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逃亡編
再起
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シズは理不尽と同時に時間を与えられたのか。スイドは時間が欲しかったのだろうか。それがどんなにつらいものだとしても。
「理由や意味に惑わされるな。その一番上にある心を知れ。それに意味の辿りつくところも結局、心だ」
心なんて分からない。
昼食を食べてドクターの家を出た。シズはグレーアパートの方に足を向けたがすぐに踵を返しどこかへ歩いた。とにかくじっとしていたくなかった。頭の中がぐるぐる回って気持ち悪くなりそうだった。結局、自分はどうすればいい。ミメ・ルーとしてひっそりと生きていくのが正解なのか。望んでいないものが正解なのか。なんで私はここにいる? ああ、意味なんてないんだ。生きているから理不尽に会って、生きているから身体がある場所に立っている。
シズは気が付くと橋の上だった。大河にかかる大きな橋の上だ。ミトスも理不尽なんてものを考えるより先に生きようと思ったのかもしれない。命が鼓動し呼吸しているという事実。シズは事実をまだ、何も知らない。頭が悪いのに意味とか理由とか存在意義と小難しい事考えて、自暴自棄になって、自分はどうにもならない事ばかり考えていた。まだどうにかなる事実を何も知らない。シズは橋の欄干の上に飛び乗った。
「何をしている?! 」
シズは背後から怒鳴られた。どうあがいても絶対に元の世界には戻れない。それも事実だ。後ろを振り返る。
「寝癖直すんだ」
シズは欄干から飛んだ。裂いた空気が肌を刺す。耳はゴウゴウとなった。そして水の中に落ちた。
死んだ方がよくても死ぬ事は義務ではない。かと言って、生きる事も義務ではない。
世界は常に私の傍にあるのに必ず味方をしてくれる訳ではない。まったくもって、理不尽だ。その理不尽の中になぜか味方がいる。
シズはどこかへ行きたいと思っていた。もう行って帰ってきた身体なのだけれど。どこへ行ってもこの身体はある。死んでもこの身体はこの身体のままだ。逃れられない。
この世界に私の意味も理由もない。けど残念ながら、心はある。命もある。自分の心が世界の全てだ。だから生きよう。生きているのだから生きていこう。
シズは水を掴む。そして水面を目指して泳ぐと自ら顔を出した。顔の水を拭う。そして、息を吸い込んだ。世界を飲み込めるように大きく吸い込んだ。苦しくなるまで吸い込んで飲み込んだ。すると気のせいだろうが、凄く高い所から自分を見下ろしている気持ちになった。シズは世界を見ている。シズの中にある大きな世界を見ている。そう思えば、シズは自然と笑えた。
「川に飛び込んで笑うとはやっぱり変な奴だな、貴様は」
聞き覚えのある声にシズは顔を上げる。いるはずのない男がいた。
「カル・セドニ! 」
小舟からセドニから呆れた顔で、シズを見ていた。船を漕いでいる男が「綺麗な飛び込みだった」といつかの誰かのように称賛してくれた。
「他国で迷惑かけるなと言ったのを忘れたか」
「すいません」
シズは素直に謝った。カル・セドニはため息を吐いた。そして、シズに手を伸ばした。
「さっさと乗れ」
シズが水面から手を出すとカセドニの手を掴んだ。なんやかんやで手を差し伸べてくれるこいつは味方だとシズは信じた。船に乗るとセドニがすいません陸まで戻ってください、とオールを持った男に頼んだ。
「ってか、セドニ副局長はなんでここに? 」
「仕事だ」
「仕事? 」
「お前をアベンチュレに連れて帰る」
シズは八局棟から逃げた、脱獄犯だ。
「けどなんで、あんたが? 」
七局員の仕事には思えない。
「……事情がある。全部話してやる。お前は俺の事を少なからず疑っているようだしな」
「え? 」
「だが先に風呂入って、着替えろ」
「寝癖直ったからもういいけど」
セドニが睨む。シズは両手を上げる。
「了解です」
セドニは着ていた茶色のジャケット(・セドニ私服だった)をシズの頭からかぶせた。
「……生きいてよかった」
「え、なんて? 」
