【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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過去編

百年の恋、もしくは隠された希望

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 ベグテクタ。とある町。
「悪いが遊び人にやる食料はないよ! 」
「貰うつもりはありません。買いに来たんです」
 カーキ色のマントをはおった女は弁解する。それでも商店の女店主は忌々しいものを見るように女を見た。
「国の為に戦おうとう性根のない輩にやる飯はないんだよ! 」
「そーだ! そーだ! 」
 周りにいた町の住人達も騒ぎ立てる。
「お前ら本当に遊び人か? 遊び人のふりをしたアベンチュレの人間か? オードの人間か? 」
「ありえるぞ! 遊び人なんていい隠れ蓑だ! 」
「違う、私は! 」
 女はそこまで叫んで、飲み込んだ。私は今、何者だ?
「ヘマ、こうなったらもうダメだ。行こう」
 チルルが歩き去る。ヘマもそのあとに続いた。後ろから石を投げられた。
「今日のスープも具が草だけじゃねーか」
 夜、遊び人達は町から離れた森の川岸で野営をした。
「よく見な、コチュン。川魚の身もちゃんと入っている。でなければ、この味はでない」
 チルルにそう言われてもコチュンは不満そうにスープを眺めた。そして隣にいるアンダの器を覗く。
「おお! お前、大きい身入ってるじゃんか! くれよ! 」
「ええ、そんなぁ」
 アンダと呼ばれた少女は半泣きになる。
「なんだよ、俺に逆らうのか? 俺十歳、お前九歳。俺のが年上だから偉いんだ。偉い奴の言うことは聞け」
「じゃあ私、三十六歳。お前より偉い。私の言うことを聞け。人の食べ物をとるな」
 チルルは威圧含んだ声で、コチュンの我儘を抑え込む。コチュンがちぇっと言うと不貞腐れながら大人しくなった。ヘマはコチュンの器に魚の身を入れてやった。
「食べて。私食欲ないの! 」
「おお! 食ってやるよ、ヘマ」
「ヘマ、お前はまたそうやって。食べなきゃ持たないぞ。少しは自分の身体のことを考えろ」
 チルルが咎める。
「あまり喉が通らなくて……」
「ヘマ、記憶は戻った? 」
 アンダはマスタード色のおかっぱを揺らし首を傾けると、心配そうにヘマの顔を除いた。昨日チルルが前髪を切ってやり、眉毛の上まで短くなっているのが愛らしい。チルルは黒髪のショートヘアで、琥珀色の瞳をしていた。ガタイは良く、後ろ姿は男に見える。
「……まだよ」
「けど、名前だけでも覚えててよかったな。忘れてたら俺がもっとカッコイイ名前つけてやったけどな! 」
 コチュンは八重歯を見せた。コチュンはライトベージュの髪で、肌は雪のように白かった。コチュンもアンダも孤児で、チルルが拾ったとヘマは聞かされた。
「森で見つけたあんたはボロボロだったからねぇ。靴も履いてなくて。けど服はボロボロだったけどドレスだったし、もしかしたらどっかのお嬢様なんじゃないか? 」
「マジかよ! そしたら俺にたらふく、食わしてくれ! 」
 ヘマはそう言うコチュンに笑うしかなかった。
 夕食を食べ終え、ヘマは少し皆と離れた木の下に座った。そして夜空を見上げる。
「ダ、」
 それだけ零すとあとは飲み込んだ。意識がない中で、ダイアスがいつか名前を呼べ、と言ったのがルリの耳には届いていた。呼びたい。恋しい。けれどできなかった。今、ダイアスは地上に降りて来れば戦機となる。しかしそれを言えば、インデッセは今無敵な戦機がいないのだった。スピネはダイアス頼りで戦争を始めた。ダイアスなしでは、苦戦するのは目に見えていた。インデッセが打ちのめされるのにルリは心が痛まない訳ではない。けれどダイアスを呼ぶ訳にはいかない。この戦争でインデッセもベグテクタも得をすることはない。けれどルリはどうすればいいか分からなかった。
 ルリはいつの間にかオードの国境付近にあるベグテクタの川辺で倒れていた。ダイアスが自分を運んだのだと、ルリは気が付いた。倒れていたルリを、遊び人であるチルルが見つけてくれ、助けてくれた。目が覚めた時、チルルに名前を聞かれてルリの口から「ヘマ」と適当な名前がついて出た。昔読んだ絵本の主人公だったことに気が付いたのはしばらく経ってからだ。色々嘘を吐くとボロが出そうだったため、ルリは記憶喪失を偽った。そしてヘマとして遊び人として生きていた。髪も肩より上に切り、後ろに束ねている。先の事を考えるが、どうすべきかは分からなかった。毎夜ヘマは分からないことを夜空を見上げ考えた。
 夜空を映した視界に顏がひとつ現れた。
「お隣いいですか? 」
「え、ええ」
 男はルリと少し間をあけて、よっこいしょと座った。そしてポケットを漁ると袋を出した。
「どうぞ」
 男はそこにパインのドライフルーツを出した。
「いいんですか? 」
「ええ。さっき子ども達にもあげましたから、気兼ねなく食べてくださいレディ」
「ありがとう」
 ルリは一口齧る。久しぶりに食べた砂糖じみたそれは、城で食べた豪勢な食事よりもおいしかった。
「おいしい」
「それはよかった」
 男は喜んだ。
「あなた、数日前から合流した人よね」
 今は夜で、帽子もかぶっていて分かりづらいが、ネイビーの髪色だった。
「私はヘマ。あなた名前は?」
「エピドー・カーネスと申します。これからどうぞよろしく」
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