【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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逃亡編

できる限り幸せ

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「え? 」
 バリミアがセドニを見る。
「オードにいる事はカンダにとっては逃げ続ける事です。あなたがカンダをオードに連れて来た時、本人は逃げたくて仕方なかったのだと思います。逃げたからこそ、冷静になれた。この逃亡は意味があった。それは上司として感謝しています」
 セドニは頭を下げる。バリミアは驚きその姿を思わずじっと見つめた。 
「顔を上げてください」
 セドニは王女に言われゆっくり頭を上げた。
「そう。戻るのね。戻りたいと思えた時に戻れるのは幸福よ。けど皮肉ね。私が助けたい人は皆離れていくわ」
 メト王女の脳裏に別れを告げるミトスの顔が浮かぶ。
「あなたシズを守ると言ったそうですね」
 セドニはバリミアを見る。バリミアはどこ吹く風で微笑んだ。
「シズは私がこの世で一番愛した人から託された人間です。彼女に何かあれば、私はあなたを殺しますよ」
 メト王女の口元は微笑んでいたが眼は鋭くセドニを捕えた。セドニは捕えられたまま言った。
「私が彼女をできるだけ幸福にさせます」
 メト王女は吹き出した。
「まるでプロポーズね。ねぇ、バリミア? 」
「そうとしか聞こえませんでした」
 バリミアは口に手をあてる。
「いや、そういう意味では……」
 セドニは顔を苦くする。
「ふふ。まあいいわ。あなたに任せます。兄の事もどうなるか分かりませんが、なるようになるでしょう。待ちますわ」
 和やかな口調には確かな覚悟があった。
「アイド。この焼き菓子を少し詰めてセドニさんに持たせて。シズへのお土産です」
「分かりました」
 セドニはクッキーを手土産に邸宅を出た。そして雑貨屋の前を通った時にあることを思い出して買い物をして帰った。



 夕方。シズはアンに台所を借りてオヤコドンを作った。二人に食べさせると美味しいと言ってくれ、シズはレシピを書いてキッチンの壁に張って置いた。鍋にはまだ二人分残っている。
「じゃあ鍋と器借りていく。夜には返しにきます」
「急がなくていいからね」
 アンに言われて、シズはとりあえず鍋だけ持って部屋に戻った。するとセドニはもう帰ってきていた。
「戻ってきてたんですね」
「少し前にな」
「あ、じゃあご飯作ったから。白飯と器持ってきます」
「隣の人が作ったのか? 」
「いや、私です」
 セドニは疑いの眼差しを向ける。
「いや、美味しいですから」
 白飯をそそいだ器も持ってきて、シズはオヤコドンを完成させる。トランクをテーブル代わりにする。セドニは木製のスプーンで一口食べた
「うまいな」
「本気だっただろう? 」
「上司への口の効き方そろそろ直せ」
「はいはい。それでバリミア達はどうでした?」
「どうでした、というのは? 」
「それは、あの、元気でした? 」
「元気だった」
「私が帰るっていうの怒ってました? 」
 逃がして貰って帰ると言うのだ。シズは絶交されるのも覚悟していた。
「心配はしていたが、怒ってはいなかった」
「そう、ですか」
 シズがオヤコドンを一口食べる。
「初めてお前に会った時」
 セドニが一年前の話を始めた。
「お前は俺に聞いたな。お前の顔を知っているのかと」
「聞きました」
「俺は知らんと言った」
「言いました」
「あれは嘘だった」
「……それはなんとなく分かってました」
 シズは言った。
「そうか」
目の前の上司はなぜか笑った。
「ミトス・スイドを知っていたんですか? 」
「名前は最近九局から聞いた。お前が九局に話したんだろう?」
 尋問の時に言った。
「お前に会う半年より少し前に、お前とそっくりな女を見た」
「女?」
「ミトス・スイドが女装をしていたんだろう」
「なんで?」
「そこまでは分からん。けどそいつを怪しく思った俺は調べた。それでもしかしたらスパイではないかと疑った。それで九局に情報を渡した」
「セドニ副局長は、九局と手を組んでいたって事ですか? 」
「その言い方は気に入らないが、そういう事だな」
「へぇ」
 シズはオヤコドンを食べる。全て食べきると洗って、アンに返しに行った。戻るとセドニが消えていた。ベッドに座りしばし待つと帰ってきた。手にはカップを二つ持っていた。
「温かい茶を買ってきた」
 ひとつ私にくれた。
「どうも。隣どうぞ」
 セドニは隣に腰掛けた。
「さっきの話の続きをしてもいいか? 」
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