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過去編
百年の恋、もしくは隠された希望
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百年と十数年前。アルマ・インデッセ城。
「ルリ様。ルリ様、どこにおられますか? 」
メイドのジルが赤に白、青に紫に黄色、鮮やかに揺れる花で満たされた中庭でルリを探した。ルリは詩集から顔を上げるとあずまやから顔を出す。
「ジル? 」
「ルリ様! 」
ジルは大きな声で呼ぶとあずルリに続く石畳を走り、中へ飛び込んだ。
「ルリ様、お部屋を出る時は一声おかけください。心配するではありませんか」
ジルは心配を込めて怒った。
「だってジルいなかったでしょう」
「メイド長に呼ばれ、お話をしていたのです。他のメイドの者におっしゃってくだされば」
「インデッセの人は信用できないわ」
ルリはインデッセの城での環境に飽き飽きしているのを隠すこともしなかった。ジルはベグテクタから唯一ルリに付いてきたメイドで、ルリが唯一インデッセ城で心を許している人間だった。ジルはルリの発言に冷や汗をかき、用心深く辺りを見渡す。人影はなく、花と木々があるだけだった。ルリに詰め寄るとジルは潜めた声で主を咎めた。
「ルリ様、そのようなことを口にするものではありません。王子はあなたさまに仕事のできる真面目な世話係を選んでくださっております。スピネ王子はルリ様が思うほど冷たいお人でありませんよ」
「そのルリ様っていうのもクソだわ! 私の名前は、リチのはずなのに。死んだお母様が付けてくださった大好きな名前だったのに」
ルリの口から「クソ」という王族にあるまじき言葉が出て、ジルは絶句しあまりのショックにふらついた。
「ジル大丈夫? 」
ルリが詩集を閉じて心配をした。
「危うく気絶しかけましたわ。それにしてもそんな、クソなんてお言葉、」
ジルは慣れない下品な言葉に、口が腐ってしまうのではないかと思う程の不快を感じた。
「そんなお下品な言葉をどこでお覚えになられてしまったのですか? 」
「カルサからの手紙よ。最近お忍びで街へおりているんですって。そこで庶民の言葉を覚えているのよ」
カルサとはルリのひとつ下の弟でベグテクタの第一王子である。周りには気弱な王子として将来を心配されているが、ルリは懐の深い感情を持つ弟を誇りに思っていた。ルリの父親であるオブシディよりも立派な王になると確信していた。けれど周りはそんな確信を持っている人間はほぼいなかった。
「すぐに手紙を書いて、カルサ王子のそのご趣味をやめさせるように伝えなければなりませんね」
「あら、そうかしら? 庶民の生活を肌で知ることは国の王にとってはとても大事なことだと私は思うわ」
ルリは太陽の光を滑らすほどの美しい黒髪を揺らし微笑んだ。その笑みはルリの幼さを垣間見えた。ルリにとってインデッセの城での生活は緊張の続く毎日であった。ジルもそれは分かっていた。十四歳の子に国の関係の橋渡しという重荷がある。その重荷が一生このインデッセの地で続くのであった。
ルリは十三歳でインデッセの王子であるスピネの元に嫁いだ。スピネは当時十九歳であった。インデッセは元々移住民によってできた国であった。移民の多くは貧困層で、生きていく新しい場所を求めた者ばかりだった。インデッセは冬が長く、土地の開拓もまだ不十分であり食糧難が続いた。貧困が続くインデッセに最初に食物の輸出を申し出たのはオードであった。オードは自分の国にインデッセに移住した者たちが難民としてオードに戻ってくるのを危惧したのだ。インデッセとオードは端同士で土地では離れていたが、弓なりの形をした島のお陰で海路で行けば時間を短縮できた。外交をしなければ孤立してしまうため、インデッセはこの話を受けた。だが、オードは食物を通常の三倍以上でインデッセに輸出をした。それにインデッセは反発したが、オードが安くするならこの貿易を白紙に戻すと言い付けた。その頃、インデッセの隣国のカサヌも小麦が不作、流行り病もあり他国に分け与えるほどの食料を蓄えてはいなかった。飢餓が増えれば治安が悪くなる。その時すでにその傾向が見られており、インデッセの王トテールはこの不平等を受け入れた。
不平等貿易を押し付けたオードは、隣国であるベグテクタと鉱山の権利について揉めていた。ベグテクタが先に銀の鉱山を見つけ、掘り進めていた。するとオードが国境を越えているとベグテクタに抗議した。そのため産出した銀を三分の一寄こすように言った。ベグテクタは鉱山掘る費用はすべてベグテクタ持ちであることを理由に三分の一は取り過ぎだと抗議を返した。そしてオードの国境を越えないように対策をすることを理由にこの決裂を終わらそうとしが、オードは難色を示した。オードは当時四国の中で一番力を持ち、強欲であった。オードとベグテクタは互いに睨み合うことが続いた。その現状を知ったインデッセのトテール王が、息子の嫁にベグテクタの姫をとベグテクタのオブシディ王に話を送った。この婚約の目的は同盟を結んでおこうということであった。オブシディは考えたが将来戦争になったとき、インデッセと手を結んでおけばインデッセが海から、ベグテクタが陸から攻めることができる。無下にするよりかはいいと、娘のティーをインデッセへと嫁がせた。そしてリチは十三歳という幼さでスピネと結婚し、ルリとなった。ルリとスピネは戦争に備えて結婚したのだった。
