた。
「森で見つけたあんたはボロボロだったからねぇ。靴も履いてなくて。けど服はボロボロだったけどドレスだったし、もしかしたらどっかのお嬢様なんじゃないか? 」
「マジかよ! そしたら俺にたらふく、食わしてくれ! 」
ヘマはそう言うコチュンに笑うしかなかった。
夕食を食べ終え、ヘマは少し皆と離れた木の下に座った。そして夜空を見上げる。
「ダ、」
それだけ零すとあとは飲み込んだ。意識がない中で、ダイアスがいつか名前を呼べ、と言ったのがルリの耳には届いていた。呼びたい。恋しい。けれどできなかった。今、ダイアスは地上に降りて来れば戦機となる。しかしそれを言えば、インデッセは今無敵な戦機がいないのだった。スピネはダイアス頼りで戦争を始めた。ダイアスなしでは、苦戦するのは目に見えていた。インデッセが打ちのめされるのにルリは心が痛まない訳ではない。けれどダイアスを呼ぶ訳にはいかない。この戦争でインデッセもベグテクタも得をすることはない。けれどルリはどうすればいいか分からなかった。
ルリはいつの間にかオードの国境付近にあるベグテクタの川辺で倒れていた。ダイアスが自分を運んだのだと、ルリは気が付いた。倒れていたルリを、遊び人であるチルルが見つけてくれ、助けてくれた。目が覚めた時、チルルに名前を聞かれてルリの口から「ヘマ」と適当な名前がついて出た。昔読んだ絵本の主人公だったことに気が付いたのはしばらく経ってからだ。色々嘘を吐くとボロが出そうだったため、ルリは記憶喪失を偽った。そしてヘマとして遊び人として生きていた。髪も肩より上に切り、後ろに束ねている。先の事を考えるが、どうすべきかは分からなかった。毎夜ヘマは分からないことを夜空を見上げ考えた。
夜空を映した視界に顏がひとつ現れた。
「お隣いいですか? 」
「え、ええ」
男はルリと少し間をあけて、よっこいしょと座った。そしてポケットを漁ると袋を出した。
「どうぞ」
男はそこにパインのドライフルーツを出した。
「いいんですか? 」
「ええ。さっき子ども達にもあげましたから、気兼ねなく食べてくださいレディ」
「ありがとう」
ルリは一口齧る。久しぶりに食べた砂糖じみたそれは、城で食べた豪勢な食事よりもおいしかった。
「おいしい」
「それはよかった」
男は喜んだ。
「あなた、数日前から合流した人よね」
今は夜で、帽子もかぶっていて分かりづらいが、ネイビーの髪色だった。
「私はヘマ。あなた名前は?」
「エピドー・カーネスと申します。これからどうぞよろしく」
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる