【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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逃亡編

ラリマの探求心

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「健康診断? 」
 シズがアベンチュレに帰って来た次の日、ラリマが朝ご飯を持ってシズの元へ来た。
「カンダは脱走してどこに行ったか分からないからな。何か菌を持ち込んでないか病院で検査するんだ」
「なるほど」
 シズは頷く。
「午後二時に病院の車が迎えに来る。まあ僕が迎えに来るから歯磨きちゃんとしときたまえ」
「ご飯食べていいの? 」
「軽い検査だから大丈夫だ。けど昼食はなしだ。あとこれ頼まれていたものだ」
「おお! サンキュ! 」
 ラリマから十二年戦争に関する本を貰う。昨日シラーに頼んでいた。
「バカでも分かる本だ。教科書よりも優しい本だ」
「そりゃどーも」
 シズは本のページをめくる。
「マッシュ」
「マーシー・ラリマだ。他にまだ何かいるのか? 」
「違う。迷惑かけて悪かったな」
「本当にな」
 ラリマは即答だった。
「脱走したくせにこんな良い部屋貰ってさ」
「え、良い部屋なの? ここ」
 シズが周りを見る。
「お偉いさんが入る拘束室だ。ここ遠いのだよ。離れていて今この階は人が入っていないし、極楽部屋だろう? 」
「そうでもないけどな」
 拘束室はしょせん拘束室だとシズは思う。
「この贅沢女が !君は特別扱い過ぎる! 三点のくせに! 」
「久々に聞いたな、三点。お前学生時代引きずるタイプか? 」
「君のそういう所凄く嫌いだよ」
「ごめんね」



 ラリマはカンダの拘束室を出ると国民局五階にある八局フロアに戻った。
「シラーさん、口に何か付いていますよ」
 入り口すぐで、シラーが女性八局員に呼び止められていた。
「え? 」
 シラーは口の右側を触る。
「反対です」
 シラーは左側を触り、指に付いたものを見た。
「ああ、さっき食べたチョコレートだな」
 シラーは照れたように笑い首の後ろを触りながら笑った。そしてラリマに気が付いた。
「おお、ラリマごめん邪魔だったか? 」
「いや。シラーさんどこか行くんですか? 」
「ちょっとトイレに。一応口元洗ってくるよ」
 シラーは八局フロアを出て行く。
「シラーさんって緊張したり照れる時、首の後ろを触るよね」
「そうなんですか? 」
 カザンは知らなかった。
「可愛いよね」
 ああいうのが可愛いのかとラリマは真面目に考えていた。
「ラリマ! 」
 シプリン局長がラリマの方にやって来る。
「少し話がある。着いてきなさい」
「は、はい!」
 ラリマはシプリンについていき別室に入る。するとすぐに資料を渡された。
「これは? 」
 尋ねながら、ラリマ受け取る。
「昨日私がまとめたものだ。あり得ない話だが、ダルコ氏達の証言と合わせると裏は取れている。この事を知っているのは八局では私とシラーだけだ。四局はハクエンとセッシサン、あとはオドー班とカラミン班が知っている」
 シプリンは舌打ちをした。カラミンの名前を口にするのも嫌だった。
「お前にも話しておいた方がいいと思ってな。読んでおいて。読み終わったら、私に返して」
 シプリンが出て行ったあと、ラリマは調書を読んだ。はっきり言って「コイン」の話はファンタジーのようだった。けれどシプリンが真面目に言っているのだからファンタジーでは終わらせられないのであろう。二度読み返し、ラリマはシプリンに書類を返した。
「どう思った? 」
「正直、よく分かりません」
「だろうな」
 シプリンは笑った。
「ラリマ」
「はい」
「カンダの事気に掛けてやっておいてくれ。同期の方が話やすいだろう」
「……はい」
 悪態はつくが、それが話しやすさに繋がるかどうかは微妙だな、とラリマは思った。トイレに行くのに廊下へ出る。すると同じ階にある七局フロアからプライト七局長が出てきた。すれ違いざま礼をする。プライトは手を上げて応える。そのままラリマはトイレに行きまた個室に籠った。そして前にライターを握ったペルセ・プライトを思い出す。あのエレベーターからカルカ副局長が降りてきた。プライトの横顔はラリマから見ても焦っていた。蝋燭が王子。ライターがプライト。マッチは。
 昼になりラリマはフーメンを食べ、食堂を出ると階段を上るカザンを見つけた。
「カザン! 」
 カザンは立ち止まり、振り返る。
「ラリマ君。なんですか? 」
「ちょっと聞きたいんだが。カンダについて」
「カンダさん? 」
「今朝シプリン局長に聞いた。コインの事……」
 カザンが周りを見る。
「もう少し上に行って話しましょう」
 そのまま上がり踊り場で立ち止まった。
「コインの何が聞きたいんですか?」
「あれは、事実なのか? 」
「さあ。正直分かりません。けど、カーネスは自ら証言していますし、サウザン氏も証言しています」
「それを仮定したらカンダもコインなんだよな?」
「ええ」
「じゃあカンダのコインは誰だ?もしかしてあの学生の時に九十七期生の写真に写っていたカンダのそっくりか? 」
「……それ知っていたんですね」
「カンダが馬鹿騒ぎしていたからね。そいつの名前は? 」
「……カンダさんに聞いてください」
「その言い方だとカザン名前知ってるんだ? 」
 二人は声のした方を振り向くとアザムがいた。カザンは顔を苦くする。
「確かカザンのお兄さん九十七期生だったよね?」
「それが? 」
「何か知っているのかなって? 」
「さあ。けど僕も四局なのでそれなりに調べているって事です。じゃあ」
 カザンが離れる。ラリマも迷ってそれに着いて行く
「あまりこの件について局内で喋るな」
 カザンの背中に向かって言う。そしてアザムはラリマにも言うように横目で見た。
「局内にも潜り込んだ危ない奴がいるかもしれないからな」
「……危ない奴とは? 」
 カザンが聞く。
「よその危ない奴がね」
 アザムは小さく呟いた。
「え? 」
 カザンには聞こえなかった。だが、ラリマには聞こえた。
「危ない奴は危ない奴だよ。不用心はよくないよ」
 アザムは階段を上り、二人を追い越していった。よその危ない奴。もしかしてそれがマッチの事だろうかとラリマは考えた。そして一階でカザンと別れるとカンダに会うのに八局棟に行く事にした。
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