【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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逃亡編

引き金

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「あ!ラリマ!」
 途中リゴと会った。手を振りながらかけてくる。
「久しぶり。八局棟に行くのか?」
「ああ。ルスカルト、はこんな所でどうしたんだい? 」
 リゴは手に持っていた袋を見せた。
「パンをカンダへの差し入れに持ってきたんだけど、健康診断で食べられないんだってね」
「そうだよ」
「病院の車もう来てたしね」
「え? もう? 」
 病院からの迎えは二時からのはずだった。ラリマは自分の勘違いを疑ったが何度も確かめたから自信はあった。手配したのも自分だ。
「くっしゅん! 」
 リゴがくしゃみをするのに口に手をあてた。
「風邪かい? 」
「いや、そんな事ないと思うけど」
 リゴはまた手を口にあててくしゃみをした。その仕草を見てラリマはインデッセへ他国研修に行った時の事を思い出した。そして今朝の事を思い出す。仕草が違う。そして時間のミス。そしてさっきアザムが言った「よその危ない奴」その前に潜りこんだ危ない奴と。その「よそ」がインデッセだったら。
「ラリマ? どうかした? 」
「いや、僕急がないと。じゃあな」
 あの人は嘘を吐いている。その理由を聞かなければならない。ラリマは今までにない以上の勢いで走った。


「十三歳で結婚したのかよ! 」
本を読みルリ姫は十三歳で結婚して、リチからルリになったと書いてあった。
「犯罪かよ……」
 シズ時計を見る。一時まであと十分。まだ一時間ある。朝御飯のあと歯磨きしたけどもう一回した方がいいだろうか。テーブルの上にあったセドニに貰った鏡を取ると歯を見る。綺麗だからうがいだけでいっか。目線が歯から唇に移る。カザンの事を必然的に思い出す。ああいう事をするって事は、自分の事をそういう目で見てるのかとシズは考える。
「そうなのか? 」
 シズは自問自答する。そうだろうと答えを出す。
「マジかよ。どうしよう」
 どうしようもないな、とシズの心は言う。
「だよな」
 心の中の自分と不毛な会話をシズがしているとドアがノックされた。
「はい」
 咄嗟に鏡をズボンのポケットの中にしまった。ドアが開く。シラーが入って来る。
「カンダ。健康診断だ」
「え? 二時からじゃ」
「手違いがあって一時間早かったんだ。悪いな」
「いや、いいですけど」
 歯磨く時間なかったなと思いながら、シズが立ち上がると、またドアが開いた。ラリマだった。息切れをしている。
「健康診断の時間違ったんだってな。お前もこういう凡ミスするんだな」
 ラリマは息切れしたままシラーを睨んだ。
「そうですか。じゃあ僕が連れて行きます」
 ラリマは土足のまま上がると、シズの腕を掴み、連れて行こうとした。するとシラーがドアの前に立った。シズは訳が分からなかったが、何か普通じゃない空気が部屋に漂っていた。ラリマのシズを掴む力が強くなる。
「どうしたんだよ」
 シズがラリマに聞く。
「健康診断の迎えは二時で合っていますよね、シラーさん」
 シラーは黙って見ている。
「一時間も早く来てカンダをどこに連れて行くつもりだったんですか? 」
「病院だよ」
 シラーは答えた。冷たい声だった。ラリマの手が震えていた。
「あなたは緊張したり照れたりすると首の後ろを触る癖があるそうですね。言われたらそうかもしれません」
 なんの話だとシズは身構える。
「他国研修の時にシラーさん、インデッセの王のまであなたは緊張しているように見えました。その時あなたは鼻を掻きました。けどそれはフリだったんじゃないですか?」
 シラーは眉を動かし聞く。
「あれはインデッセの人間が王に対する時の挨拶だったんじゃないんですか? 挨拶をする前に口の前に手をあてるあの仕草。その仕草を鼻を掻くフリをしてしたんでしょう? そこまでしてあの仕草をしたかったって事は、あなたが相当な忠誠心をインデッセの王に持っている。それにあなたは寒さに強い。インデッセで育ったせいかもしれない」
「それで? 」
 シラーが問い返す。
「……さっき九局の人間からうちに危ないよそ者が潜り込んでいると聞きました。僕はシラーさんが怪しいと思います」
 シズはシラーを見る。表情が変わらない。弁解しない。クロだとシズは判断する。シズは口元をラリマの頭で隠し囁いた。
「私があいつを押さえる。そしたらドアを開けろ」
 ラリマが微かに頭を動かす。
「まさかラリマに見破られるとはね」
 シラーはあっさり白状した。シズがカウントを囁く。
「3」
「けどラリマ。お前は素直ないい子過ぎる」
「2」
「駆け引きが下手くそだ」
「1」と、シズが言った瞬間が何かがはじけた音がした。シズはシラーを見る。手に銃を持っていた。シズはラリマを振り返る。いない。下を見る。ラリマが倒れている。胸から血が出ている。
「マッシュ! 」
 シズは肩から腕を通し上体を起こさせる。動かない。
「マッシュ! 」
「もう一回撃ったら確実に死ぬぞ」
 シラーは銃口をラリマに向けたままだった。銃だ。カルセドニー工場の銃だった。
「このままだったらもしかしたら助かるかもしれない」
 シズの頭にウェルネルの泣き顔が浮かぶ。これ以上撃たせては駄目だと、シズはシラーを睨み上げながらポケットの中に手を入れ、出す。
「本当か? 」
「お前が俺について来るなら」
「…絶対にラリマを殺すなよ」
「早くしろ。俺の気が変わらないうちに」
「分かった」
「黙って俺に付いてきて黙って車に乗るんだ。途中で悪さしたら大事な同期は死ぬぞ」
「……分かった」
 ラリマの背中に滑り込ませ、ゆっくりと寝かせた。そして立ち上がる。
「安心しろ。一人じゃない」
「は? 」
「後でのお楽しみだ」
 シズはだいたい分かった。振り返り唇を噛みしめる。死ぬなよラリマ。そう願いながら、シズは部屋を出た。

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