「ルリ様。ルリ様、どこにおられますか? 」
メイドのジルが赤に白、青に紫に黄色、鮮やかに揺れる花で満たされた中庭でルリを探した。ルリは詩集から顔を上げるとあずまやから顔を出す。
「ジル? 」
「ルリ様! 」
ジルは大きな声で呼ぶとあずルリに続く石畳を走り、中へ飛び込んだ。
「ルリ様、お部屋を出る時は一声おかけください。心配するではありませんか」
ジルは心配を込めて怒った。
「だってジルいなかったでしょう」
「メイド長に呼ばれ、お話をしていたのです。他のメイドの者におっしゃってくだされば」
「インデッセの人は信用できないわ」
ルリはインデッセの城での環境に飽き飽きしているのを隠すこともしなかった。ジルはベグテクタから唯一ルリに付いてきたメイドで、ルリが唯一インデッセ城で心を許している人間だった。ジルはルリの発言に冷や汗をかき、用心深く辺りを見渡す。人影はなく、花と木々があるだけだった。ルリに詰め寄るとジルは潜めた声で主を咎めた。
「ルリ様、そのようなことを口にするものではありません。王子はあなたさまに仕事のできる真面目な世話係を選んでくださっております。スピネ王子はルリ様が思うほど冷たいお人でありませんよ」
「そのルリ様っていうのもクソだわ! 私の名前は、リチのはずなのに。死んだお母様が付けてくださった大好きな名前だったのに」
ルリの口から「クソ」という王族にあるまじき言葉が出て、ジルは絶句しあまりのショックにふらついた。
「ジル大丈夫? 」
ルリが詩集を閉じて心配をした。
「危うく気絶しかけましたわ。それにしてもそんな、クソなんてお言葉、」
ジルは慣れない下品な言葉に、口が腐ってしまうのではないかと思う程の不快を感じた。
「そんなお下品な言葉をどこでお覚えになられてしまったのですか? 」
「カルサからの手紙よ。最近お忍びで街へおりているんですって。そこで庶民の言葉を覚えているのよ」
カルサとはルリのひとつ下の弟でベグテクタの第一王子である。周りには気弱な王子として将来を心配されているが、ルリは懐の深い感情を持つ弟を誇りに思っていた。ルリの父親であるオブシディよりも立派な王になると確信していた。けれど周りはそんな確信を持っている人間はほぼいなかった。
「すぐに手紙を書いて、カルサ王子のそのご趣味をやめさせるように伝えなければなりませんね」
「あら、そうかしら? 庶民の生活を肌で知ることは国の王にとってはとても大事なことだと私は思うわ」
ルリは太陽の光を滑らすほどの美しい黒髪を揺らし微笑んだ。その笑みはルリの幼さを垣間見えた。ルリにとってインデッセの城での生活は緊張の続く毎日であった。ジルもそれは分かっていた。十四歳の子に国の関係の橋渡しという重荷がある。その重荷が一生このインデッセの地で続くのであった。
ルリは十三歳でインデッセの王子であるスピネの元に嫁いだ。スピネは当時十九歳であった。インデッセは元々移住民によってできた国であった。移民の多くは貧困層で、生きていく新しい場所を求めた者ばかりだった。インデッセは冬が長く、土地の開拓もまだ不十分であり食糧難が続いた。貧困が続くインデッセに最初に食物の輸出を申し出たのはオードであった。オードは自分の国にインデッセに移住した者たちが難民としてオードに戻ってくるのを危惧したのだ。インデッセとオードは端同士で土地では離れていたが、弓なりの形をした島のお陰で海路で行けば時間を短縮できた。外交をしなければ孤立してしまうため、インデッセはこの話を受けた。だが、オードは食物を通常の三倍以上でインデッセに輸出をした。それにインデッセは反発したが、オードが安くするならこの貿易を白紙に戻すと言い付けた。その頃、インデッセの隣国のカサヌも小麦が不作、流行り病もあり他国に分け与えるほどの食料を蓄えてはいなかった。飢餓が増えれば治安が悪くなる。その時すでにその傾向が見られており、インデッセの王トテールはこの不平等を受け入れた。
不平等貿易を押し付けたオードは、隣国であるベグテクタと鉱山の権利について揉めていた。ベグテクタが先に銀の鉱山を見つけ、掘り進めていた。するとオードが国境を越えているとベグテクタに抗議した。そのため産出した銀を三分の一寄こすように言った。ベグテクタは鉱山掘る費用はすべてベグテクタ持ちであることを理由に三分の一は取り過ぎだと抗議を返した。そしてオードの国境を越えないように対策をすることを理由にこの決裂を終わらそうとしが、オードは難色を示した。オードは当時四国の中で一番力を持ち、強欲であった。オードとベグテクタは互いに睨み合うことが続いた。その現状を知ったインデッセのトテール王が、息子の嫁にベグテクタの姫をとベグテクタのオブシディ王に話を送った。この婚約の目的は同盟を結んでおこうということであった。オブシディは考えたが将来戦争になったとき、インデッセと手を結んでおけばインデッセが海から、ベグテクタが陸から攻めることができる。無下にするよりかはいいと、娘のティーをインデッセへと嫁がせた。そしてリチは十三歳という幼さでスピネと結婚し、ルリとなった。ルリとスピネは戦争に備えて結婚したのだった。
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