【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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過去編

百年の恋、もしくは隠された希望

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「ささやきでいい。名前を呼んでくれたら、空から飛んでくる。どこに行ったって、飛んで来るから」


 ベグテクタ城の廊下を歩くベグテクタ王であり、父であるオブシディを見つけたカルサは走りながら父を呼び止めた。息子の声にオブシディは足を止めない。カルサは父の横に張り付き歩くと説得した。
「父上、早まってはなりません。今回のオードの大火とベグテクタは無関係だと主張するのです。このままではベグテクタもオードに宣戦布告をしたことになります。しかも、神を使っての不意打ちである非道この上ない宣戦布告。インデッセとは今、距離を置くべきです。このままでは戦争になります」
 カルサが血相変えてまくしたてる。
「それでよい。いづれ、オードとは戦わねばならなんだ。遅すぎたぐらいだ。それにインデッセとは無関係だとほざけばそれこそ不義理な国だと思われる。リチはベグテクタの未来のために犠牲になってくれたのだぞ」
「姉上はそんな愚かな王妃ではない! 」
 カルサは立場など忘れ王に怒鳴った。カルサは姉からの手紙でダイアスのことを知っていた。姉はダイアスが神になったことを内心嫌がっていた。そしてなにより、ルリが書く文章からはダイアスへの愛情が手に取るように伝わってきた。それなのにダイアスに自分を殺させるような無残なことを姉がするはずがないと、カルサは確信していた。インデッセの王の陰謀であることも。
「冷静になってください。ベグテクタは今、濡れ衣を着ています。これはすぐに拭わなければ、のちのちベグテクタの名誉に影響してきます。それに戦争は人の血を安くするだけです。故に国が安くなるだけです」
 オブシディはやっと立ち止まりカルサを一瞥した。
「もうことは転がり始めた。お前には止められない。私にもな」
 オブシディは再び歩き出す。カルサは唇を噛み締める。
王の背中に叫んだ。
「戦争が止められるのは権力があるものだけです! 」
 オブシディはまっすぐ歩いていく。しっかりと足音をたてて、立ち止まることも振り返ることもしなかった。カルサは悔しさがこみ上げる。そして背を向けると父とは逆の方へ歩き出した。

 アベンチュレ王執務室。カイアは窓の傍に立っていた。
「インデッセとベグテクタがオード相手に戦争をするか。もっと辛抱してくれたらよかったんだけどねぇ」
「アベンチュレはいかがするのですか? 」
 ランショが国の未来を王に尋ねる。
「オードから共闘の要請があった。受ければうちは挟み撃ちに合うね」
「では、インデッセとベグテクタと共にオードを引きずり下ろすのもよいのでは? 」
 カイアは喉を鳴らす。
「言うね、君も」
 ランショは真顔のままカイアの答えを待った。カイアは言った。
「オードにつく」
 カイアはデスクに座ると、上質紙にペンを走らせた。
「もしアベンチュレがインデッセの方へつけば、オードに勝てるかも、しれない。三対一でも『かも』だ。やっと対等になれる。しかしそれでは戦争が長引く。それにもしオードが負ければ、オードは第二のインデッセ、劣等感に沈むだろう。オードのやっかいなところは資源を持っていることだ。ひねくれられてヤケクソ起こされたら先々やっかいだろう? 国がひとつなくなってしまうかもしれない。インデッセとベグテクタは蓄積された負の感情に走らされている。二つを遮断するための要塞にアベンチュレはなる」
「もう少し、どっちつかずで様子を見るのもよいのでは? 」
「それはいけないよ、ランショ。意思をはっきりさせないと敵の意図は知ることができない。意図を知れればなるべく戦闘を避けて、有利な情勢が作り出せる可能性が上がる。オードに兵の要請をする。あそこはうちの五倍いるからな。アベンチュレで働いてもらう兵の指揮権はアベンチュレに貰おう。オード王はむちゃくちゃにしそうだからな」
 便箋のインクを乾かし、封筒に入れると封をした。
「戦争が始まれば民は戦争の為に生きなければならない。戦争に奉仕することになる。だから戦いがこう着すれば、その負担で民は壊れる」
 カイアは手紙を太陽の光に透かす。
「始まったもんは仕方ない。さっさと終わらせるぞ」

 オードではダイアスにより焼野原になったパズートの復旧作業と兵をかき集めていた。故郷を炭にされ怒る若者は多く、兵の志願者は日に日に増えた。
「自分達が犠牲者だと思えるときその国民は戦争をすることを正義と思う。抹消したいものを悪にする。絶対悪をつくることであらゆることが許される。それが戦争だ」
 オード城も半壊し、城人間達は仮設を造り避難していた。ネプチュナはテントの下で酒を煽る。兵の一人が王へ報告にやってき、ネプチュナの前に膝を付く。
「どうだった? 」
 ネプチュナは兵に目をやらず、グラスに酒を注ぐ。
「はっ。城の焼け跡を捜しましたが、ルリ王妃と見られる遺体は見つけられませんでした。焼死体は身元を割るのがほぼ不可能かと……」
「そうか。見つからなかったならそれでいい。死んだんだろう。あの大火であの兄に見捨てられた憐れな妹君も死んだことにしろ」
「ラズ王女もですか? 」
「勘違いするな。本当に殺すのでない。大事に大事に幽閉しろ。戦争が終わった時、無事にインデッセに返してやればオードは英雄さ。その時の為にとっておく」
 ネプチュナの頭にオードが負けるという考えは無であった。
「しかしあのダイアスという神はやっかいだね。インデッセはこの先あれをまだ使えるというのなら、考えなければな」
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