【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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逃亡編

ライター

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「カルセドニー工場から回収した時の数、覚えてる? 」
 セッシサンはこめかみを指で叩く。
「ニコチン中毒でもここはしっかりしていますから。あとで報告に行く」
「杞憂で終わると思っているけどね」
 二人は他愛のない話をしながら外へ出ると、別々方向へ行った。セッシサンは三局で地下倉庫の鍵を借りる。ついでに過去の貸出記録を軽く見た。一か月以内に地下倉庫の鍵を貸出した記録はない。地下倉庫に入ると、四局が使っている棚へ行く。右から三つの一番下の箱。その蓋を開けると南京錠がかかったケースがある。このケースの底には重しが詰めてあり、持ち運べないようになっている。ポケットから鍵を出す。銃の部品を隠しているケースの鍵はセッシサンが管理していた。鍵を開けて中身を確認する。そして数える。もう一度数える。願いを込めてもう一度数える。そして蓋を閉じて鍵をかけ、頭を抱える。
「やべぇぞ、こりゃあ」
 銃の部品は二セットずつなくなっていた。

 七局フロア。
 コッパー・プライト七局長はカレンダーの前に立っていた。十五日から二十一日まで→が引いてある。その下に「セドニ副局長、長期休暇」と書いてある。今日は二十六日。ダズ・セドニは長期休暇を終えて、六日経っても休んだままだ。
「セドニ大丈夫なのか? もしかして入院しているとかないよな?」
 プライトが七局員達に聞く。事務作業をしながら女局員のマゾナが言う
「流行り風邪って言ってたじゃないですか? 新聞読みました? 局長」
「あれだろ? かかると一週間は治らないって風邪。四局もそれだったぽいな」
「そうですよ。運悪く長期休暇の最終日にかかったんですよ。旅行先で菌貰ったんですよ。あの人働き過ぎだからいいんじゃないですか? 典型的な仕事人間ですし、風邪でもひかなきゃ休まないでしょうよ」
「そうだけど俺、困るわ。あいついないと困るわ」
「去年も学校の教官でいなかったじゃないですか」
「だから大変だったじゃないか」
「来週には戻って来ますよ。局長今日は午後から外で会議ですよ。もう出ないと遅刻します」
「あ、そうだ」
 ペルセは慌てて準備して、残っていた仕事をブルファに渡した。マゾナは嫌な顔をしたが時間を気にしてエレベーター前まで走る。少し待ってエレベーターの扉が開いた。
「お、カルカ」
 エレベーターに乗っていた思わぬタイミングで、プライトに会ったのに驚いたが、カルカは顔には出さなかった。
「お疲れさまです」
「お疲れ。カルカも一階まで降りるの?」
「はい」
「じゃあ同じだ」
 エレベーターのドアが閉まり、下降する。カルカはポケットに手を入れる。
「プライト局長」
「なんだい? 」
「どうしてセドニに嘘を吐いたんですか? 」
 プライトは怪訝な表情をカルカに向けた。
「嘘? 」
「セドニに聞いた事があります。一昨年の暮に、あなたの姪に駅であった事があると。確か、インデッセに留学したと」
 プライトは黙ったままだった。
「確かにあなたにはひとり姪はいます。けれど今年で十二歳。セドニの話の姪と比べて幼過ぎる」
 プライトが黙っている事を気にも止めず、カルカは話続ける。
「それにセドニは姪の顔をしっかりと見たそうです。あなたはごまかせたと思っていたんでしょうけど」
 プライトは額から汗を流し、口を開けた。
「セドニは今月いっぱい出てきませんよ」
「え? 」
「我々がそうさせました」
 音が鳴る。一階に到着した。カルカはポケットから手を出すとプライトの方に向けた。プライトは恐れながら掌を開いた。
「セドニはずっと前から分かっていましたよ」
 カルカはプライトの掌にライターを置くと微笑んだ。扉が開く。
「話はいつでも聞きますから」
 カルカはエレベーターを降りるが、プライトは降りなかった。
「あ! 乗ります! 」
 走って来たラリマがカルカとすれ違い、エレベーターに乗る。
「すいません」
「降りないのかい? 」
 操作人のおやじが尋ねる。
「え? 」
 ラリマは乗ったばかりの自分に言われたと思ってショックを受けた。
「……ちょっと忘れ物です。五階に戻ってもらえますか」
「あいよ」
 ラリマは自分に言われていないと安心した。そしてプライトの手にライターがあるのが目に入った。閉まる扉の向こうを見る。その先にラリマはしっかりとカルカの背中を見た。そしてプライトの横顔を見る。その表情はラリマが見ても焦りに満ちた顔であった。

 カルカはブラックコーヒーを頼むとテラス席に出た。すると、ホイップにキャラメルソースかけてナッツをちりばめたカフェラテを飲んでいるバライトを見つけた。傍までくると言った。
「ビンゴでした」
 口にホイップをつけてバライトはカルカを見上げた。カルカはバライトの向かいに座るとナプキンを押し付けた。バライトはそれを受け取って口元を拭った。「ライター」の意味をプライトの耳に入るようにカルカはワザと情報を流した。アンブリ一局長、九局の人間以外が隠語の意味を知った時点でもう使えない、使えないついでに利用したのだ。
「部下に裏切られたのね、可哀想だね」
 バライトは楽しそうに笑った。
「咄嗟の嘘としても姪ではなくまだ、友人の娘だとすればよかったんですよ。根はいい人そうですからね。詰めが甘かったです」
「そうだな。姪っていうのが嘘ってセドニでも分かったもんな。それで渡航履歴調べて、不可解な部分があった。きっとプライトが何かしたんだろう。それで俺達に売ってきた。上司がスパイ行為に関与しているかもしれない」
「どっちかというと上司の身の潔白を証明して欲しかったんだと思いますよ」
「だろうな。けど、学生時代のカンダに会ったのにプライトは驚きひとつ見せなかった」
 バライトはホイップをスプーンで掬い舐めた。
「カンダの顔は姪にそっくりだったのに。姪の顔を一瞬見たセドニでさえ、カンダの顔を見た時に驚いた」
「そしてその姪が、」
「女装したミトス・スイドだな」
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