ジャケットを頭からとると、シズは聞き返した。セドニは何とも言えない難しい顔をした。
「ため息だ」
「そうですか」
シズは何度も謝った。
「理由や意味に惑わされるな。その一番上にある心を知れ。それに意味の辿りつくところも結局、心だ」
心なんて分からない。
昼食を食べてドクターの家を出た。シズはグレーアパートの方に足を向けたがすぐに踵を返しどこかへ歩いた。とにかくじっとしていたくなかった。頭の中がぐるぐる回って気持ち悪くなりそうだった。結局、自分はどうすればいい。ミメ・ルーとしてひっそりと生きていくのが正解なのか。望んでいないものが正解なのか。なんで私はここにいる? ああ、意味なんてないんだ。生きているから理不尽に会って、生きているから身体がある場所に立っている。
シズは気が付くと橋の上だった。大河にかかる大きな橋の上だ。ミトスも理不尽なんてものを考えるより先に生きようと思ったのかもしれない。命が鼓動し呼吸しているという事実。シズは事実をまだ、何も知らない。頭が悪いのに意味とか理由とか存在意義と小難しい事考えて、自暴自棄になって、自分はどうにもならない事ばかり考えていた。まだどうにかなる事実を何も知らない。シズは橋の欄干の上に飛び乗った。
「何をしている?! 」
シズは背後から怒鳴られた。どうあがいても絶対に元の世界には戻れない。それも事実だ。後ろを振り返る。
「寝癖直すんだ」
シズは欄干から飛んだ。裂いた空気が肌を刺す。耳はゴウゴウとなった。そして水の中に落ちた。
死んだ方がよくても死ぬ事は義務ではない。かと言って、生きる事も義務ではない。
世界は常に私の傍にあるのに必ず味方をしてくれる訳ではない。まったくもって、理不尽だ。その理不尽の中になぜか味方がいる。
シズはどこかへ行きたいと思っていた。もう行って帰ってきた身体なのだけれど。どこへ行ってもこの身体はある。死んでもこの身体はこの身体のままだ。逃れられない。
この世界に私の意味も理由もない。けど残念ながら、心はある。命もある。自分の心が世界の全てだ。だから生きよう。生きているのだから生きていこう。
シズは水を掴む。そして水面を目指して泳ぐと自ら顔を出した。顔の水を拭う。そして、息を吸い込んだ。世界を飲み込めるように大きく吸い込んだ。苦しくなるまで吸い込んで飲み込んだ。すると気のせいだろうが、凄く高い所から自分を見下ろしている気持ちになった。シズは世界を見ている。シズの中にある大きな世界を見ている。そう思えば、シズは自然と笑えた。
「川に飛び込んで笑うとはやっぱり変な奴だな、貴様は」
聞き覚えのある声にシズは顔を上げる。いるはずのない男がいた。
「カル・セドニ! 」
小舟からセドニから呆れた顔で、シズを見ていた。船を漕いでいる男が「綺麗な飛び込みだった」といつかの誰かのように称賛してくれた。
「他国で迷惑かけるなと言ったのを忘れたか」
「すいません」
シズは素直に謝った。カル・セドニはため息を吐いた。そして、シズに手を伸ばした。
「さっさと乗れ」
シズが水面から手を出すとカセドニの手を掴んだ。なんやかんやで手を差し伸べてくれるこいつは味方だとシズは信じた。船に乗るとセドニがすいません陸まで戻ってください、とオールを持った男に頼んだ。
「ってか、セドニ副局長はなんでここに? 」
「仕事だ」
「仕事? 」
「お前をアベンチュレに連れて帰る」
シズは八局棟から逃げた、脱獄犯だ。
「けどなんで、あんたが? 」
七局員の仕事には思えない。
「……事情がある。全部話してやる。お前は俺の事を少なからず疑っているようだしな」
「え? 」
「だが先に風呂入って、着替えろ」
「寝癖直ったからもういいけど」
セドニが睨む。シズは両手を上げる。
「了解です」
セドニは着ていた茶色のジャケット(・セドニ私服だった)をシズの頭からかぶせた。
「……生きいてよかった」
「え、なんて? 」
ジャケットを頭からとると、シズは聞き返した。セドニは何とも言えない難しい顔をした。
「ため息だ」
「そうですか」
シズは何度も謝った。
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