【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
139 / 241
逃亡編

絶望はさがさない

しおりを挟む
「ルー! ルー! いるか! 」
 トムソンだった。シズは急いでドアを開ける。
「おっさん、どう、」
「お前、大丈夫か! 」
 言い切る前にトムソンはシズの肩を掴んだ。
「え? 」
「橋の所歩いていたら飲み屋の馴染みが昨日俺と歩いていた奴が橋から飛び降りたって!髪の毛爆発していた男前って言うからお前だろう!? 」
「あ、ああ。けど大丈夫。この通り」
 シズはそう微笑んだが、首根っこ掴まれた。
「うおっ! 」
「見た目が大丈夫でもどっか悪いかもしれねぇだろーが! ドクターの所行くぞ! 」
 まさに文字通りトムソンに引きずられ、シズはドクターの所に連れて行かれた。
「うむ。今の所は大丈夫そうじゃ。けど油断は禁物。安静に。なんか違和感あったらすぐに来い」
「すいません」
 診察を終え、シズは頭を下げる。ドクターが器具を片づける。トムソンは壁際の診察台に腰掛けていた。
「橋から飛び降りたそうじゃな」
「はい」
 返事をしながら、シズはシャツのボタンを留める。
「なぜだ」
 寝癖を直すためです。なんて冗談を返す空気ではない。
「仕切り直そうと思って」
「はあぁ? 」
 ドクターは眉間に皺を寄せた。シズは自分の手を見た。傷はもうほとんど治っている。
「私、アベンチュレから逃げてきたんです」
「最初からワケ有りだと思ってたよ」
 トムソンが、シズの手を眺めていう。
「ミメ・ルーは偽名です。本当の名前はシズ・カンダといいます」
 そう言って頭を下げた。
「カンダか……」
「はい」
 ドクターに頷く。そして間を置いて続けた。
「さっき生きている事に理由はないと言ったな? 」
 お昼を食べた時に話した事だ。
「生きていく理由はない。だが、生きてこられた理由はある。例えば、トムソンならアンがいたから生きてこられた」
 トムソンを見る。トムソンは表情を変えなかった。
「けどアンさんは人生の理由は成功者の後付けか失敗した時の言い訳に必要になるだけだって」
「後付けも言い訳も必要だ。やった事を消せないのが人生だ。少しぐらいごまかさないと生きていけん」
どんなに消えたくても、存在は消えない。じゃあ消えてもそれこそ意味がない。死んでも逃げられないなら生きるしかない。シズはそう納得した。
「……そうですね」
「人生はちゃんと終わる。思い通りにはきっと終れないが、この世は思い通りにいかないもんばっかだ。とりたてて特別な事じゃない。人はちゃんと死ぬ。ちゃんと終わりが来る。お前さんにもわしにも。人生を大切にしろと説教している訳じゃない。そりゃあ、大切にできない時間もある。わしもあった。人生を粗末にしたくても簡単に死ねない。いくら大切にしてもいつか死ぬ。それは自分のせいでもないし、誰かのせいでもない。明確な何かのせいにはできない。そんな不親切な中で、絶望は探さなくていいからな」
 シズは自分で絶望に縋りついていたのかもしれない。それこそ目を皿にして取り零さないように理不尽を集めてここの世界にいる時間を粗末にしていいと決めつけていた。家族やカケルの事を思い出すとどうしようもなく寂しくなるのは嘘ではない。シズがいなくなったあとどうなっているかいつもどこかで考えていた。これからもずっと考えるだろう。死ぬまで考えるだろう。けどもう戻れない。家族やカケルがどんなに心配していようとも、シズは「元気だ」と言えることもできない。酷い話だ。この酷い話にどんな言い訳を付ければいいだろう。
「はい」
 今のシズにはいい言い訳は思いつかない。時々どうしようもなく寂しくなる。それ以外どうしようもない。けどそれが絶望ではないという事だけ分かっている。
「いつ帰るんだ」
「明日の夕方の船に乗ります」
「そうかい。また機会があればオードに来い。飯ぐらい奢ってやる。トムソン、アパートまで送ってやれ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...